喧嘩しました 前編 喧嘩しました。 付き合ってから初めてです。 理由は・・・。 理由は・・・。 「なんだろうねぇ・・・?」 がやがやと煩い居酒屋のカウンターの隅で、カカシは手に持った猪口の中で揺れる液面を眺めていた。 イルカの可愛らしい笑顔なんてものが浮かばないかと思って見つめてみているのだが、代わりについ最近見た怒った顔が出てきてしまい、かなりヘコむ。 「はぁ・・・」 溜息をついてみても、それに「どうかしましたか?」なんて優しく聞いてくれるイルカはここにはいない。 きっと今頃、煩いのがいなくて静かだーとか、一人分の食事だけだと作るの楽だーとか、一人で寝るベッドは広いなーとか。 カカシがいなくて清々してたりするんだろう。多分。かなり悲しいが。 (何をしでかしたオレ) 可愛いイルカをそれはそれは大切にして、溺愛してきたというのに。 気が付かないうちに、イルカを怒らせるような事をしていた(らしい)自分が嫌になる。 『どうしてあなたはいつもいつもそうなんですか!』 イルカの家に帰宅(同棲してるから)していつものように「ただいまのちゅー」をしようとしたら、真っ赤な顔をしたイルカに拒否されたうえに、そう怒鳴られた。 いつもしてるのにどうして怒るのかが分からなくて。 嫌がる体を抱き込んでちょっと強引にちゅーしてしまったことは、確かに怒られても仕方ないとは思う。 でも、舌を吸われて「ん・・・っ」とか、可愛い声を出してたのに。 『こ・・・っのクソ上忍ッ!出てけッ!』 散々キスしてとろっとろに溶かしてあげた後にそう怒鳴られて、本当にぽいっと家を追い出された。 「うー・・・」 イルカに餌付けされて長いから、イルカの料理以外が美味しく感じられない。 目の前の大好物のはずの秋刀魚定食が一向に減らないのを見て、カカシは食べるのを諦めた。 (謝るしかない) 何に怒っているのかも分かっていないが、とりあえず謝って。ご飯を食べさせてもらわないと餓死してしまう。 里の誉れなんて言われるくらい頑張って働いているのに、「恋人が作ったご飯以外のご飯が食べられずに餓死」なんて理由で慰霊碑に名を刻まれないなんてイヤだ。 そう思ったカカシは、猪口の酒を飲み干すと殆ど手付かずの定食をそのままに、居酒屋を出て3日ぶりにイルカの家へと向かった。 まだ早い時間なのに、イルカの家の窓は既に明かりが消えていた。 カカシがいた時は、イルカがこんなに早く寝るなんて事はなかった。いつだってイルカに引っ付いているカカシに邪魔されながら、遅くまで仕事をしている事が多いからだ。 そして、その後は大抵待ちきれなくなったカカシが襲いかかり、えっちになだれ込んでしまう。 カカシがいないと仕事も早く終わるし、早く眠れるから喜んでたりするのかもしれない。 そんな自虐的な事を自分で考えておきながら、ヘコんだ。 (ただいま) 起こさないように合鍵でこっそりカギを開けて、心の中で帰宅を告げる。 暗い玄関に座り込んで脚絆を脱ぐ。 (寝てるのを起こしたらまた怒られそうだし、今日は居間で寝て明日イルカ先生が起きてきてから謝ろう) そう考えながら立ち上がって居間へと向かう。 いつもながら綺麗に整理整頓されてる居間に、カカシがいなくてもイルカは何も変わらないのだなと思う。逆に何かと散らかすカカシがいない方がいいのかも、なんて事まで考えてしまい。 さらにヘコみながら視線を落とすと、ふと卓袱台の上に何かがあるのに気づいた。 カカシの目が見開く。 そこには。 カカシの心をコテンパンに伸してしまうほどの威力を持ったモノが鎮座していた。 |
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