カレンダー 今年も残り僅かとなってきた。 卓上に置かれたカレンダーを捲って年末年始の休みを確認する直江の眉間に、小さく皺が寄る。 (一週間くらいか・・・) もちろん、年末年始の前にクリスマスという一大イベントがあるのだが。 そこは抜かりなく、高耶の好きな和食の美味しい店を既に予約して、プレゼントも高耶が欲しがっていたソフトとゲーム機を、これまた既にきちんと用意している直江である。 であるからして、ここ最近の悩みと言えば高耶と年末年始をどう過ごすかにあるのだが。 年末年始を実家である寺に拘束されることが多い直江は、どうやってその拘束から逃げるか主に頭を悩ませているのだ。 (高耶さんが風邪をひいた・・・は去年使ったから駄目だな) こういう時、同じ職場に家族がいると『仕事』という嘘が全く使えないから困る。 仕事中のくせにそんな事で悩んでいる直江を、同じ部屋にいる部下たちが何かミスでもしただろうかと恐々と伺っているのだが、それにも気づかず、机に肘を付き両手を組んだ直江は、そこに顎を乗せ空を睨んで悩み続けていた。 せっかくだから高耶の希望も聞いておこうと思ったのが間違いだったのだろうか。 「今年の正月はお前の実家」 愛する高耶に素っ気無くそんな言葉を返されて、直江は咄嗟に反応することが出来なかった。 ちょっと待って欲しい。 その実家から逃れるため、直江は最近、仕事すら手に付かないくらい頭を悩ませていたというのに。 直江が実家に行ったりしたら、法要だの年納めの鐘突きだの新年永代供養だのでこき使われて高耶とゆっくり過ごせない。 それは高耶だって知っているはずなのに。 「・・・実家・・・」 一言口から零れたその言葉が、もの凄く落ち込んだ声になってしまった。 高耶が自分から言い出した事を翻すことは滅多にない。 それを知っているから、年末年始はどうやらずっと読経する羽目になりそうだと想像すれば落ち込みもする。 情けなくも俯いてしまった直江に、高耶が声を掛けてくる。 「去年はオレが風邪ひいたとか嘘ついて、実家の手伝いサボったんだろうが。お前の実家は毎年この時期大変なんだから、今年はちゃんと手伝え」 高耶の正論過ぎるその言葉に何も言えなくなる。 「・・・はい・・・」 年末年始に予定していた高耶との甘い時間は、高耶の「直江の実家へ行く」という一声で絶ち消えてしまった。 「それで、高耶さんは・・・?」 高耶はどうするのだろうか。実家のある松本へと帰るのだろうか。 離れ離れで過ごすのは淋しいなんて、子供のような事を考えながら聞いてみると。 「オレもお前の実家で手伝い」 そんな返事が返ってきて、直江は俯いていた顔を慌てて上げた。 顔を上げた直江から視線を逸らすように、頬杖をついた高耶が手に持ったカフェオレを飲みながら顔を逸らす。 その頬がほんのりと染まっているのを見つけた直江は、嬉しさからじわじわと笑みを浮かべた。 こき使われるのは変わらないが、高耶が一緒に実家に来てくれると言う。 あそこには直江の天敵と言っても良いほど高耶の事が大好きな家族がいるが、幸い、直江の部屋は離れだ。 やることだけきちんとやっていれば、残りの時間は部屋に二人で篭って自由に使っても構わないだろう。 一緒に過ごせる時間は短いかもしれないが、離れ離れよりはマシだ。 「ありがとうございます」 笑みを浮かべながらそう礼を言った直江に、高耶がますます顔を逸らしながら「別に」と恥ずかしそうにしているのを見て。 直江は笑みが深まるのを抑えられなかった。 |