泣きじゃくるあなたを、カカシが優しく慰めます 2.苦しくて イルカを好きになったその日から。 カカシはイルカへ、それとなく好意を示し始めた。 会えば笑顔で挨拶を交わし、たくさん話をした。 受付所はもちろん、アカデミーの中庭で昼寝をしているフリをして、通り掛かったイルカに声を掛けてもらったり、帰宅途中のイルカを偶然を装って待ち伏せたりして。 イルカが気にしている子供たちの話題を中心に話をして、その合間に自分の事を少しずつ伝え、そして、イルカの事も少しずつ聞きだした。 アカデミーの職員室へと赴き、「皆さんで食べて」と、イルカから聞き出したイルカの好きなお菓子を差し入れたりもした。 イルカは、あの日カカシに泣き顔を見られたのが気まずかったのか、初めのうちこそ、少し態度がぎこちなかったが、カカシが気にせず声を掛けているうちに、すぐに笑顔で接してくれるようになった。 そうやって少しずつ少しずつ、イルカの心にカカシを食い込ませていった。 好きになって貰うために。 カカシの努力が実り始め、気兼ねない会話が出来るようになった頃、カカシはイルカを飲みに誘うようになった。 そこでは子供たちの話はせず、自分たちの事だけを話して過ごした。 元担任と上忍師という子供たちを介した、今の二人の関係を崩したかったから。 子供たちは関係なく、ただの一個人として会って話をしたかったから。 イルカと過ごす穏やかな時の中、少しだけ。 酔ったフリをして、少しだけイルカの肩に触れた。 次や、その次の機会には、腕や、あの日カカシの背中に縋ったその手にも、何気ない風を装ってそっと触れた。 子供のように体温の高いイルカはとても暖かくて。 いつか、この熱が自分のものになってくれたらとカカシは願った。 そうやって、カカシがイルカとの接触を増やすようになるにつれ、イルカのカカシを見る目がだんだんと変わっていった。 イルカが、少しずつカカシに好意を持ち始めているのには気づいていた。 カカシをじっと見つめてくるその瞳に、恋情の炎が小さく灯っているのを、カカシは胸を躍らせながら見つめ返していたから。 もう少し。 もう少しカカシがイルカの心に近づけたら、イルカの中に灯る恋の炎がもう少し大きくなったら、イルカにカカシの気持ちを告げようと思っていた。 そんなある日。 いつものように二人で飲んだ帰り。 隣を歩くイルカがどこか元気がない事に、カカシは胸を痛めていた。 受付所で飲みに誘ったときから元気がなくて、誘いを断られはしなかったが、飲みに行ってからもそれは続き。 いくらカカシが話しかけても、イルカは俯いて小さい笑みしか見せてくれなかった。 (聞いても、いいかな・・・) 今日、どうしてそんなに元気がないのか聞いてもいいだろうか。 悩み事があるのなら、打ち明けて欲しい。 そんな悲しそうな表情をするイルカを見ていられない。 イルカの悩みを解決する事は、もしかするとカカシには出来ないのかもしれないけれど、悩みを共有することは出来る。 イルカの苦しみを、カカシが半分請け負う事は出来る。 「イルカ先生。今日、あんまり元気がなかったけど・・・何か悩み事?」 思い切って、カカシは隣のイルカにそう訊ねた。 イルカの傷ついているだろう心に、この声が出来るだけ優しく届くといいと願いながら。 少しイルカの顔を覗き込むようにして言ったカカシのその言葉に、歩みを止めたイルカが、くしゃりと顔を歪めた。 「あっ!ごめんね?言いたくなかったらいいよ?」 今にも泣きそうなその顔を見たカカシが、慌ててそう言いながらイルカの震える腕にそっと手を添えると。 ぶわと涙を浮かべたイルカが、くっと唇を噛んで俯いてしまった。 (泣かせた・・・っ) 愛しいイルカを優しく慰めるつもりだったのに、泣かせてしまった。 どうしようとカカシが内心焦っていると。 「苦しいんです・・・っ」 ぽろぽろと涙を零すイルカが、胸の辺りを拳で押さえながらそう言ってきた。 「カカシ先生の事を考えると、最近、ここが凄く苦しくて・・・っ。それだけじゃないっ。あなたの姿を見ただけでも、あなたに視線を向けられただけでも苦しいのに、そんな風に優しく触れられたりしたら、俺は・・・っ」 腕で涙を隠すようにして、ついにはしゃがみこんで泣き始めてしまったイルカを見ながら、カカシは口元を片手で押さえて震えていた。 叫び出してしまいそうだった。 (どうしよう・・・) イルカの方から熱い想いを告白されてしまった。 それがとても嬉しい。 そんなに好きになってくれているなんて知らなかったから。 でも。 (どうして気づかなかった・・・っ) イルカにそんなに苦しい思いをさせていると気づけなかった自分が許せない。 あれほど、イルカの中の恋情の炎がどんどん大きくなっていくのを見ていたくせに。 うずくまるイルカの側にカカシも膝を付くと、イルカの体を掬い上げるように抱き寄せた。 「・・・っ」 カカシの耳元でイルカが息を詰める。 「・・・ゴメンね?オレがそんなにイルカ先生を苦しめてるとは思わなかった」 「っ!カカシ先生は悪くありません・・・っ。悪いのは・・・っ」 「オレですよ」 あなたは何も悪くない。 そう言って、カカシは泣きじゃくるイルカの濡れた瞳を覗き込んだ。 愛おしすぎてどうにかなりそうだった。 |
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