久しぶり 「高耶さん・・・」 直江に後ろから抱きこまれ、高耶は手のひらを額へと押し当てた。 Copyright © ぞら様 男の愛用しているフレグランスが高耶を包み込む。 「オレはそんなつもりで来たんじゃ・・・」 「分かっています」 暇だった、ですよね?と耳元で微かに笑う気配と声がした。 その低い声と、背中に感じる熱は随分と久しぶりに味わうもので、高耶は強張っていた体から力を抜いてそっと男に体を預けた。 「随分と逢えなかったから淋しかったんですよ」 「それは・・・」 高耶が試験勉強で忙しかったせいで、1ヶ月近く逢えなかった。淋しかったのは高耶も同じだ。 「だから、あなたをもう少し感じさせて?」 高耶を抱き込んだまま、直江が瞳を閉じる。 その暖かい身体から徐々に力が抜けていくのを感じた高耶は、そっと後ろの男に声を掛けた。 「おい・・・寝るなよ?」 「寝ませんよ。あなたがいるのに」 この状態で直江に寝られたら、直江よりも小さい高耶は潰れてしまう。 それは困るから。でも、まどろんでいるのならそれを妨げたくは無くて小さくそう言った高耶に、男も小さく声を返してきた。少しだけ笑みを含ませて。 (疲れているくせに・・・) 高耶が忙しいから会えなかった期間だったが、直江の仕事も忙しかった事は、高耶だって気づいている。 あれほど掛けてきていた電話の回数が減ったし、送られてくるメールも短かった。 なにより今、高耶を抱き込んでくる直江の身体が少し痩せたと感じる。 「早く寝ろよ。疲れてるならオレ帰るし」 少し身を捩って直江を見ると、男は驚いた表情を浮かべた。 「何言ってるんですか」 直江がくるりと高耶の体を反転させ、再びその腕の中に閉じ込める。 「もう帰るなんて言わないで」 帰したくない、と高耶をぎゅっと抱きしめてくる。 (オレだって・・・) 高耶だって、帰りたくはない。 次に逢えるのはいつになるか分からないのだ。 せっかく逢えたのに、すぐにさよならなんて嫌だった。 「あの・・・さ」 高耶が小さく声を掛ける。 「オレ、今日は譲の家に泊まるって言って来てる・・・から」 直江の腕の中で高耶が首筋まで真っ赤になって、もごもごと言葉を綴る。 「だから、その・・・」 あぁ、適わないなと直江は思った。 真っ赤になりながらも、泊まりたいと言う高耶を愛おしいと思う。 「泊まっていってくれるの?」 その囁くような直江の言葉に、高耶は小さく頷いた。 林檎のように赤くなってしまっている顔を上げさせると、羞恥の為か少し潤んでいる瞳を覗き込む。 「キス・・・してもいい?」 「・・・聞くなバカ」 憎まれ口を叩く唇にちゅっと軽いキスを落とす。 一度触れてしまうと、もうダメだった。 食らいつくように高耶の唇を貪る。 「ん・・ふ・・」 高耶が口付けの合間に苦しそうに甘い吐息を吐く。 (我慢がききそうにないな・・・) 目じりに涙を浮かべながら直江の動きに必死で応えようとしている高耶の姿を、うっすらと瞳を開けて盗み見ていた直江は心の中で苦笑した。 「・・ん、はぁっ」 口付けを解くと、高耶は酸素を求めて大きく息を吐いた。 手はしっかりと直江のシャツを握り締めている。 そんな可愛らしい様子にふと笑みを浮かべると、直江はシャツを握っている手を掴み歩き出した。 「お、おい。どこに」 先程の口付けで足が覚束ない高耶が少しふら付きながらも着いてくる。 「ベッド」 ずんずんと進む直江は振り返らずに、一言そう言うと寝室へと続くドアを開けた。 「久しぶりにあなたを愛してあげる」 そんな事を言いながら、高耶を寝室へと促す男の手を。 高耶が振り払うことはなかった。 |