新妻イルカ観察日記 2
鬼も逃げ出す可愛い嫉妬






任務が早めに終わったカカシが、愛しい奥さんであるイルカをたまには迎え行こうとアカデミーの職員室へ行くと。
「イルカ先生なら、まだ教室だと・・・」
カカシが顔を出した途端に静まり返った職員室で、その中にいた先生方の一人に恐る恐るといった表情でそう教えられた。
「そうですか・・・。ありがとうございます。そちらへ行ってみますね」
イルカの夫として、イルカの職場での評判を下げてはいけないだろうと、ニコリと笑みを浮かべて礼を言うと、それを見た先生方がピシリと固まってしまった。
(あらら・・・)
笑顔を保ったまま、カカシが職員室を出た途端に中がざわめく。
イルカの夫としての評判を下げないようにと思っての行動だったが、上忍であるカカシがこうやって迎えに来たり、礼を言ったりするのは逆効果だったかもしれない。
イルカが迎えに来させていると思われていないといいと思いながら、イルカがいると教えられた教室へと向かう。
もう授業は終わっている時間のはずだが、まだ子供たちが残っているのか、校内が少しざわついている。
イルカの気配を探って、イルカが居るらしい教室の一つをガラリと開けた途端。
「鬼は外ー!」
イルカの元気なその声と同時に、数名の子供たちがカカシに向かって、というか、扉に向かってだったのだろう。豆を投げるのが見えた。
避けるのは容易かったが、痛くもないだろうしいいかと避けずにいたカカシを、思ったよりも大量の豆が襲う。
頭から豆を被ってしまったカカシの身体から、豆がバラバラと零れ落ちる。
その音に混ざって、
「うわっ、カカシ様っ!?」
というイルカの焦った声が聞こえて。
「・・・オレは鬼じゃありませんよ、イルカ先生」
苦笑しながら忍服に引っかかった豆をパンパンと叩き落していると、
「ごめんなさいっ。大丈夫ですかっ?」
近寄ってきたイルカが、そっと手を伸ばして、頭についていたらしい豆を取ってくれた。
泣きそうな顔をしているイルカに「ありがと、大丈夫ですよ」と笑みを向けていたら、その後ろでカカシに豆を投げつけた子供たちが、これまた泣きそうな顔をしてカカシを伺っているのに気付いた。
「凄いなお前ら。上忍のオレが避けられないくらいだったぞ。これが手裏剣だったら、やられてる。修行、頑張ってるんだな」
笑みを浮かべてそんな事を言ってみたら、泣きそうだった子供たちが、ぱぁと一斉に笑みを浮かべた。
上忍であるカカシに褒められたのが嬉しいのだろう。
イルカやカカシに向かって、自分がどれほど手裏剣の修行を頑張っているのか報告を始めた子供たちに笑みが浮かぶ。
そんな子供たちの頭を、イルカに倣って撫でていると。
「わざと豆を被って下さって、ありがとうございます」
嬉しそうな笑みを浮かべたイルカが子供たちに囲まれているカカシにそっと近付いてきて、耳元でこっそりとそう囁かれた。


