心でおやすみ カカシがイルカの家に住むとなったその日の夜。 (あったかいねぇ・・・) カカシは体温の高いイルカを腕の中に抱いて、心地よさを感じながら目を閉じていた。 二人で一緒にベッドに潜り込んで、照れるイルカを腕に抱いて。互いにおやすみと言い合って目を閉じてから、もうだいぶ経つ。 イルカを抱いているとポカポカと暖かくて、カカシはすぐにでも眠りにつけそうだったのだが。 腕の中のイルカが、先ほどからカカシの事ばかりを考えていて、全く寝る気配がない。 『凄いなぁ、今日からずっとカカシ先生と一緒にいられるんだ』 そんな事を考えながら笑ってもいるのだろう。小さく肩を揺らして、何度も『嬉しい』を繰り返しているイルカに内心苦笑する。 幸せだと思う。 これからずっと、イルカとこんな風に一緒に眠れると思うと、カカシも凄く嬉しい。 明日は二人とも仕事だから早く寝た方がいいとは思うのだが、イルカの『声』を聞いているのが楽しくて、だんだんと眠りが遠のいていく。 カカシと同じく、目を閉じてはいてもまだ眠ってはいないイルカに声を掛けてもいいが、そうすると、多分もっと眠れなくなる。 何故なら。 『昨夜、俺、カカシ先生と・・・っ』 昨夜はイルカに無理をさせたから、今日は大人しく何もせずに眠ろうとカカシは思っているのに、イルカが昨夜の事を恥ずかしがりながらも思い出してしまっていて。 そんなイルカの『声』を聞いていると、だんだんと身体が熱くなりだして焦ってしまう。 (あぁもう・・・) 腕の中のイルカを抱き締め直して、早く寝てというメッセージを送る。 『・・・っ、うそっ、もしかして、カカシ先生起きてる・・・?』 (・・・寝てます) 心の中でだけそう答えて、イルカの『声』にも瞳を閉じたまま規則的な呼吸を繰り返していたら、カカシを伺っていたイルカが『良かった眠ってる』とホッとする。 『って、いい加減寝ないと明日起きれないよな。明日こそは俺が朝ご飯作らなきゃ』 何がいいかなと考えているイルカに、口元が緩みそうになる。 カカシが泊まった日は必ずイルカに触れていたから、触れられて疲れているだろうイルカの代わりに必ずカカシが朝食を作っていた。 だから、カカシはイルカの作った朝食を食べたことがない。 だけど。 (何でもいいですよ) イルカが作ってくれるものなら、何でも美味しいに決まっている。何度かご馳走になった夕飯だってあんなに美味しいのだから。 そうやって取り留めなく、これからの二人の生活の事を考えていたイルカだったのだが、さすがに眠らないとと、何も考えないように努力し始めた。 けれど。 『・・・眠れない・・・』 しばらくして聞こえてきたイルカの困ったようなその『声』に、カカシは顔に浮かびそうになる苦笑を抑えるのに苦労した。 これからの事を思うと嬉しすぎて眠れないと思ってくれるイルカが愛おしい。 仕方ないなと声を掛けようかと思ったところで。 『そうだ!羊を数えれば・・・』 と、そんな『声』が聞こえてきて。 可愛らしい事を考えるイルカに、つい口元が少しだけ緩んでしまう。 そんなカカシには気づかず、イルカが心の中で羊を数え始める。 『・・・ひつじがいっぴき。・・・ひつじがにひき。・・・ひつじが・・・』 ゆっくりと数え始めたイルカの『声』を聞いていると、カカシの方がだんだんと眠くなってくる。 暖かいイルカの体を抱き込んで、心地よいイルカの『声』を聞いていると、意識が眠りの海を漂いだす。 ウトウトとしながらイルカの『声』を聞いていたカカシだったのだが、イルカの『声』が100匹を数え終わった時。 『どうしよう・・・まだ眠れない・・・』 本当に困ったようなその『声』を聞いて、つい、ふっと小さく笑ってしまった。 『うわっ、起こした!?』 「あの・・・っ」 カカシのその小さな笑いを聞きつけたイルカが焦ったような『声』をあげ、小さく声を掛けてくるが、それには答えず目を閉じたまま胸元にイルカを抱き寄せ、その背を優しく擦ってあげる。 そうして。 「・・・今度はオレが数えてあげる。何も考えないようにして、オレの声だけ聞いてて、ね?」 と、少しだけ眠りに入っていたから、微かに掠れてしまっている声でそう告げる。 「・・・はい」 『・・・やっぱり優しい・・・』 小さく返事を返して、『起こしてごめんなさい』とも伝えてくるイルカの頭を、大丈夫と少し笑みを浮かべて一度だけ撫でて。 「・・・ひつじがひゃくいっぴき。・・・ひつじがひゃくにひき。・・・ひつじが・・・」 イルカの背を撫でながら、小さい声で続きを数えていく。 カカシのその声に集中しだしたイルカから、だんだんと『声』が聞こえてこなくなる。 愛しいその『声』が完全に聞こえてこなくなるまで数えて。 そして。 (おやすみ、イルカ先生) やっと眠ってくれたイルカに心の中でそう告げると、カカシも心地よい眠りの海へと身を委ねた。 |