5万打お礼 コイスル上忍 ダメもとだった。 月明かりの綺麗な晩。 いつものようにイルカと飲みに行った帰り。 「あなたが好きです」 カカシはちょっと足が震えてしまいそうになりながら、募りに募った想いをイルカに打ち明けた。 もうこの恋心を抑えきれなかったから。 苦しくて苦しくて、どうしようもなくて。 イルカにこの気持ちを告げてしまえば、この苦しみから解放されると思った。 受け入れて貰おうなんて、端から思っていなかった。 イルカは誰にでも優しくて、誰にでも笑顔を向けて、誰にでも好かれる人だったから。 ただ、知って欲しかった。 カカシがこんなにも狂おしい恋心を抱いていることを。 知って貰うだけで充分だった。 それなのに。 「あー」とか、「うー」とか呻ったイルカが、顔を真っ赤にさせて困ったように頬をかく。 そうして一言。 「俺も・・・好き、だったりします」 なんて、恥ずかしそうに俯いて、ぽつりと言ったりするから。 嬉しくて泣きそうになった。 いや、実際、ちょっとだけ泣いた。 慌てて俯いて、涙を隠しているカカシにイルカがそっと近寄ってきて、よしよしとその暖かい手で頭を撫でてくれて。 さらに涙が零れそうになって困った。 お付き合いというものを始めてすぐ、イルカはとてつもなく恥ずかしがり屋なんだという事を知った。 「一緒に帰ろ?」 アカデミーの正門前で待ち伏せてそう言ったカカシの前を、イルカがあっさりと通り過ぎる。でも、顔をとても真っ赤にさせて。 「待って・・・っ」 スタスタと先を行ってしまうイルカの後を追いかけて、隙あらば手を繋ごうとするけれど、イルカはとても早足で。 カカシは、イルカの真っ赤になったうなじを追いかけながら笑みを浮かべた。 「待って、イルカ先生」 イルカの背中にそう声を掛けるけれど、振り返りもしない。 この速さじゃ、一緒に歩ける時間が短くなってしまう。 ちょっと迷ってから、えい、とイルカの忍服の袖口を捉まえて。 「もうちょっとゆっくり歩こ?」 真っ赤な顔をして振り返ったイルカにそうお願いしてみたら。 カカシの気持ちに気づいたらしいイルカが、「あ」と言って、 「・・・すみません」 と、今度はゆっくりとした足取りで歩いてくれた。 まだ掴んでいた袖口を放した方がいいのか悩んでいたら、きょろきょろと辺りを見回したイルカの手がぐーぱーぐーぱーと動いて。 嬉しさから緩む口元を片手で押さえながら、カカシはその暖かくて少しだけ震えている手に、自分の、これまたちょっと震えてしまっている手を乗せた。 その日、イルカはちょっとだけ遠回りして、夕暮れでキラキラと川面が輝く川沿いの道を歩いてくれた。 一緒に帰るのも何度目かになった頃。 道端の暗がりにイルカを連れ込んで、そっと唇が触れるだけのキスをした。 それだけで、暗がりでも分かるくらい真っ赤になったイルカがとても可愛かったけれど、カカシの頬も熱かったから、イルカに負けないくらいカカシも真っ赤になっていたのだろう。 「嬉しい」 赤いだろう頬を、俯いて隠しながらそう言ったら。 下げていた口布をイルカに上げられて手を取られたと思ったら、そのままイルカが歩き出した。 「また今度、してもいいですから」 口調は少しぶっきらぼうだったけれど、そう言われて嬉しくて。 その真っ赤な横顔を覗き込んで、 「今、してもいい?」 と訊ねたら。 「今はもう駄目ですっ」 と、さらに赤くなったイルカに叱られた。 ある時、居酒屋で一緒に飲んでいると、ほろ酔い気分で頬を染めたイルカに聞かれた。 「俺なんかのどこが好きなんですか?」 『なんか』の部分にちょっとムッとしつつ。 「あなたはオレの太陽なんです」 「優しい笑顔が好き」 「男気のあるところ」 好きな所がたくさんありすぎて、つらつらとイルカの好きなところを並べていたら。 「・・・もういいです」 と、イルカに遮られた。 「まだあるよ?綺麗な髪とか・・・」 「もういいですって!」 まだまだある、イルカの好きなところを告げようとしたら、イルカが怒ったようにそう言ってぷいと顔を逸らした。 その顔は、多分酒のせいだけじゃない赤みを帯びていて。 (そんな可愛いところも好き) でも、それをイルカに言ったら本当に怒られそうだったから、心の中でだけそう告げた。 その帰り道。 酔っ払ってふらつくイルカを支えながら、そっとイルカを盗み見ていると、それに気づいたイルカが、かぁと赤くなって。 「キス、してもいい?」 可愛い表情を見せるイルカにキスしたくなってそう強請ってみたら、イルカの手が伸びてきて口布を下ろされて。 ちゅっと酒精漂うキスをされた。 驚いている間に、口布を元に戻されて。 「ほら、さっさと帰りますよ」 「あ、待って!イルカ先生!」 ふらつきながらも先に歩き出したイルカの後を慌てて追いかけるカカシの顔には、幸せな笑みが浮かんでいた。 「こんな幸せがずっと続くといいなぁ・・・」 初めて呼ばれたイルカの家で一緒に酒を飲みながら、そうぽつりと呟いたカカシに、イルカが何を言っているんだという顔をする。 叶わない願いだとは分かっている。 忍である自分たちに、ずっとなんていう言葉ほど当てにならないものはない。 だけど、イルカと一緒にずっとこんな風に過ごしていきたい。 叶わないと分かっているからこそ、願う。 イルカはそんな事、願ってなどいないかもしれないけれど。 少し俯いて「馬鹿だなオレ」と自嘲したカカシに、イルカが手を伸ばしてそっとその胸に抱き寄せてくれた。 「続きますよ。ずっと」 続けさせるんです。 イルカのその言葉と、とくんとくんと穏やかなリズムで鳴るイルカの心臓の音を聞いていたら。 もうこれ以上は大きくならないだろうと思っていた恋心が、どんどん膨れ上がっていった。 「好きです」 「知ってます」 「大好きなんです」 「分かってます」 「イルカ先生だけが、・・・っ」 イルカの胸に顔を押し付けて溢れる恋心を言葉にしていたら、その途中で顔を上げさせられてイルカに唇をふさがれた。 「俺も好きですから」 あなたに負けないくらい好きですよ。 イルカのその言葉にきゅっと眉根を寄せると、カカシはゆっくりと両手を伸ばした。とてもゆっくりと。青い空に手を伸ばすように。 そうして、太陽のように暖かく微笑むイルカに抱きつくと。 「ずっと、いっしょに・・・っ」 涙に声を詰まらせながら、そう願った。 「ずっと一緒です」 力強い、イルカのその言葉に。 そして。 イルカに縋りつくように夢中で抱くカカシを、イルカが少しつらそうにしながらも受け入れてくれて。 カカシのいっぱいになった恋心は、パンと弾けて消えてなくなり。 イルカを愛する心だけが残った。 「愛してるよ、イルカ先生」 それからのカカシは、穏やかな表情でイルカにそう告げる事が多くなった。 それは、きっと。 ―――恋が愛に変わった瞬間。 |
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