その時までは、機嫌が良かったのだ。
それが、職員室に一度戻ると言ったイルカと教室で一旦別れたのだが、正門前で待っていたカカシの前に現れた時には、イルカはもうむくれた表情を浮かべていた。
家に戻ってからも、それは続いていて。
「・・・イルカ先生?」
お気に入りのクッションを抱え、むくれた表情でソファに座っているイルカにそっと声を掛けてみたが、イルカはプイと顔を逸らしてしまった。
(怒ってる・・・)
イルカがどうして怒っているのかが分からなくて困ってしまう。
職員室で何か言われたのだろうか。
やはり、迎えに行ったのが良くなかっただろうか。
イルカの隣に座って、カカシから顔を逸らしているイルカをそっと伺いながら悶々と考え込んでいると、イルカがチラと視線を向けてきた。
「ん?」
何か言いたげなその視線に、小首を傾げてイルカの言葉を待っていると。
「・・・職員室で、先生方にカカシ様の事を言われました」
クッションに顔を埋めたまま、イルカがぼそぼそと語り始めた。
(やっぱり・・・)
上忍であるカカシに迎えに来させるなんてと悪く言われたのだろうか。
たまには迎えに行くのもいいものだと思っていたのだが、イルカが悪く言われるのならもう行かないでおこうかと考えていたら、横目でカカシを見ていたイルカがじわりとその瞳に涙を浮かべてしまった。
慌ててクッションを掴んでいるイルカの手をそっと握る。
「先生方に何か言われた?ゴメンね、迎えに行かない方が良かったかな・・・」
泣いてしまうくらい嫌な事を言われたのかと、自分の軽はずみな行動を悔やんでいたら、ブンブンと首を振ったイルカに「違いますっ」と否定された。
「素敵だって・・・」
「え・・・?」
「わざわざ迎えに来てくれるし、カカシ様の笑顔が凄く素敵だったって言われました・・・っ。俺以外にそんな・・・っ」
ひっくとしゃくりあげたイルカが、その瞳にぶわと大量の涙を浮かべたと思ったら、
「俺以外にそんな笑顔を見せたら駄目ですっ」
そう言って、ボロボロと涙を零し始めた。
そんなイルカを見て、カカシは可愛過ぎてどうしてくれようなんて思ってしまった。
怒っていたのではなく、いや、怒ってもいたのだろうが、カカシの笑顔を独占したかったと、カカシの笑顔を見た人間に嫉妬していたらしいイルカが愛おしい。
「ゴメンね・・・?」
クッションを抱えて泣いているイルカを、クッションごと抱き締める。
トントンと背中を叩いていると、クッションから手を離したイルカが、そろそろとカカシの背中に手を回してきた。
二人の間に挟まっている邪魔なクッションを取ってソファの端に放り投げると、カカシはイルカの身体をしっかりと抱き寄せた。
「・・・でもね、イルカ先生。先生方に見せたのは、愛想の笑顔ですよ?オレの本当の笑顔は、イルカ先生にしか見せていません」
耳元でそう囁くと、カカシの肩に顔を埋めていたイルカがもぞもぞと頭を動かして、少しだけ顔を上げた。
潤んだ瞳がじぃっと見つめてくる。
「・・・本当に、俺だけですか・・・?」
「あなただけです」
真っ赤になってしまっている目元にちゅとキスを落として、即答する。
「オレの素顔を知っているのはイルカ先生だけでしょ?だから、オレの本当の笑顔を知っているのはあなただけなんですよ」
さらにそう告げると、カカシのその言葉を信用してくれたのか、イルカが嬉しそうな笑みを小さく浮かべて、再びぎゅっと抱きついてきた。
「機嫌直った?」
可愛らしい事をするイルカにふと笑みを浮かべながらそう訊ねると、「八つ当たりしてごめんなさい」と謝られた。
「いいですよ。・・・機嫌が直ったなら夕飯にしましょうか。今日は節分だから、太巻きでしょ?一緒に作りましょうね」
そう提案すると、腕の中のイルカの体温が上がった気がした。
(ん?)
カカシに抱きついたままのイルカが、もぞもぞと身体を動かして徐々に下がっていく。
そうして、カカシのズボンの前を寛げ始めた。
「ちょ・・・っ、イルカ先生っ」
イルカの唐突な行動に驚いたカカシがその肩を押しながら声を掛けると、耳の先を真っ赤にしたイルカが「しゃべったら駄目ですっ」と、顔を上げないままそう告げてきた。
「太巻きは、しゃべらずに食べないといけないんですっ」
そう言うイルカの声は、羞恥からか震えていて。
こういう事をいつかして欲しいとは思っていたが、初心で恥ずかしがり屋のイルカにはまだ無理だろうと思っていたのに。
カカシに八つ当たりしたお詫びのつもりなのだろうかと思ったら、イルカの肩を押していたカカシの手から力が抜けた。
「・・・っ」
下着を下げて現れたカカシの、まだ力の無い雄を見て息を呑んだイルカが、恐る恐る口を開く。
任務後でまだ風呂にも入っていないとか、ここはリビングで、照明が点いていてこんなに明るいのに恥ずかしくないかなとか。
そうやって何かと考えて気を紛らわせていないと、視界に映るイルカの姿にカカシはどうにかなりそうだった。
イルカが卑猥な形をしたものに手を添え、少し顔を傾けて、アイスでも舐めるようにペロペロと舐めている。
少し伏せた瞳が艶かしい。
赤い舌が添うたびに、カカシの雄がどんどん硬く大きくなっていく。
ある程度大きくしたソレから顔を起こしたイルカが、こくりと小さく喉を鳴らして、唇を大きく開けた。


その後。
冷蔵庫に材料も用意されていたというのに太巻きが作られる事はなく、それどころか、夕飯自体二人が食べることは無かった。