嵐と共に 4





外の嵐は激しさを一層増したらしい。
イルカと共に閉めた雨戸に、風雨が激しく打ち付けている音がする。
ガタガタと鳴るその音に混じり、真っ暗な更衣室内に響いているのは、ギシギシと鳴る長椅子の音とイルカの艶やかな甘い吐息だ。
「んぁ・・・っ、ン、ん・・・っ」
切っ掛けはどちらからだっただろうか。互いに引き寄せられるように口付け、一度口付けてしまうと、カカシの中で湧き起こっていた情欲はもう止まる事を知らなかった。
長椅子にイルカの身体を押し倒し、その濡れた忍服を剥ぎ取った。髪紐は弾け飛び、イルカの濡れた黒髪は狭い長椅子の端から零れ落ちた。
派手な音を立てて床に落ちた懐中電灯。その灯りに淡く照らされたイルカの肌は、羞恥からか桜色に染まっていた。
雨に濡れたからだろう。少し冷えていたイルカの身体は、カカシが数箇所触れただけですぐに暖かさを取り戻し、それどころか、その身体を這うカカシの手に熱さを感じさせるほどになった。
しっとりと瑞々しい肌にカカシが吸い付くたび、イルカはその唇から甘い吐息を零した。
堪らないと思った。
友人だと思っていた頃には気付けなかったイルカの色気に、カカシは完全に打ちのめされていた。
男はカカシが初めてだと言ったイルカの身体を気遣わなければ。
そう思っているのに、カカシはイルカの秘孔を穿つその激しさを緩める事が出来ずにいる。
「カカシさ・・・っ、ンンッ、カカ・・・っ、ん・・・っ」
口付けの合間に、イルカがカカシの名を懸命に呼ぶ。目尻に涙を浮かべ、カカシをひたと見つめる潤んだその瞳を切なく眇めながら。
そして、カカシが口付けるその口元に小さく浮かんでいるのは嬉しそうな笑みだ。
「好き、です・・・っ。す、き・・・っ」
もう何度、イルカからその言葉を告げられただろう。今まで告げられなかった分を告げるとばかりに、イルカは激しく揺さぶられながらも懸命にカカシへと恋心を伝えてくる。
これでもかと煽られるその言葉を、だが、カカシは止めさせる事はしなかった。
「オレも、好きですよ・・・っ。好き、です・・・っ」
イルカの身体に激情をぶつけながら、カカシも同じ言葉を返す。カカシのその言葉に嬉しそうに収縮するイルカの秘孔に堪らなくなる。
(ゴメンね・・・)
かなり長い間、イルカには辛い思いをさせていたのだろう。その事を知り、カカシは激しい自責の念に駆られていた。
だが、謝罪の言葉はきっとイルカには望まれていない。その代わり、イルカの身体を丁寧に愛撫する。言葉でも気持ちを伝える。
最奥まで穿ち、ぐるりと腰を回しながら腹でイルカの熱欲を刺激すると、感じ過ぎるのかイルカは高い嬌声を上げながら嫌だと首を振った。上へ逃げようとするその身体を引き寄せる。
「こぉら、逃げないの。落ちちゃうでしょ?」
「もっ、や・・・っ」
汗が滲むその顔に卑猥な笑みを浮かべるカカシが、荒い息の下そう告げると、イルカは首を振りながらその顔をきゅっと顰めた。涙の滲む黒耀のような瞳がカカシを見上げてくる。
初心者のイルカに対し、カカシは一切の手加減をしていない。あちらこちらを弄られ、感じ過ぎて辛いのだろう。もう嫌だと涙目で訴えてくるイルカが可哀想ではあったが、カカシはイルカを愛す事に手抜きをしたくはなかった。
イルカの耳元に唇を寄せる。
「でも、・・・ココ。もう痛くないんでしょ?」
「ん・・・ッ」
腰を揺らめかせながら、外の激しい嵐に声が掻き消えたりしないよう、イルカの耳のすぐ側でそう訊ねる。首を竦めるイルカの真っ赤に染まった耳元をねっとりと舐め上げる。
「カカシさ・・・っ、いじ、わる、です・・・っ」
ゆるゆると揺さぶられながらそんな事を言うイルカに苦笑する。
「あなたをいっぱい愛したいんです。だから、もうちょっと頑張って・・・?それに・・・」
そう言いながら、カカシは身体を起こした。見上げてくるイルカに、ふと柔らかな笑みを浮かべて見せる。
「オレが意地悪なのは知ってるでしょ?」
「・・・っ」
カカシのその言葉にきゅっと唇を噛み、悔しそうな表情を浮かべるイルカが可愛らしい。浮かべていた笑みを深くする。
イルカのその表情は、カカシの意地悪な部分も好きだと言ってくれているようなものだ。その存在全てで好意を示してくれるイルカに堪らなくなる。
「・・・好きですよ、イルカ先生」
愛しさから瞳を眇めながらそう告げ、カカシはイルカの両脚を抱えあげた。




外の嵐は、夜半過ぎになってようやく過ぎ去ったらしい。
静かになった更衣室内で着替えを済ませたカカシは、床に転がっていた懐中電灯を拾い上げた。灯りを消し、長椅子の端に置く。
そうしてカカシは、過ぎる快楽に気を失ってしまったイルカの身体をそっと抱え上げた。
雨だけでなく、二人分の精で濡れてしまっていたイルカの身体は、タオルで軽く清めた後、イルカが用意していた予備の忍服に着替えさせてある。
疲れた顔にどこか幸せそうな表情を浮かべて眠るイルカに、ふと小さく笑みを浮かべたカカシは、頑張ってくれたイルカの涙の跡が残るその頬にそっと口付けた。
イルカが目覚めた時、あれは夢だったのかなんて悲しい事を思ったりしないよう、このまま自宅に連れ帰ってしまおう。
その瞳に一番に映るよう、腕の中にしっかりと閉じ込めて、朝までイルカの寝顔を眺めているのもいいかもしれない。
そこまで考えたカカシは、イルカにすっかり心奪われている自分に気付き、ふと苦笑していた。
「愛してますよ、イルカ先生・・・」
その言葉を最後に二人は更衣室から姿を消し、嵐と共にカカシの胸に溢れ出したイルカを愛しいと思う感情は、それからも止まる事を知らなかった。