泣きじゃくるあなたを、カカシが優しく慰めます 1.悲しくて その姿を見た時は、この人もやはり忍なのだと感心した。 その瞳に悲しみを湛えてはいるが、漆黒の喪服に身を包み、凛と背を正して立つイルカを見た時は。 三代目の葬儀の最中、ナルトたちに静かな声で諭すイルカのうなじを、カカシは少し離れた後ろから眺めていた。 『ナルトはあなたとは違う!』 イルカからその言葉と共に、怒りという名の激情を向けられた事を思い出しながら。 (もっと取り乱すと思ったんだけどね・・・) 感情がすぐに顔に表れるイルカの事だから、懇意にしてくれていた三代目が亡くなれば、取り乱して泣くのではと思っていた。 しかし、実際は、泣きじゃくる子供たちを慰められるほど落ち着いていて。 アカデミーで教員をしているくらいだから、忍の心得はしっかり会得しているのだと感心した。 だが。 子供たちと別れた後、濡れた喪服を着替えるために家に向かっていたカカシが、路地を少し入ったところにいるらしいイルカの、儚げに揺れる気配に気づいて、気配を消してそっと近寄ってみれば。 葬儀の最中に見たイルカのうなじが、小刻みに震えていて。 「ぅ・・・、っ・・・」 暗い路地の片隅で、壁に肩を預けるようにして俯いて。 さっきまで気丈に振舞っていたイルカが、声を押し殺して泣いていた。 恐らく、葬儀の最中も本当は泣いてしまいたかったのに違いない。 でも、イルカは子供たちを指導教育する立場にある人だから、そんな姿を子供たちの前では見せられなくて。 子供たちと別れた後、一人になったら我慢が出来なくなって、でも、子供たちにこんな姿を見られたくなくて、人目を避けるようにこんな所に入り込んで泣いているのだろう。 (・・・こっちの方が『らしい』な・・・) イルカらしい姿を見て、どこかホッとしている自分がいる。 そんな自分になのか、こんな所で隠れるように一人で泣いているイルカになのかは、自分でもよく分からなかったが、少しだけ苦笑して。 カカシは気配を消したまま、そっとイルカの後ろに立った。 そうして、イルカの肩を優しく片腕で抱く。 驚いたのだろう、ビクッと震えたイルカが後ろを振り返ろうとする。 そのイルカの耳元で「そのまま」と囁いてそれを止め、片手で素早く印を組み、簡易結界を張ると。 「声、出して泣いた方がいいよ」 そう告げた。 「カカ・・シ、先生・・・」 「ん。ここにいてあげるから」 「・・・ふ・・・っ」 カカシのその言葉に、こくこくと頷いたイルカが天を仰ぎ、声をあげて泣き出す。 三代目の名を何度も呼びながら。 そんなイルカの声を耳元で聞きながら、こんな風に泣いて貰える三代目は幸せだなとカカシは思った。 そして、こんなに泣けるイルカが羨ましいとも。 「オレの分も泣いて貰えますか・・・?」 泣き方を忘れてしまったんです。 泣きじゃくるイルカの耳元でそう告げたカカシの言葉に、イルカがひゅっと息を呑んだと思ったら。 しゃくりあげながら振り返ったイルカの、涙をたくさん湛えた瞳が、カカシを真っ直ぐに見つめてきた。 その綺麗な漆黒の瞳に、カカシの胸が締め付けられる。 その時。 カカシの中から溢れ出しそうなほど沸き起こった感情を理解した途端、カカシはイルカの身体を返し、正面からきつく抱きしめていた。 愛しいと思った。 こんな所で一人で泣いて、悲しみをやり過ごそうとしていたイルカが。 こんな所で隠れるように、誰にも見せないように泣いていたのに、カカシの前で、カカシに抱き込まれて、素直に泣いて見せるイルカが。 とても愛おしいと。 (好きだ・・・) 愛しさからイルカを抱き込む腕の力を強めながら、カカシはその耳元で何度も何度も「大丈夫」と囁いた。 (大丈夫、オレがいる。ずっとあなたの側にいる) Copyright © RiV様 痛い思いをさせてしまうと分かっていても。 こんなにきつく抱きしめたら、イルカが苦しいだろうと思っていても。 カカシは、それでもカカシの背に縋りつくように腕を回してくるイルカを抱く腕を。 緩めることが出来なかった。 |
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