心が聞こえる 番外編 後編






(まずいな・・・)

「あっ、あ、ん・・・っ」
可愛らしい声で啼くイルカを熱い眼差しで見つめながら、カカシは少し困っていた。
少しだけと自分に言い聞かせて、少しだけとイルカに約束したのに。
腕の中にいるイルカは、上衣は腕に絡まっているだけでその体の殆どを肌蹴られ、下衣の中にはカカシの手が潜り込んでしまっている。

『そこっ、・・・気持ちい・・・っ』

括れを強めになぞると、イルカが艶めいた表情を浮かべて嬌声をあげ、そんな『声』もあげる。
恥ずかしいのか、嬌声はあげても声にはそんな言葉は少しも出さないのに、『声』だけは素直に感想を述べてくる。
そのおかげで、カカシはイルカの好きなところを少し触れただけで知る事が出来ているのだが。
そのせいで、止められないのだ。
可愛らしい嬌声と、強請るような『声』。それにイルカの痴態。その表情。
イルカに触れる手が止まらない。
(どうしよう)
誘うように反らされる首筋に、舌を這わせるのを止められない。
小さく主張する乳首を指で押し潰して、その弾力ある感触を楽しむのを止められない。
このままでは、イルカの怪我を悪化させるような事までしてしまう。
しかし、イルカを最後まで愛すわけにはいかないのだ。
足に負担はかけられない。
(どうする・・・)
頭の中では、考えを巡らせているのに、手は淀みなくイルカに快感を与え続ける。
「んんっ、や・・・っ」

『イ、きそ・・・っ』

先端を執拗に弄っていたら、そんな『声』が聞こえてきて、カカシはイルカの体をしっかり腕の中に抱き込むと、その耳に息を吹き込んだ。
「ん、いいよ・・・、イって」
「ぁうッ」
そう囁くのと同時に、イルカの雄の先端を握り込み爪で軽く引っかくと、途端にびくんっと大きく震えたイルカが、過ぎる快感からかぎゅっと閉じた瞼から大粒の涙を零しながら、精を迸らせた。
イルカが体を震わせながら、とくとくと吐き出すそれを手の平に受け止めながら、カカシは襲い来る衝動と戦っていた。
(我慢だ、我慢っ)
例え、イルカの汗ばんだ肌から立ち昇る体臭が芳しくとも。
例え、イルカの腕が縋るように首に回されていたとしても。
例え、視界に映るイルカが桜色に染まった肌と、赤く熟れた突起を露出させ、体をカカシにすっかり預けきっている据え膳状態であっても。
今ここで、イルカを抱いたら確実に怪我が悪化する。

『すご・・・、いっぱい出た・・・。自分でするより気持ちよかった・・・』

そう。
例え、イルカの『声』がこんな風に無自覚に煽ってきても、だ。
あまりのイルカ効果にちょっと頭痛までしだして、カカシがイルカを抱き込んだまま、その首筋に顔を埋めた時だった。

『あれ?開かない・・・』

ドアの外から女性の『声』が聞こえてきた。
外が暗くなり始めた頃だから、恐らく食事を持ってきた看護師だろう。
イルカの体に触れる前に辛うじて残っていた理性で、病室全体に結界を張るのだけはしておいたのだ。外界から見られるのと、聞かれるのを防ぐために。
カギはついていないのに開かないドアに、外にいる看護師が不審に思っている。
急いでイルカの身なりを整えて、ドアを開けなければ大事になりそうだ。
だが、人が来てくれて助かった。これでイルカに触れる手を止められる。
「イルカ先生、大丈夫?」
くたりとカカシに体を預けているイルカにそっと声をかけると、どこかぼんやりとした瞳が見上げてきた。
「・・・は、い」
相当よかったのだろう。
まだ射精後の余韻を残した色気のある表情を浮かべるイルカを、手放したくないとは思うが、いかんせん今は人がいる。

『このまま最後までするのかな・・・』

少しの不安と、少しだけ期待しているようなイルカのその『声』に、応えたい気持ちはもの凄くあるが。
「ゴメンね。最後まではしてあげられそうにない。イルカ先生、怪我してるし。それにね、今、看護師さんがそこまで来てる」
「うそっ」
カカシのその言葉に、イルカが慌てて病衣の前を合わせた。
「大丈夫。結界を張ってあるから入っては来れませんよ」
焦りからか、なかなか紐が結べないイルカの代わりに結んでやりながら、カカシはちゅっと額にキスを落とした。
「残念だけど、続きは怪我が完治してから。ね?」
イルカの顔を覗き込みながらそう告げると、やはりというか、イルカがかぁと赤くなった。
(可愛い)
こんなに可愛いイルカを置いて帰るのはかなり名残惜しいが、このままここに居ては身が持たない。
イルカの病衣が調ったのを確認し、手に出されたイルカの精を枕元のテーブルに置かれていたティッシュで拭き取ると、カカシはもう一度だけイルカをきつく抱きしめた。
「また明日、お見舞いに来ます」
耳元で囁けば、こくんと頷いたイルカが『嬉しい』と思ってくれて。
軽いキスをその唇に落とすと、ベッドから降りたカカシは口布を上げ、額当てを着けてから結界を解いた。
パンッという軽い衝撃音と共に、辺りの音が聞こえ出す。
と、同時にドアが開いた。
「結界だったのね・・・。あら?はたけ上忍じゃないですか」
先ほど聞こえてきた『声』と同じ声の女性が、食事の乗ったトレイを片手に入ってくる。カカシが何度かここにお世話になった時に見た顔だ。
「あぁ、ちょっとイルカ先生にこの前の任務の事で話があって。他に聞かれたら困る話だったので結界を張っていたんですよ」
そんな嘘を笑顔と共に女性に向けると、女性はあっさり「そうだったんですか」と誤魔化されてくれた。
イルカへと食事を運ぶその姿を横目に、そろそろ帰ろうかとイルカに声をかけようとした時。

『カカシ先生って、女性の扱いが上手いですね』

なんていう『声』が、じっとりとした視線と共に向けられて、カカシはついつい笑みを浮かべてしまった。
心配しなくても、カカシにはイルカしか目に入っていないというのに、可愛らしい嫉妬心を向けてくるイルカが愛おしい。
ふわりと優しい笑みを浮かべたカカシのそんな気持ちが伝わったのか、イルカも恥ずかしそうな笑みを浮かべてくれた。
「それじゃ、オレはこれで」
「あ、はい」

『明日、また来て下さいね。待ってます』

看護師に気づかれないように、ばいばいと小さく手を振りあって。
イルカのそんな『声』に見送られながら、カカシは病室を後にした。

『凄い凄いっ。嬉しいっ。俺、カカシ先生に好きって言われた!』

カカシの姿が見えなくなった途端に、イルカのそんな『声』が聞こえてきて。
愛おしいその存在を、誕生日にプレゼントしてもらえた事に感謝しつつ。
病院を後にするカカシの顔からは、しばらくの間幸せそうな笑みが消えなかった。