7万打お礼SS はじめまして キス、キス、キス―――。 唇でちゅっとキスが弾ける。 カカシは、どちらかというと冷たくも見える端正なその顔に似合わず、甘いキスが大好きだ。 もちろん、イルカだって大好きなカカシとのキスは大好きだから、唇に触れたカカシの少し冷たい唇に、再びちゅっと軽く唇を押し付ける。 貪るように舌を絡めあって、唾液を交換するような深いキスも好きだけど、こういう軽いキスも好きだ。 唇から頬に移動したカカシの唇が、そこにちゅっとわざとらしい音を立てて口付ける。 嬉しいのと、くすぐったいのとで、イルカはキスされた方の肩をちょっと竦めてふふと笑みを浮かべた。 ちょっと視線を横に向ければ、カカシも嬉しそうな笑みを浮かべている。 お返しにと、イルカも目の前にあるカカシの傷の無い方の頬にちゅっと口付けてみる。 くすぐったかったのか、カカシが笑みを深くする。 へへと笑うイルカの鼻の傷に、続いてちゅっとキスが落とされる。とても愛おしそうに。 嬉しくて。 イルカもそっと、カカシの閉じた左目の上に走る傷にキスを落とした。恭しく。 この目は、カカシの大切な友人からの贈り物だと聞いている。 いつも閉じられていて見ることは出来ないけれど、イルカは見たことの無いその目だって好きなのだ。 カカシを助けてくれている目。 護ってくれている目。 手を伸ばしてそっと目蓋の上からなぞっていると、カカシがその手を取った。 大切な目だから、触れられるのは嫌なのかもしれない。 「・・・ごめんなさい」 少し眉根を寄せてそう謝ったイルカに、カカシが首を振って苦笑する。 「見たいの?」 囁くように告げられたその言葉に、イルカは慌ててふるふると首を振った。 見たくないわけではないが、普段カカシが見せないという事は、それほど大切な目なのだろうから。 興味本位で見たりしたらいけない気がした。 でも。 「オレの親友に挨拶してくれないの?」 続いて聞こえてきたカカシのその言葉に、俯いていたイルカは慌てて顔を上げた。 そこにはちょっと笑みを浮かべたカカシがいて。 「イルカ先生をそろそろ紹介したいなと思ってたんだけど」 カカシのその言葉はまるで。 「何だか、恋人を親に紹介するみたいな台詞だな・・・」 ちょっと照れたように口元を押さえたカカシが、顔を逸らしながらイルカが思った事と同じ事を小さな声で呟く。その目元はほんのりと赤くて。 カカシでも照れるんだという事を、イルカは初めて知った。 「紹介・・・、してくれるんですか?」 嬉しくて。 泣きそうになりながら、それでも笑みを浮かべてそう訊ねると。 「もちろん」 と、優しい笑みを浮かべたカカシが、ちゅっと、ちょっとだけ涙の滲んだイルカの目尻にキスをしてくれた。 それから、ゆっくりと目を閉じる。 そうして、ゆっくりと目を開く。今度は両方の目を。 「あ・・・」 その紺と緋の瞳に、イルカの顔が映り込む。 せっかくカカシが大切な目を見せてくれているのだから、ちゃんと見たいのに。 綺麗なその緋色の瞳をしっかりと見て、覚えていたいのに。 涙が溢れ出してちゃんと見ていられない。 泣き始めてしまったイルカを見て、慌ててカカシが左目を閉じてしまう。 「あ・・・っ」 まだちゃんと挨拶も、お礼も言っていないのに。 閉じられてしまったカカシの、左目の目蓋に泣きながらそっと触れようとするイルカの手をカカシがぎゅっと握ってくる。 「もうダメだよ」 カカシはもしかすると、こんな泣き虫な男が恋人だなんて紹介したくなくなったのかもしれない。 その言葉に悲しくなって、きゅっと眉根を寄せたイルカの頬に、カカシが手を添える。 「・・・こんなに可愛いイルカ先生の泣き顔、たとえアイツでも見せたくない」 ちゅっちゅっとイルカの涙を拭うように、たくさんの優しいキスが降ってくる。 そのくすぐったいキスと、まるで嫉妬しているかのようなその言葉に、ふとイルカの頬が緩んだ。 イルカをそっと胸元に抱き寄せたカカシが、頭上で小さく笑う。 「アイツにまで嫉妬するなんて思わなかったな・・・」 参ったというカカシのその言葉に、カカシが苦笑しているのだと気づいたイルカも苦笑する。 袖でごしごしと涙を拭うと、イルカは急いで顔をあげた。 「俺は、ちゃんとご挨拶したいです。カカシさんを護ってくれている人だから。あなたの大切な友人だというのなら、尚更。きちんと挨拶と、お礼を言いたいです」 イルカのその言葉とその笑みに少し驚いた表情を浮かべていたカカシが、ふっと笑みを浮かべる。 「ん。そうだね・・・。じゃあ、あと一回だけね?それ以上はダメ」 分かった? その言葉に、笑みを浮かべながらこくんと頷いてカカシの腕の中からじっと見上げると。 すっと開いたカカシの緋色の瞳が見下ろしてきた。 そっと手を伸ばして、カカシの頬に触れる。 「・・・はじめまして」 その言葉に、たくさんの意味を込めた。 いつも護ってくれてありがとう。 いつも助けてくれてありがとう。 カカシさんをこれからもよろしくお願いします。 泣いてしまわないようきゅっと眉根を寄せて耐えながら、カカシの友人へとそんなお礼とお願いを心の中で告げていると。 ポロポロとカカシの緋色の瞳から涙が零れ始めた。 「あ・・・」 目を見開いて見上げるイルカの頬に、その綺麗な涙がポタポタと零れ落ちてくる。 「・・・久しぶりだな、お前が泣くの・・・」 カカシのその言葉に。 イルカも我慢が出来なくなってしまい、きゅっと眉を寄せるとポロポロと涙を零し始めてしまった。 慌ててスッと緋の目を閉じて、友人からイルカの泣き顔を隠したカカシがぎゅっと抱きしめてくる。 (・・・ありがとうございます・・・っ) 許された気がした。 認められた気がした。 カカシの大切な、大切な友人に、自分という存在が。 きつく抱きしめてくるカカシの腕の中、もぞもぞと身動きして顔だけ抜け出すと。 「嬉しい・・・」 ちょっと笑ってそう言って、イルカは見下ろしてくるカカシにそっとキスをした。 すぐに落ちてくるカカシの深いキスに応えながら。 イルカは自分の心を包み込む、とても暖かくて幸せな気持ちに。 もう一度だけ涙を流した。 |