夏祭り 5 愛おしすぎて胸が張り裂けそうだった。 俯いて泣いているイルカのうなじを見つめる。 可愛いと本当に思っているのに、それを冗談のようにしか言えなかったカカシ。 いつだって、本気の言葉をカカシが冗談に似せて言うと、真っ赤になってしまっていたイルカ。 カカシのそんな言葉を、イルカはからかわれているのだとずっと思っていたのだ。 (ゴメンね・・・) 好きな人から、冗談でもそんな事を言われたらきっと、嬉しい反面切なくなる。 知らなかったとは言え、そんな思いをさせていたなんて。 なんて自分は馬鹿だったんだろうと思う。 「オレも好きですよ、イルカ先生」 この言葉だけは信じてもらえるように、笑みなんて浮かべない。からかう口調なんて滲ませない。真摯に。ただ、イルカに届くよう、真摯に。 「ま・・・た、そんな冗談・・・っ」 ぱたぱたとイルカの零した涙が地面を濡らす。それが辛い。信じてもらえないのが辛い。 でも、それはカカシが今までイルカにしてきた事の当然の報いだから。 「好きですよ」 何度も。 「イルカ先生が好きです」 何度でも。 「好きなんです」 信じてもらえるまで、言う。言い続ける。 おそるおそる、イルカが涙に濡れた顔をあげる。泣かせているのが辛い。 「本当に?」と言いたげな顔をしたイルカに、カカシは少しだけ笑みを見せた。 ゆっくりと、掴んだ手を引き寄せて。その愛しい体を抱きこむ。 「・・・っ」 耳元で、イルカが息を詰める音を聞きながら、 「好き」 と、魂を込めて囁いた。 「・・・っ、・・・っ」 耳元で、イルカが何度も何度も息を吸う。嗚咽を堪える。 「今までゴメンね?・・・泣いていいよ。ずっとこうしてるから」 カカシのその言葉を聞いた途端、イルカが大きく息を吸って、 「はい・・・っ」 と言った後は、もう何も言わず、ただ体を震わせて声をあげて泣いた。 「だから、あれは違うんですって」 「はいはい」 イルカの後を追いながら言うカカシの言葉に、先を歩くイルカが適当に返事を返してくる。 (もーっ!) 女の事を弁解しようとしているのに、イルカが全く聞く耳を持たないのだ。 あれほど泣いていたというのに、泣き止んだ途端何もなかったかのように、 「・・・見回り行きますか」 と、すっと離れて歩き始めてしまったイルカを、慌てて追いかけながら言い訳しているのだが。全く振り返る様子もない。 こうなったら、意地でも振り返らせてやる。 そう思ったカカシが、すたすたと先を歩くイルカの背に、 「確かに、前は通ってましたけど!イルカ先生を好きになってからは一度も行ってないんです!あなたを想ってずっと一人でしてたんですから!」 と、恥ずかしい事実を思い切って叫んでみたら。 ぐるっと振り返ったイルカが、顔を真っ赤にさせてもの凄い形相で近寄ってきた。 「そんな事・・・っ、大きな声で言うなっ!」 恥ずかしいっ。 そう言って、再び先に行こうとするイルカの手を取ると、カカシはぎゅっと握り締めた。 「離して下さい」 「繋いでていいでしょ?」 「駄目です」 でも、カカシの手を振りほどこうとはせずに、手を繋いだまま歩き出すイルカに笑みが浮かぶ。 「イルカせんせ」 「何ですか」 「恥ずかしいの?」 「うっさいですよ」 先を歩くイルカをよく見れば、耳やうなじが赤い。 相当恥ずかしいのだろう。笑みが抑えられない。愛おしさが募る。 「好きですよ」 「っ、知ってますっ」 今のカカシの気持ちを素直に告げてみたら、イルカが今度は素直に受け止めてくれた。 (嬉しい) 夏祭りの夜。 カカシには、里での大切な思い出がまた一つ増えたのだった。 |
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