発売日 男の手が肩から背中へと移動する。 震えようとする身体を唇を噛むことで耐えながら、高耶は手にした雑誌に顔を埋めた。 「おや。読まないんですか?」 その耳元で直江が低く囁く。 「そんなに近いと読めないでしょう?」 微かに笑みを含んだ男のその台詞に、うるさいと噛み付いてやりたい。 けれど。 「ん・・・っ」 耳元で聞こえる男の囁くようなその声と息遣いに、高耶は首を竦めて漏れそうになる声を耐えるしか出来なくなっていた。 確かに、高耶が悪かったかもしれない。 でも、今日はずっと楽しみにしていたバイク雑誌の発売日で。 バイトの帰りにそれを買って、家に帰って寝室の広いベッドにうつ伏せで寝転んで、さっそく読み始めた高耶がそれに夢中になってしまっても、それは仕方が無い事だと思う。 夢中になり過ぎて、仕事を終え帰宅した直江が話し掛けて来ても生返事しかしなかったのは、確かに高耶が悪かった。 悪かったけれど。 手に持った雑誌がくしゃりと歪む。 雑誌に夢中になっている高耶に焦れたのか、寝転ぶ高耶のすぐ側に腰掛けた直江は、高耶へと手を伸ばしてきた。 始めは、高耶の漆黒の髪を優しく撫でていたその手。 こちらを向いて下さいと促すその手にも、雑誌から目を離さなかった高耶は、その手が耳元に移動し、徐々に不埒な動きをし始めるに至って、ようやくそこから視線を外した。 けれど。 「・・・邪魔すんな」 高耶は横にいた直江を睨み、呻るような声でそう告げてしまった。 それからだ。 「俺の事は気にしないで下さい」と爽やかな笑顔でそう言い放った直江の手が、高耶の身体を本格的に弄り始めたのは。 こうなると、意地の張り合いだ。 高耶も素直に悪かったと言えない性格だから、その不埒な手に感じたりするものかと我慢していたのだが。 「ぁ・・・っ」 高耶の身体を高耶よりも知り尽くしている男の手が、ススと背中を撫で下ろしていく。 泥沼に浸かるような快楽を与えてくれるその手に、高耶はもう陥落してしまいたいと思っている。 熱を持った身体はどうしようもない所まで来ていて、高耶は微かに開いた唇から甘い吐息を漏らしながら、しきりに身動ぎしているのだ。 「ん・・・っ」 身動ぎするたび、熱が集中している身体の中心に痺れが走る。 きついジーンズの中から解放して思うまま扱いてしまいたいのを懸命に堪え、高耶は雑誌を持つ手に力を込めた。 「そんなに握り締めてたら、くしゃくしゃになりますよ?」 「やぅ・・・っ」 直江が高耶の耳元でくすくすと笑う。 その僅かな息遣いでさえも、敏感になっている今の高耶には愛撫となった。 直江の手が徐々に下がっていく。身体が震えるのを止められない。その手に期待している自分がいる。 背骨を伝うその手が、徐々に双丘へと近付いていく。 (はやく・・・っ) そう声に出して言ってしまいたいのを、高耶は唇を噛むことで耐えた。 だが。 「あ・・・っ」 男の手が再び上へ上りだした事で、高耶の期待は裏切られてしまった。口からその手を惜しむ声が上がる。 「・・・もしかして、期待してた?」 ふと笑う声と一緒にそう問われて、高耶はくっと眉根を寄せた。そんな事はないと首を振る。 我ながら何て強情だと思う。 もう雑誌なんて見ていないし、身体だって物欲しそうに震えている。それなのに、素直になれない自分がもどかしい。 「本当に強情な人だ」 溜息を吐きながら小さくそう呟いた直江が、高耶の上に伸し掛かる。 「触って欲しくないんですか・・・?こことか・・・、あと、ここも」 「あ・・・っ、ん・・・っ」 高耶とシーツの間に入り込んだ男の手が、身悶えるほど欲しいと思っている箇所を掠めていく。 欲しいと、口から零れそうになるのを高耶は堪えた。小さく首を振る。 「・・・でも、物欲しそうに震えてますよ?俺に触って欲しいって、あなたのここは言ってる」 「あぅ・・・ッ」 言いざま、ジーンズの上から男の手にきつく握られた。 ビクンと背をしならせた高耶の口から歓喜の声があがる。 カチャカチャとベルトが鳴る音が聞こえ、高耶の唇が期待に震え始める。 触ってもらえる。あの大きくて熱い手で触ってもらえる。 頭の中はその事でいっぱいになり、ジッパーを下げる僅かな時間すら、高耶には拷問に思えた。 前が寛げられ、腹に大きな手が這う。 その大きな手が下着の隙間から入り込んできて、涎を垂らして待ち望む高耶の熱を握り込んだ。 「アァ・・・ッ!」 そのまま数度扱かれて、高耶は愉悦に震えた。 吐き出したい。 腰が重く感じるほどに溜まっているモノを、思うまま吐き出してしまいたい。 男の手に合わせて腰が揺れる。 ジーンズと下着が、高耶が動くたび、徐々にずり下がっていく。 男の目に揺れる臀部を晒して喘いでいると思うと、羞恥で目の前が真っ赤に染まりそうになる。 しかし。 ようやく与えられた快楽を、焦らされ続けていた高耶は貪欲に味わい始めていた。 男のもう片方の手が、揺れる臀部に掛かる。 丸みを確かめるかのように撫で、その指先が谷間をなぞって行く。 「ゃあ・・・っ」 期待にひくつく秘孔に近付いたその指先が、くっと谷間を広げた。 「みる、な・・・ッ!」 最も恥ずかしい部分に、纏わりつくような男の視線を感じる。 嫌だと思うのに、期待にひくつくのを止められない。 見るなと言ったくせに、早く舐めて欲しいと思っている。 「あっ、あ・・・っ」 震える高耶の先端から、トロトロと淫らな汁が溢れ出す。 「・・・ここ、舐めて欲しい・・・?」 聞こえてきたその声に、高耶はくっと眉根を寄せた。 「言ってくれたら、いっぱい舐めてあげますよ?犬みたいに、舌でぐちゃぐちゃになるまで濡らしてあげる」 好きでしょう? そう言いながら、男が恥ずかしい部分にふぅっと息を吹きかけるのを感じた高耶は、ついに我慢の限界を迎えた。 「・・・っくっ・・・!好きに、し・・・ろ・・・っ」 それでも、強情にもそう告げた高耶のその台詞に、背後にいる男がふっと笑みを浮かべた気がした。 「・・・御意」 その瞬間、高耶は一度目の絶頂を迎えていた。 その後。 真夜中に、その日発売のバイク雑誌を買いに走る直江の姿が見られたという。 |