2010年直江BD 何度も 都心から程近い温泉郷。 ゴールデンウィークはどこも混雑する事を見越し、直江が数ヶ月前から予約しておいた温泉宿は、渋滞で少し疲れてしまった高耶も気に入ってくれたようだった。 若緑の色鮮やかな山々。それに所々挿し込む、藤やツツジの春の色。 遠くにそれを望みながら味わう、滾々と湧き出る良質の温泉が掛け流されている露天風呂。 珍しく休みが取れた直江の誕生日。一緒に温泉に行かないかと高耶を誘った時、直江に下心は全く無かったと言えば嘘になる。 あわよくば、温泉に浸り艶を増すだろう高耶と甘いひと時を―――。 直江のそんな下心は、温泉に誘われた時点で高耶も見越していたのだろう。露天風呂で子供のようにはしゃいでいたのは照れ隠しだったのか、部屋に用意されていた食事を粗方食べ終える頃には、二人の間には早くも甘い空気が流れ始めていた。 珍しく拒絶する様子を見せない高耶の浴衣を嬉々として乱し、そこから現れた普段よりも艶を増した肌をゆっくりと撫でながら、直江は布団に身を横たえた高耶のしなやかな身体をそっと観察する。 「・・・そんなに見んな」 恥ずかしいのだろう。怒ったようにそう言ってはいるが、顔を真っ赤に染める高耶の手はシーツを掴んだまま離れない。 「綺麗ですよ。とても」 いつもなら直江に身体を見られるのを嫌がる高耶だが、いつもと違う部屋での情事に興奮しているのか。直江の視線を遮る事もせず、それどころか、直江の視線が高耶の身体の上を這っていくにつれ、高耶の瞳が潤んでいくのが可愛らしい。 「・・・ここ、もう膨らんでる」 乱れた浴衣から覗く、胸の二つの葡萄粒。そこに視線を当てる直江が、口元に小さく笑みを浮かべながら低くそう告げると、いつもされている事を想像でもしたのか、直江を見上げる高耶の漆黒の瞳がさらに潤む。 期待には応えなければ。 起こしていた身を屈め、直江は高耶の胸元へと唇を寄せる。ふと軽く息を吹き掛け、高耶の肌が粟立つ様に笑みを深めながら、直江は高耶のぷっくりと膨らむ胸の飾りを口に含んだ。 「ん・・・っ」 舌先で嬲り、ツンと尖った所で軽く歯を立てる。すると。 「ぃ・・・ッ!・・・噛む・・・な・・・っ」 それ程強くは噛んでいないのだが、感じやすくなっているのだろう。胸元に居る直江の栗褐色の髪を掴む高耶から、拗ねたような声で「痛いのは嫌だ」と可愛らしく訴えられた。 それを聞いた直江の鳶色の瞳がふと和らぐ。 直江の誕生日だから特別なのだろうか。高耶がいつになく素直で可愛らしい。 「・・・じゃあ、いっぱい気持ち良くしてあげる」 胸元から顔を起こし、高耶の耳元に移動した直江がそう告げると、そんな直江に抱き付く高耶は早くと言わんばかりに擦り寄って来てくれた。 間接照明のみが点された薄暗い部屋の中、高耶の高い嬌声が響き渡る。 「そこ・・・っ、ぃやだ・・・ッ」 最奥を抉られ、そこから得られる強い悦楽が怖いのだろう。腕に抱える高耶のしなやかな足が直江の動きを邪魔する。 「駄目、ですよ・・・っ。いっぱい気持ち良くしてあげるって約束したでしょう?」 直江の身体を押し戻そうとする高耶の足を大きく割り開き、直江は柔らかく受け入れてくれている高耶の秘孔をグンッと大きく突き上げる。すると。 「ゃ・・・っ、アアア・・・ッ!」 二人の間に挟まれていた高耶の先端が弾け、その胸元にまで白いものがぱたぱたと勢い良く飛び散った。それを見た直江の瞳が僅かに見開かれる。 もう達してしまうとは思っていなかった。遂情したばかりは辛いだろうと動きを止めた直江は、その顔に卑猥な笑みを浮かべて見せる。 「・・・もしかして凄く興奮してます?いつもより早い」 「・・・う・・・っせぇ・・・っ」 荒い息の下から毒づいて来る高耶に笑みを深めながら、直江は僅かに逸らされている高耶の頬にそっと口付けを落とす。 「・・・高耶さん」 この世で最も愛おしいと思う名を呼び、直江はその身体をきつく抱き締める。 直江の誕生日くらいはと、恥ずかしいだろうに色々と頑張ってくれているのだろう高耶が愛おしい。 「愛してる」 笑みを消して真摯に告げた直江の愛の囁きに返って来たのは、小さな苦笑と「知ってる」という言葉だった。 そこで「オレも」と言わない辺り、照れ屋な高耶らしい応えだ。直江の口元にも小さく苦笑が浮かぶ。 「・・・お前に愛されてる事は嫌ってくらい知ってるけど、オレがお前に返せてるものはあまり無い事も知ってる」 「そんな事は・・・」 続けられた高耶の言葉に苦笑を深めながら、そんな事は無いと告げようとした直江の言葉を、「だから!」と高耶が遮る。 「だから、その・・・。お前の誕生日くらいは、好きにさせてやっても・・・いい・・・ぞ?」 徐々に小さくなっていく声でそう告げられた直江の鳶色の瞳が大きく見開かれる。 埋めていた高耶の首筋から顔を上げようとした直江は、だが、恥ずかしくて顔を見られたくないのだろう。首元に抱き付く高耶の腕にその動きを遮られてしまった。 「・・・あなたという人は・・・」 高耶の首筋に再び顔を埋める直江から、盛大な溜息が零れ落ちる。 直江が注ぐ愛情など、直江をこうして受け入れてくれている高耶の愛情には遠く及ばない。 男である高耶が、男である直江を受け入れてくれている事が、どれだけ直江を歓喜させているか高耶は知らないのだ。 だからこんな事が言えてしまう。 好きにさせてやってもいいなんて、言われた方は堪ったものじゃない。 一度や二度。いや、一晩で収まるだろうか。 「・・・煽ったのはあなたですからね。覚悟して下さい」 「・・・え?」 そんな恐ろしい事を考えながら低くそう告げる直江は、直江のその言葉に戸惑う高耶を余所に、高耶の発言を受け自らの中で暴れ狂う獣を解放した。 |