お目覚めのキス 時折、カカシの指がページを捲る音がする以外、部屋の中は静かだった。 外はいい天気だ。差し込む太陽の光で、部屋の奥でも本を読むのに支障がない程。 それに、開け放たれた窓から爽やかな風が僅かに吹き込んできている。 読書するには最適な環境の中、奥にある居間の壁に凭れて座り、一人愛読書を読んでいたカカシは、本に落としていた視線をふと上げた。 上げた先、壁に掛けられた時計が思っていた以上に時間の経過を教えてくれる。カカシはそれを見ながら、もうこんな時間かと小さく溜息を吐いた。 このままでは、せっかくの貴重な休日が本を読むだけで終わってしまう。 (そろそろ起こすか・・・) 片手に持っていた本をパタンと閉じ傍らに置くと、カカシは立てた片膝に手を置き、よいしょと立ち上がった。 閉め切った遮光効果抜群のカーテンのお陰で、寝室内は薄暗い。寝るには最適な環境だろう。 そこに一歩足を踏み入れたカカシは、ハァと小さく溜息を吐いていた。 (遮光が過ぎるのも考えものだな・・・) そのカーテンを買ったのは自分のくせにそんな事を思いながら、布団がこんもりと盛り上がったベッドの側に歩み寄る。 上から布団の中をそっと覗くと、愛しい恋人であるイルカが布団に包まり幸せそうな顔で眠っていて、それを見たカカシは、ふと小さく苦笑してしまっていた。 眠っているイルカはいつ見ても本当に幸せそうで、見ているこちらまで幸せになってしまう。 起こすのが躊躇われるほどなのだが、外では太陽がかなり高いところまで昇ってしまっている。時刻はもうすぐ昼食の時間だ。カカシもだが、朝食を食べていないイルカも腹が空く頃だろう。 普段のイルカならとうの昔に起き出している時間なのだが、未だに眠っているのには訳がある。 今日は久しぶりに二人揃っての休日とあって、昨夜のカカシはいつも以上にしつこかった。自分でも反省している所だ。もう無理ですと涙ながらに言うイルカをまぁまぁと宥め、カカシは何度その身体を抱いたか知れない。 受け入れる側の方が身体の負担が大きい。無理をさせた自覚は嫌という程にあったから、ゆっくり寝かせようとイルカが起きてくるまではと起こさずにいたのだが。 カカシから再び小さく溜息が漏れる。 イルカが気絶するように眠りに落ちたのは夜半をゆうに過ぎた頃だったが、そろそろ起きて欲しい。せっかく二人揃っての休日なのに、イルカがこれでは一人で居るのと変わらない。 ベッドの端に腰掛ける。 「イルカ先生」 そう声を掛けながら、布団をゆっくり捲る。 「おーきーて?」 イルカが抱き込んでいる布団をスルスルと抜き取りながら、腹の辺りまで捲っていく。 寝る前、カカシがキチンと着せ掛けてあげたはずの浴衣は寝乱れてしまったのだろう。大きく肌蹴た浴衣の襟首から、イルカのしっとりとした肌が覗いている。そこには、カカシが昨夜付けた赤い華がいくつも散っていた。 (いやらしい格好だコト・・・) カカシが愛した証拠だ。情事の匂いをまだ濃厚に纏っているイルカの身体に愛しさが募る。 ふと小さく笑みを浮かべながら、イルカの耳元に顔を寄せる。 「起きて、イルカ先生」 「んん・・・」 顔を顰め、起きたくないと主張するイルカの頬に手を沿え、軽い口付けを一つ落とす。 「もうすぐお昼の時間だよ?そろそろ起きないと。イルカ先生もお腹空いたでしょ?」 そう声を掛けるのだが、イルカの瞳が開かなくて困ってしまう。 イルカへと倒していた身体を起こし、大きく溜息を吐く。 (どうしましょうかねぇ・・・) 無理をさせたのはカカシだが、出来れば起きて欲しい。 