歪んだ鍵 後編






掌の中にはこの家の少し歪んだ鍵。
それをきつく握り締めながら、カカシは玄関へと向かい鍵を閉めた。
側にあった棚へ鍵を置く。
そうして、カカシは震える溜息を零しながら、その場にずるずるとしゃがみ込んだ。
その心を覆っているのは歓喜だ。
嬉しい。凄く嬉しい。
イルカが応えてくれた。
イルカが、「帰らないで」と言ってくれた。
嬉しすぎて、身体中が震えてくる。
だが、ここで少し落ち着いてからイルカの元へと戻らなければ。
そうしないと。
(がっつきそうだ・・・)
イルカが「帰らないで」と言ったその瞬間、カカシは目の前がくらりと眩んだ。
その場で押し倒したいのを堪え、カカシは鍵を掛けてきますと告げて、自分に冷静さを取り戻させる為の時間を取った。
そうしないと、我を忘れて酷く抱いてしまいそうだった。
落ち着けと一つ溜息を吐いて、ゆっくりと立ち上がる。
額当てを取り去り口布を下ろしながら、カカシはイルカが待つ寝室へと向かい始めた。
カカシが寝室へと入ると、手持ち無沙汰な様子でベッドの脇に座って待っていたイルカは、
「帰ってしまったかと・・・」
と、泣きそうな顔でそう告げてきた。


告白された次の日にはもう答えは出ていたのだと、イルカは震える吐息を零しながらそう言った。
ただ、抱かれる為の心の準備に時間が掛かったと。
今夜、ようやく抱かれる決心をしてカカシの誘いに乗ってみたものの、やはり途中から決意が鈍り、酒に逃げた。
けれど、酔うことは出来ず、どうしようもなくなったイルカは、家の中まで送って貰うことでカカシにその身体を委ねようとしたのだという。
「・・・おやすみ、と言われた時・・・」
衣服を全て剥ぎ取られ羞恥に顔を染めたイルカが、続いて衣服を脱ぎながら見つめるカカシの視線から、逃れるように顔を逸らして囁くように言う。
「もう、俺の事なんて好きじゃなくなったのかと思いました・・・」
眠ったフリをして無防備だったイルカにカカシが手を出さなかった事で、イルカは不安になってしまったのだろう。
(そんな事・・・)
そんな事、あるはずがない。
カカシはずっと、この日を待ち望んでいたのだ。
「・・・好きですよ」
イルカの耳元の髪へと手を差し入れながら、カカシはイルカを見つめる瞳を切なく眇めた。
頬へと滑らせたカカシの手に促されるように、イルカがそろそろと視線を向けてくる。
「ずっと、あなたが好きです・・・」
愛しさを込めてそう告げると、イルカはくしゃりと顔を歪めて、
「俺も・・・、好き、です・・・っ」
と、その瞳から涙を零しながら、小さな掠れた声でそう告白してくれた。


まさか、これほどまでとは思わなかった。
イルカの痴態を思い浮かべた事は、これまで数え切れないほどにある。
だが、これまでのそれは想像に過ぎなかったのだと思い知らされた。
(焼き切れそうだ・・・)
辛うじて残っている理性が焼き切れてしまいそうだった。
「ゃあ・・・っ、ん・・・っ」
カカシが愛撫を施すたびに、イルカは恥ずかしそうに全身を染めた。
瞳を潤ませてカカシの視線から逃れようとするイルカに荒々しく口付けると、イルカはカカシの激しい口付けに助けを求めるように、カカシの腕に縋ってきた。
シーツに広がる髪紐を解いたイルカの長い黒髪が、イルカが喘ぐたびにたゆたう様に、カカシは堪らなくなった。
綺麗だと思った。
同時に、何て淫らなんだとも思った。
こんな表情をイルカが隠し持っていたなんて、思いもしなかった。
普段と全く違うイルカの痴態に、カカシの情欲は堰を切って溢れ出した。
受け入れて貰うため、ポーチの中から取り出した軟膏を潤滑剤に、カカシはイルカの秘孔を性急に解した。
異物感が強いらしいイルカの前を宥めながら、イルカの中にある快楽点を探る。
「ぁああッ!」
カカシの指がイルカの中のとある一点を突いた際、強い快楽を感じたのか、イルカはカカシの指を食い千切りそうなほどに締め付けて、その身を捩った。
「ココ・・・?」
「ゃあッ!だ、め・・・!ぁん・・・っ!」
同じ部分を突くと、その身体を震わせながらイルカが喘ぐ。
仰向けだったイルカの身体を、秘孔を解しやすいように横向きにさせると、カカシは見つけたそこを重点的に責めた。
硬かったそこが充分に柔らかく解れた頃。
「カ、カシ・・・せんせ・・・っ」
「・・・ッ!」
それまでぎゅっと目を閉じていたイルカが、まるで強請るかのように、横目で涙に濡れた艶やかな視線を向けてきて。
淫猥なその姿を見せ付けられたカカシは、二本に増えていた指を急いで引き抜いた。
本当ならば、後ろから挿れた方がイルカの負担が少ない事は分かっていた。
しかし、受け入れてくれる時の顔が見たくて、横向きにさせたままイルカの片足を抱え上げ、もう片足を跨ぐようにして少し膝を進める。
「・・・挿れますよ」
ひくつく秘孔へと猛り切った熱棒を押し当て、少し食ませる。
そうしながらイルカを伺うと、イルカは荒い息を吐きながらカカシへと頷いてくれた。
抱きかかえたイルカの片足を押すように身体を傾けて、イルカの内部へ侵入を始める。
「ぅぁあッ!」
途端に、イルカから上がる高い声を聞きながら、カカシは自らの熱棒にきつく絡みついてくる秘肉に、その奥歯を強く噛み締めた。
(キ、ツ・・・っ)
イルカの内部は熱くて、とてつもなく狭い。
入り口部分で中に入る事を抵抗され、つらそうなイルカが可哀想ではあったが。
「・・・ッ!」
「ぁあッ!」
カカシは一気に奥まで腰を突き進めた。
荒い息を吐くイルカの顔に黒髪が掛かり、表情が見えない事に気付いたカカシが、そっと手を伸ばし、艶やかな黒髪をかき上げる。
すると。
そこから現れたイルカは、ぎゅっと目を閉じ、その瞳からたくさんの涙を零して泣いていた。
「・・・痛い・・・?」
眉根をきつく寄せたカカシがそう訊ねてみると、涙で揺れる瞳を少し開いたイルカがそろそろと視線を向けた。
カカシと視線を絡ませたイルカが、小さく笑って首を振る。
「うれし・・・」
掠れた小さな声がそう告げてきて。
(あぁ・・・)
カカシは、胸を襲った恋情の嵐にその身を投じた。


「朝になったら、この家の合鍵を作りに行ってもいいですか・・・?」
イルカが眠りに落ちる前。
腕の中でまどろむイルカへそう訊ねたカカシに、イルカは嬉しそうな笑みを浮かべてこくんと頷いてくれた。
「カカシ先生の家の合鍵も、下さい・・・ね・・・」
ゆっくりと目蓋が落ちて行き、すぅと眠りに入ったイルカに小さく笑みを浮かべながら。
カカシは、「もちろん」と小さな声で囁いて、イルカの額にキスを落とした。


朝になったら、あの少し歪んだ鍵を持ってイルカと一緒に出かけよう。
大切な大切なイルカと共に。