終わりなき世の始まりに喜びを 4





イルカのさらさらとした黒髪がカカシの腹を擽る。
苦しいだろうに、喉の奥まで飲み込んでくれたイルカが、カカシの先端をんくんくと懸命に吸っている。
明日は代休にしてあると怒ったように言っていたイルカは、今思えば、最初から抱かれる気でカカシを待ってくれていたのだろう。いつカカシに襲われても良いよう風呂に入り、艶やかな浴衣姿で出迎えてくれた程に。
そう考えれば、猛る分身を抱えていながら「おしまい」と言ったカカシにイルカが憤った事や、いつになく積極的なのも頷ける。
愛おしさから瞳を眇めて見下ろすカカシの視線の先。口淫するイルカの伏せた漆黒の瞳に、同じ色をした睫が掛かる様が艶かしい。
拙い舌技ではあるが、イルカからの初めての奉仕だ。下肢から湧き起こる快楽もさる事ながら、見下ろすカカシの視界に映るイルカの姿に堪らなく煽られる。
それに。
(おんなじだ・・・)
イルカの舌が、カカシがイルカへする時と全く同じ動きをしているのが分かり、僅かに息を乱してイルカの愛撫を受けるカカシは、その口元にふと小さな笑みを浮かべていた。
「・・・は・・・っ」
息苦しくなったのだろう。はふと大きく息を乱すイルカが、凶器のように猛り育っているカカシの熱欲を一旦解放し、伸ばした真っ赤な舌先で蜜が溢れるカカシの先端を擽る。
決して美味しいものではないだろうに、恍惚とした表情を浮かべたイルカが、そのまま下へ下へと舐め下ろしていく。
「・・・っ」
あまりにも卑猥な光景だ。これでもかと煽られ、思いも寄らない所で絶頂の予感に襲われたカカシは、その奥歯をぐっと噛み締めていた。
一瞬詰めた息をゆっくりと吐き出しながら、煽られる光景から視線を逸らす。
その逸らした視線の先。
カカシの足元に蹲るイルカの腰が僅かに揺れている事に気付いたカカシの顔に、ふと卑猥な笑みが浮かんだ。
口淫に夢中になっているらしいイルカに気付かれないよう、自らの背後にそっと手を伸ばし、そこに置いておいたポーチから潤滑剤を取り出す。
もしかしたら使う羽目になるかもしれない。
任務後という事もあり、自分の理性が崩壊する可能性もあると持って来た物だが、持って来ておいて正解だった。片手で蓋を開けるカカシの口元に小さく苦笑が浮かぶ。
イルカの邪魔をしないよう、ゆっくりと身体を倒したカカシは、その手を揺れるイルカの腰へと伸ばした。イルカの肌を覆い隠している浴衣を掴む。
その瞬間。
「んん・・・!」
カカシの張り詰めた先端を再び咥えていたイルカの愛撫がピタリと止まった。漆黒の瞳が、声と同じく抗議するようにカカシを見上げてくる。
「久しぶりなんですから、慣らしておかないとダメでしょ?・・・続けてて・・・?」
そんなイルカに小さく苦笑を浮かべて見せながら、カカシは掴んだ浴衣をたくし上げた。その下から現れたイルカの臀部に、掌に出しておいた潤滑液をたっぷりと塗り付ける。
「ん・・・っ」
少し冷たかったのだろう。口淫を続けるイルカが小さく身体を震わせる。
そんなイルカの頬をもう片方の手で謝罪するように擽りながら、双丘の谷間の奥にある秘孔を指先で探り当てる。そうしてカカシは、潤滑液の滑りを利用して、ぬるんと指を一本潜り込ませた。
「んぁ・・・っ」
一気に根元まで押し込められ、甘い嬌声を上げるイルカがカカシの熱欲から顔を上げる。
「あ・・・っ、ア、あ・・・っ」
そのままくちくちと卑猥な音を立てながら秘孔を解し始めると、きゅっと眉根を寄せるイルカがカカシの太腿に縋り付いた。
性急に二本に増やされたカカシの節ばった指。それに犯され、口淫どころではなくなっているのだろう。それでも続けようとしているのか、高い声で喘いでいたイルカがカカシの熱欲に震える舌先を伸ばす。
「・・・もういいよ、イルカ先生」
「ぁん・・・っ」
その舌先が自身に触れる前に咥え込ませていた指を引き抜いたカカシは、短くそう言いながらイルカの身体を押し倒した。炬燵の側に倒れ込んだイルカの腰を掴み、ぐっと引き寄せる。
「でも、まだ・・・っ」
