6万打お礼 心暖かく [心が聞こえる]新婚編です。←ちょw 冷えた空気が、カカシの口布越しに吐き出した息を白くする。 (寒いねぇ・・・) ポケットに手を突っ込んでいても指先が冷たく、さらには背筋をひんやりとした空気が走り、ブルと震えたカカシはただでさえ丸い背をさらに丸めた。 季節は確実に冬へと向かっているのだろう。 太陽の光が降り注ぐ昼間はそうでもないが、夜になるとかなり冷え込む。 街灯のない夜道を歩きながら空を見上げると、澄んだ空気がたくさんの星を綺麗に見せてくれていた。 星に重なるように自分の吐いた息が白い筋をなす。 それを横目に見ながら自宅へと角を曲がろうとしていたカカシは、そういえばと、ピタと足を止めた。 (こっちじゃなかった・・・) 曲がろうとしていた体をくるりと返して、自宅とは反対側へと進む。 ポケットに突っ込んでいる手に小さな金属が当たり、チャリと微かに音を立てる。 掌に握りこむと、自分の体温に暖められていたそれはほんのりと暖かくて。 まるで恋人のイルカのようだとカカシは思った。 体温が高く、暖かいイルカ。 それに、暖かい雰囲気の漂うイルカの家。 その暖かい家の鍵が今、カカシの手の中にある。 この鍵をイルカから貰えた時、凄く嬉しかった。 そして、自分の帰る場所がイルカの家になった事がとても嬉しかった。 これをくれた時のイルカの言葉を思い出しているカカシの頬が、自然と緩んでくる。 さっきまで感じていた寒さもどこかへ飛んで行ってしまいそうだった。 心がポカポカと暖かい。 そんな時。 『カカシ先生、まだかな・・・』 愛しいイルカのカカシを待ち望む『声』が聞こえてきて、ふと笑みを浮かべたカカシは、イルカの家に向けている足を速めた。 『今日は寒いから鍋にしたんです』とか、『せっかくだから秘蔵の酒、開けましょうね』とか。 『今日、こたつも出したんですよ。俺、ぬくぬくですから、帰ったらカカシ先生をあっためてあげますね』 ぐつぐつと煮える鍋を見ながらなのだろう、『椎茸美味そう』なんて考えながらカカシに心の中で楽しそうに語りかけているイルカが微笑ましくて、つい笑みが浮かんでしまう。 イルカと付き合い始めてからというもの、里にいる間はイルカの可愛らしい『声』をいつも聞いているカカシは、最近すぐに顔が緩んでしまって困ってしまう。 (怪しい人になっちゃうよね・・・) イルカの家に急いで向かいながらそんな事を考えて、カカシは苦笑した。 イルカと付き合う以前は、そんな事はなかった。 誰かの『声』をずっと聞いていたいなんて、思ったことも無かった。 『声』を聞くのは煩わしいだけだったから。 だが、イルカの『声』は初めからカカシに優しく響いていた。 聞いていて心地よいと、出会って初めてその『声』を聞いた時から思っていた。 疲れた時、イルカの『声』を聞きたいと思った。 (多分その時から好きだったんだな・・・) 気づくのは遅かったが、出会ってすぐカカシはイルカの素直な『声』を聞いて、恋に堕ちていたのだろう。 イルカが好きになってくれるよりもずっと前に。 いろいろあったが、イルカと恋人になれて本当に良かった。 イルカが愛してくれて、本当に良かったと思う。 近づいてきたイルカのアパートを見上げると、イルカの部屋に暖かそうな灯りが点いていて、カカシは嬉しさから右目を細めた。 誰かが自分を待ってくれているというのは、単純に嬉しい。 それが、自分が心から愛していて、そして、自分を心から愛してくれている人ならなおさらだ。 足取り軽くアパートの階段を登り、イルカの部屋の前、掌に握りこんでいた鍵をポケットから取り出そうとしたところで、カカシはちょっと迷った。 迷った末、鍵は取り出さずいつものように呼び出しベルを鳴らす。 「はーい」 『誰だろ・・・』 その『声』に答えるように、カカシが消していた気配をあらわにすると。 「あっ」 『カカシ先生帰ってきたっ』 嬉しそうな『声』がしたと思ったら、イルカの気配が急いで近づいてきて目の前のドアが開いた。 明るい部屋の灯りがカカシを照らし、暖かい空気がカカシを包み込む。それに、満面に笑みを浮かべたイルカがいて。 「カカシ先生、お帰りなさい!」 出迎えて、笑顔でそう言ってくれたイルカに目を細める。 たったそれだけで、自分を幸せにしてしまうイルカは凄いとカカシは思った。 「寒かったでしょう?早く中に入って下さい」 そう言ったイルカが、目の前に広がる幸せを噛み締めていたカカシの手を取り、中へと引き入れる。 「うわっ、手、凄く冷たいっ。大丈夫ですか?」 そのままイルカの暖かい手で冷えきった手を包まれる。それだけじゃなく、イルカの口元へ運ばれて、はぁと暖かい息も掛けられる。 じわりと痺れるように広がるその熱に、カカシはさらに幸せを感じてしまい。 「イルカ先生」 笑みを浮かべながら口布を下げると、イルカの名前を呼んだ。 呼ばれたイルカが顔を上げた隙に、ちょんとキスをする。 そうして。 「ただいま」 イルカの暖かい身体を抱き込んで、そう告げた。 『うわ、何か・・・っ』 「新婚さんみたい?」 イルカが考える前にそう言ってみると、こくこくと小さくイルカが頷いた。 身体を離してイルカを覗き込むと、真っ赤になって照れているイルカがいて、その可愛らしさにカカシの笑みが深くなる。 「だって、新婚さんだもの」 そうでしょ? そんな事を言ってもう一度ちゅっとキスをすると。 イルカはさらに赤くなって俯いて、でも、何度も幸せだと思ってくれた。 カカシの心の中にじわじわと暖かいものが満ちていく。 (幸せだ) カカシもイルカと同じことを考えて、暖かい部屋にあがると。 暖かいこたつにイルカと体を寄せ合って座り、美味しい鍋を突いたのだった。 |