fragrance 3 「もう少しゆっくりしていけばいいのに」 問題が解決したところで、すぐにでも東京へ戻ると言う直江と高耶に、家族は玄関先でまでごねた。 特にごねている父と照弘に、直江は高耶を背中へ隠すと、 「今まで充分ゆっくりしてたでしょう?もうダメですよ」 と子供のような台詞を口にした。 仕方ない、と溜息をついた照弘は直江の後ろで頭を下げる高耶に、 「また遊ぼうね」 とひらひらと手を振った。 「説得しなくて済んで良かったな」 東京へと戻る車中、高耶が助手席でホッとした表情をしながら言った。 「理解ある家族で良かったですよ。・・・あなたを匿ったのは感心しませんが」 前を見たまま憮然とした表情を浮かべる直江の横顔をちらと見て、高耶は「ごめん」と謝罪した。 「・・・お前の家族、凄く暖かかった。お父さんもお母さんも、お兄さん達だってオレの事とても大切にしてくれた。オレはそんな人達からお前を奪っているのかと思ったら・・・」 俯き、膝の上でぎゅっと握る高耶の手に直江はそっと左手を重ねる。 「でも、それでも。オレはお前と離れるのが苦痛だった。みんなを悲しませてもお前を手放したくないと思った」 この2週間で自分の傲慢さはイヤになるほど思い知らされた。罪悪感を抱えて、それでも直江を想った。最後の理性で直江を突っぱねてはみたが、それも直江を欲する心の前にかき消えた。 「お前にも、・・・酷い事いっぱい言った」 そう言うと、高耶は運転する直江の横顔を見つめた。 「その事はもういいですよ。あれがあなたの本心なんかじゃない事は分かっていましたから」 赤信号でゆっくりと車を止めると、隣に座る高耶に笑みを向ける。 「・・・ただ、今後は本心じゃなくても私から離れるなんて言わないで下さい」 あなたを監禁してしまいそうになる。そう言って苦笑した直江に、高耶は「もう言わない」と約束した。 帰る途中夕食を食べ、2人が住むマンションに辿り着いたのは、もう夜遅い時間だった。 「ただいま」 真っ暗なリビングの電気を付けながら高耶が小さく呟いた。2週間ぶりに帰った家は、直江の匂いがした。 「・・・お帰りなさい」 高耶を後ろから抱き込み、耳元で囁く。2人の住む部屋で、腕の中に高耶を閉じ込めてやっと高耶が手の中に帰ってきたという実感が湧く。 「・・・うん」 自分を閉じ込める腕に手を添えると、後ろの直江に体を預け、もう一度高耶はただいまと言った。 しばらくそうしていた2人だったが、 「運転で疲れてるだろ?お風呂入れてくる」 と高耶が直江の腕の中から抜け出そうとするのを、「ダメですよ」と直江が止めた。 「お風呂よりも先にあなたを食べないと」 「なッ・・・!」 そう言って首筋をペロと舐め上げた直江に、高耶は舐められた部分をバッと手で押さえ振り返った。 「2週間もお預けでしたし。それに、さっきも途中で邪魔されましたからね」 もう我慢できません、と言った直江は高耶を抱き上げると寝室へと向かう。 「待ッ・・・」 「待てません」 「せめて風呂・・・んんッ」 素直じゃない煩い口は塞いでしまうと、直江は寝室のドアを開けた。 「今度は声、聞かせて下さいね・・・?」 激しいキスで朦朧とする高耶の耳に、そんな直江の声が聞こえた気がした。 |