カカシが遂情していないのを気にしているのだろう。背中に伸し掛かるカカシを、不安そうな表情を浮かべたイルカが振り返る。
「もう限界なんです。ココに早く挿れたい」
そう言いながら、カカシはイルカの秘孔を指で探った。潤滑液で濡れるイルカの秘孔が、ぐちゅと卑猥な音を立てる。
(まだ硬いけど・・・)
久しぶりだからだろうか。そこはまだ硬く、柔らかく解れてはいなかったが、イルカに散々煽られたカカシがこれ以上待つなんて出来るはずもなかった。
引き締まった臀部をぐいと割り開き、熱の先端をひくつく秘孔に押し当てる。
「ゆっくり挿れますから」
自分に言い聞かせるようにそう告げ、ぐぐと中に押し込めていく。
「アア・・・ッ!や・・・っ」
短く息を吐き、側にあった炬燵布団をきつく握り締めるイルカの戸惑うような小さな声。それを耳にしたカカシの動きが辛うじて止まる。
「痛い・・・?」
やはりまだ早かったかとイルカを窺うカカシを、黒髪を揺らして首を振るイルカが僅かに振り返る。
痛むのだろうか。その漆黒の瞳には涙が滲み、目元は真っ赤に染まっていた。だが。
「カカシさ・・・っが、おっき・・・ぃ・・・っ」
それを聞いたカカシの瞳がゆっくりと見開かれる。
イルカからそんな事を言われたカカシに、理性なんてものが残るはずも無く。
「イルカ先生・・・っ」
呻るようにイルカの名を呼んだカカシはその後、自らの予想通り、朝までイルカを離す事はなかった。




どうやらぐっすり眠ってしまっていたらしい。
ふと気付けば、カーテンが引かれて薄暗いはずの寝室は既に、天高く上った太陽によって明るく照らされていた。
カカシが起きてすぐにイルカも目を覚ましたのだが、朝まで付き合わせてしまったからまだ眠いのだろう。自らの腕の中で、うつらうつらとしているイルカを見るカカシの深蒼の瞳が柔らかく細められる。
(かわいい・・・)
年末年始を任務で過ごし、雪で進路を阻まれた際には新年早々ついてないと思っていたが、少々遅くなったとはいえ、可愛らしいイルカの姿をたっぷりと見る事が出来、こうして腕の中に抱いていられる今、今年は幸先が良いなどと思ってしまうから笑ってしまう。
「ん・・・」
寝ぼけているのだろうか。ごしごしと目を擦るイルカが身動ぎ、カカシの肩へ頭を預けてくる。
「まだ眠い・・・?」
顎の下に収まったイルカの少し寝乱れた黒髪を撫でながら小さくそう訊ねてみると、余程眠いのだろう。目蓋が落ちそうになっているイルカが小さく頷く。
「せっかくの休みだけど・・・、どこにも出掛けなくていいの?」
もう昼を過ぎてしまっているが、二人の休みが重なる事は滅多に無いのだ。どこにも出掛けなくて良いのかと訊ねてみると、カカシの身体に腕を回し抱き付くイルカが小さく首を振った。
可愛らしい仕草を見せられ、カカシの顔にふと笑みが浮かぶ。
「・・・なぁに?もしかして足りなかった?」
わざとらしく声を潜め、イルカの耳元でそう囁いてみると、ようやく目が覚めたのだろう。
「・・・っ、違います・・・っ」
顔を真っ赤に染めたイルカが、少し掠れてしまっている声で焦ったようにそう言い募ってきた。
そんな可愛らしい反応をするからからかわれるのだと、イルカはいい加減に気付いた方が良い。
「冗談ですよ」
笑いながらそう告げると、拗ねてしまったのか唇を尖らせるイルカだが、いつもと違い、それでもカカシに抱き付くのは止めなかった。
「・・・ホントにどこにも行かなくていいの?」
外は良い天気なのだろう。暖かそうな日差しが引かれたカーテン越し、ベッドでじゃれあう二人を柔らかく照らしている。
―――こんな良い天気なのに外に出掛けないなんてもったいないですよ。
普段なら勢い込んでそう言うイルカなのだが。
「いいんです」
その口元に嬉しそうな笑みを浮かべるイルカから嬉しそうな声でそう告げられたカカシは、こちらもその口元に小さく笑みを浮かべていた。
どうやら珍しく甘えて貰えているらしい。
今年は本当に幸先が良いなどと思いながらイルカの黒髪に恭しく口付けるカカシはその日、どこにも出掛ける事無く、イルカとの幸せな休日を存分に楽しんだのだった。