デザートキス それは、甘く甘い―――。 とある日の夕食後。 「アカデミーでお裾分けされたんです」 そう言ったイルカが台所の冷蔵庫から取り出したのは、大振りのイチゴがたっぷりと乗った随分と甘そうなケーキだった。 「カカシさんは・・・」 ケーキの乗った皿を手に振り返ったイルカから視線を向けられ苦笑する。 「食べませんよ。・・・ソレ甘そうだから、渋めのお茶、淹れてあげるね」 開いていた愛読書を閉じながらそう言って、座っていた座布団からよいしょと立ち上がる。そうしてカカシは、イルカと入れ替わるように台所に立った。 「・・・ですよね。すみません、ありがとうございます」 そんなカカシに苦笑を返しながら、イルカが卓袱台に着く。 カカシと同じくイルカも甘いものはそれ程得意では無いはずだが、カカシとは違い、イルカは捨てるなどという罰当りな事は決してしない。 その事を褒めると、イルカは「俺は食い意地が張ってますから」と苦笑するのだが、イルカが捨てないのは、それをくれた人に対する優しさなのだろうとカカシは思う。 イルカが、クリームをたっぷりと纏ったスポンジを口元に運ぶ。 「あ、そんなに甘くない・・・」 美味しかったのだろう。口の中に入れた途端、そう呟いたイルカの相好が崩れた。 可愛らしいその表情にお茶を準備するカカシの相好も崩れそうになったが、台所にまで漂ってくる甘い匂いに眉根が僅かに寄ってしまう。 少し長めに蒸したお茶をイルカお気に入りの湯呑みへと注ぐ。ついでに自分の湯呑みにも注ぐと、カカシはそれらを手に居間へと戻った。 「どうぞ」 イルカの目の前に湯呑みを置く。すると、美味しいからと口いっぱいにスポンジを頬張ったのだろう。子供のように頬を膨らませたイルカが見上げてきた。 さらには、ありがとうございますと笑みと会釈でそう伝えられ、そのあまりの可愛らしさにカカシの相好が盛大に崩れてしまう。 「いえいえ。美味し?」 自分の湯呑みも卓袱台に置き、座布団へと腰を下ろしながらそう訊ねてみると、余程美味しいのかニッコリと笑みを浮かべたイルカが大きく頷く。 イルカが幸せそうな顔をしてそこに居るだけで、カカシまで幸せな気分になってしまうから不思議だ。 「そっか。美味しいケーキ貰えて良かったね」 そう言って柔らかな笑みを浮かべたカカシに、再び頷いて見せていたイルカが、カカシさんも食べてみますか?とばかりにスポンジを差し出してくる。 それに苦笑しながら首を振って見せたカカシは、お茶の良い香りを漂わせている自らの湯呑みを手にした。熱いお茶を一口啜る。 お茶の渋みと良い香りが、口の中にまで拡がりそうになっていたケーキの甘い香りを消してくれてホッとする。 「イルカ先生が食べて?オレはあなたが食べてるのを見てるだけで充分」 「・・・そんなに甘くなくて美味しいですよ?」 口の中に入れていたケーキをようやく飲み込んだらしいイルカが、小さく首を傾げながら再度そう勧めてくる。いつの間に付けたのか、その口端にクリームを付けて。 それを見たカカシは、つい小さく噴き出してしまっていた。 「・・・?」 クリームが付いていると気付いていないらしいイルカの首がさらに傾ぐ。 「あぁもう・・・」 手にしていたお茶を卓袱台に戻したカカシは、その身体を倒し、イルカの口元に唇を寄せた。ちゅっと音をさせて、付いていたクリームを取ってあげる。 イルカの言う通り、そのクリームはそれほど甘くなく美味しかった。 「・・・クリーム付いてた」 驚いた表情を浮かべているイルカに、ふと笑みを浮かべながらそう告げる。すると、途端にイルカの顔が真っ赤に染まった。ボンッと音がしたのではないかと思うほど一気に。 「言ってくれれば自分で取ります・・・っ」 子供のようにクリームを顔に付けていたのが恥ずかしかったのか、それとも、それをキスで取ってもらったのが恥ずかしかったのか。 呻るようにそう言ったイルカが、恨めしそうにカカシを睨んでくる。 「あなたがあんまり美味しいって勧めるから、ちょっとだけ食べてみたくなったんですよ」 そんなイルカに苦笑して見せながらそう言い訳する。 「食べたかったなら、こっちを食べればいいじゃないですかっ」 そう言ったイルカに、再度スポンジを目の前に差し出され苦笑を深める。 「だってねぇ・・・」 目の前にある甘い香りを漂わせるスポンジを避け、イルカの唇へ素早く顔を寄せる。それに気付き、逃げようとするイルカからちゅっとキスを掠め取ったカカシは、ふと柔らかな笑みを浮かべて見せた。 「コッチの方が甘くて美味しいもの」 「・・・っ」 恥ずかしくて堪らないのだろう。カカシのその言葉にイルカが絶句する。 (かわいい) 羞恥に顔を真っ赤に染めたイルカは可愛らしく、ケーキなどよりも随分と美味しそうにカカシには思えた。イルカに再度顔を寄せる。 「もうちょっと食べてもいい・・・?」 「な・・・っ、んん・・・ッ!」 そう訊ねておきながらイルカの答えを聞く事無く、カカシは戦慄くその唇を塞いだ。開いていた唇の隙間から舌を侵入させる。 抵抗しようとするイルカの手を取り指を絡ませ拘束すると、カカシは愛しいイルカとの口付けに集中した。 ケーキを食べていたからだろう。いつもよりもかなり甘く感じるイルカとの口付けを堪能する。 残っていた甘さを全て舐め取るくらいの丁寧さで、かなり長い時間を掛けて愛撫を施していたら、気付けばイルカの身体はくたりと力を無くしていた。口付けを解いた途端、カカシの胸元に崩れ込んだイルカを覗き込む。 「・・・大丈夫?」 すると、とろんと蕩けた漆黒の瞳がカカシを見上げてきた。上気した頬や、ぽってりと桜色に色付いた唇と、イルカが纏う艶やかな色気にカカシの劣情が刺激される。 (あらら・・・) ちょっとのつもりだったのだが、どうやらそうも言っていられなくなってしまった。熱を持っているイルカのアンダーの中に手を滑らせ、その肌をゆっくりと思わせぶりに撫でる。 「全部食べたいって言ったら怒る・・・?」 声にも情欲を滲ませながら小さくそう訊ねてみると、きゅっと眉根を寄せたイルカがぷいと顔を逸らした。 イルカはケーキを食べている途中だ。やはり拒絶されるだろうかと思ったのは一瞬だった。 「このまま残したら怒ります・・・っ」 本当に小さく小さく告げられたその言葉に、カカシの顔が盛大に綻んでしまう。 「・・・残すわけないでしょ?」 頂きますと心の中で合掌し、カカシは顔を逸らしているイルカの首筋へと顔を埋めた。 |