2010年バレンタイン企画 涙のキス 大き目の箱に入った色とりどりのチョコレート菓子。 カカシと同じく、甘いものは少々苦手なイルカではあるが、疲れた時には無性に甘い物が欲しくなるらしい恋人の為とカカシが選んで購入した物だ。 日持ちする物だからと、小さなチョコレート菓子が大量に入ったその箱をカカシがイルカへ贈ったのは、バレンタインの一週間前。 任務が入ってしまい、バレンタインまでに戻れるか分からないからと先に渡しておいたのだが、どうやらそれは間違っていたらしい。 急いで任務を終わらせ、バレンタイン当日に帰還したカカシがイルカの家に向かってみると、チョコレート菓子が大量に入っていたはずの箱は、あろう事か空になっていた。 眉間にくっきりと皺を寄せて座るカカシの目の前。 畳にちょこんと正座したイルカの俯く顔には、チョコレート菓子を大量に食べたからだろう。小さな吹き出物があちらこちらに出来てしまっている。 「あんなにいっぱいあったのに・・・。チョコ、全部食べちゃったの?」 「う・・・」 カカシのその問い掛けに、俯くイルカがその身体をより小さく縮める。それを見たカカシから、はぁと小さく溜息が零れ落ちる。 「少しずつ食べてって言いましたよね?」 そう言いながら、カカシはその手をイルカの首筋へと伸ばした。 忍服で隠れない位置にある赤い痕。カカシが付けたくても付けられない位置に出来ている小さな吹き出物が忌々しい。 直接触れたりしないよう気を付けながら、いつも曝け出されている艶かしい首筋に指先をそっと添える。 「こんな所にも出来て・・・。節分の時も、後で吹き出物がいっぱい出来て大変だったでしょ?もう忘れたの?」 節分の時もそうだ。止めておきなさいと言ったにも関わらず、イルカは律儀に年の分だけ豆を食べ、その後大量の吹き出物を作った。 イルカは男だ。吹き出物が出来るだけなら、カカシもこんなに苦言を呈したりしない。 だが、肌に出来た異物が気になるのか、吹き出物が出来ると、イルカは必ずと言って良いほどそれを触ったり、最悪の場合、化膿した物を潰してしまうのだ。 眉間に皺を寄せて見つめるカカシの視線の先。 健康的な肌に真っ赤な血を滲ませ、既に潰れてしまっているいくつかの吹き出物が痛々しい。 「・・・ごめんなさい・・・」 反省しているのだろう。イルカがしゅんと落ち込んだ表情を浮かべる。 それを見て可哀想だとは思ったが、一度ならまだしも、二度までも同じ事をしたのだ。簡単に許しては駄目だと、心を鬼にして怖い顔を保つ。 「美味しかったし、それに・・・」 「それに?」 「・・・口寂しくて、つい・・・」 それを聞いたカカシの眉間から、それまで消える事の無かった皺があっさりと消える。表情が和らぐ。 「・・・オレが居なくて淋しかったの?」 硬かった声までも優しく響かせながらそう訊ねてみると、俯くイルカからこくんと小さく頷かれてしまった。 (・・・うわ、かわいい・・・) それを見たカカシの相好がじわりじわりと綻んでいく。 心底惚れている恋人のそんな顔には滅法弱いカカシだ。いつになく素直で可愛らしい仕草を見せられ、怖い顔なんて保てなくなってしまう。 仕方が無いかと一つ溜息を吐く。 「・・・もう一気に食べちゃダメですよ?イルカ先生」 優しさを増した声と、その言葉で許して貰えたと分かったのだろう。それまで顔を上げる事の無かったイルカが、ようやく顔を上げる。 だが、少々叱り過ぎてしまっただろうか。おずおずとカカシを窺うイルカの漆黒の瞳が潤んでしまっている。 もう怒ってませんよと安心させるように苦笑を浮かべて見せたカカシは、それを見てホッとしたような笑みを小さく浮かべて見せてくれたイルカの腕を取り、その身体をそっと引き寄せた。ぎゅっと抱きついて来た可愛らしい恋人の暖かい頬に手を沿え、顔を上げさせる。 だが。 「・・・コラ。どうして避けるの」 互いの唇が触れる寸前、何かを思い出したのか、ハッとしような表情を浮かべたイルカに口付けを避けられてしまった。 「いえ、そのっ」 イルカが、見つめるカカシから気まずそうに視線を逸らす。 「・・・口の中にも出来てて・・・っ」 小さな声でもごもごと伝えられたその言葉を聞いたカカシの眉間に、再度くっきりと皺が寄る。 (また・・・っ!?) 節分の後にも同じ理由でキスを拒絶されていた。 キスをお預けされた状態でそのまま任務に向かう事になってしまい、イルカとのキスに餓えていたカカシは、戻ったら思う存分イルカとの甘いキスをと、それはそれは楽しみにしていたのだ。 十日だった任務期間を、頑張って三日も早く終わらせて戻って来た程に楽しみにしていたというのに再度お預けされ、カカシの中で何かがぷつんと切れる音がした。 「ぅわ・・・っ」 イルカを畳の上に押し倒し、その両手を拘束する。 「何するんですか、カカシさん・・・っ!」 「んー?オレの言う事を聞かずにぜーんぶチョコ食べちゃった悪いコにお仕置き」 「な・・・っ、んん・・・っ」 ニッコリと笑みを浮かべて見せながらそう告げ、抗議しようと僅かに開かれていたイルカの唇へと口付ける。 痛むのだろうか。口腔内をねっとりと舐め上げていくと、きつく眉根を寄せるイルカが、漆黒の瞳をぎゅっと閉じたその目尻に涙を浮かべる。 薄っすらと開けたままの視界の中でそれに気付いたカカシは、イルカの口腔内を犯す舌の動きを柔らかなものへと変えた。 お仕置きと言っても、痛い思いをさせたいわけではない。 口腔内でぷっくりと膨らんだ場所へは舌先で擽るだけにし、それ以外の場所を優しく丁寧に愛撫していく。 長い間お預けされていたイルカとのキスだ。 唇に痺れを感じ始める程に口付けていると、両手を拘束され、キスだけしか与えられない状態が辛くなってきたのだろう。もぞもぞと身を捩じり、カカシの口付けから逃げようとするイルカから、「もう、や・・・っ」という言葉が甘い吐息と共に出てきた。 「だぁめ。お仕置きなんですから、もうちょっと我慢」 「うー・・・っ」 カカシのその囁きを受けたイルカが、漆黒の瞳に涙を滲ませ悔しそうに呻る。 (かわいい) 恋人の可愛らしいその表情にふと笑みを浮かべると、カカシは再び、僅かに噛み締められたイルカの唇へ、愛しむような口付けをそっと落としていき。 お仕置きという名のキスは結局、イルカが泣き出してしまうまで続けられたのだった。 |