一人で昼食を作るのは全く構わないのだが、それを一人で食べるなんて味気ないではないか。それに、外はこんなにもいい天気なのだ。食事の後、イルカの体調が良ければ少し出かけたい。 「イルカ先生」 手を伸ばし、イルカの頬を擽る。 「ん・・・」 イルカの顰められた眉と僅かに開かれた唇に、昨夜のイルカの痴態を思い出す。 再びイルカへと身体を倒す。 「起きないと・・・キス、しちゃいますよ・・・?うんと濃厚なの。・・・いいの?」 囁くようにそう宣告してみても、イルカの瞳は開かない。開かないのならしても構わないのだろうと勝手に解釈して、カカシはイルカの唇にそっと口付けを落とした。 先ほどとは違い、今度は深く口付ける。 「んん・・・っ」 僅かに開いていた唇の隙間から舌を中へと滑り込ませると、イルカの身体がピクンと反応した。 ピッタリと隙間無く唇を合わせ、くちくちと音がする程にイルカの舌を弄る。昨夜の情事を思い起こさせるような口付けだ。 起きたのだろう。イルカの息が上がり始める。うっすらと瞳を開けてイルカを伺うと、ぎゅっと目を閉じ、上気した頬で懸命にカカシの口付けを受けているのが見え、カカシはふと目元を緩めた。 朝から濃厚なキスを仕向けるカカシの身体を、イルカの力の入らない手が押し上げてくる。 だが、カカシはその手を取りシーツへと縫いとめた。イルカの抵抗をものともせず、イルカの咥内を堪能する。 「んぅ・・・っ、ん・・・っ」 イルカの鼻から抜ける甘い吐息が堪らない。イルカの唾液を啜り、カカシの唾液を注ぎ込む。 そうやってたっぷりとイルカとのキスを堪能した所でようやく解放すると、イルカはクタリと力を無くしてしまっていた。 「・・・おはよ、イルカ先生。起きた?」 ふと小さく笑みを浮かべ、イルカの濡れた唇を指先で拭いながらそう訊ねると、イルカの瞳がようやく開き、すっかり潤んだ瞳がカカシを見上げてきた。小さく頷く。 「・・・おはよう、ございます・・・。出来れば、普通に起こして欲しかったです・・・」 そう言いながら身体を起こそうとするイルカを支えてやる。 「おや。オレは最初ちゃんと普通に起こしましたよ?それでも起きなかったから、キスで起こしただけで」 ニッコリと笑みを浮かべてそう告げると、イルカは「う」と呻った後、「すみません」と謝ってくれた。 ふと笑みを浮かべてヨシヨシとイルカの頭を撫でる。 「ううん。オレの方こそ、昨夜は無理させてゴメンね?身体、大丈夫?」 そう訊ねると、イルカの頬がかぁと羞恥に染まった。カカシから僅かに視線を逸らして「はい」と頷く。 可愛らしい表情を見せるイルカにふと笑みを浮かべたカカシは、イルカの頬に一つ口付けを落とすと、ベッドから立ち上がった。 「今日は凄くいい天気ですよ。お昼食べたら、ちょっとお出掛けしましょうか」 寝室のカーテンを引き開ける。外は雲一つ無い青空が拡がっており、こんな日に家の中に居るのは勿体無いだろう。 弁当を作って、外で食べてもいいかもしれない。 そんな事を思いながらイルカを振り向く。すると。 「お昼、弁当作りませんか?外で食べた方が美味しそうですし」 ベッドに腰掛け、髪を高い位置で結っているイルカから、そんな事を言われた。カカシの顔に嬉しさからふと笑みが浮かぶ。 「オレもおんなじ事考えてた」 そう告げると、イルカも嬉しそうな笑みを浮かべてくれた。 窓の外へ再び視線を向ける。 こんなに澄み切った青空の下、イルカと二人で食べる弁当はさぞかし美味しいだろうなとカカシは思った。 |