静かな雨 6






イルカの荒い息遣いと強請る声。片隅に置かれた蝋燭の燃える音。
それらに、イルカの身体から立つ淫猥な水音が重なる。
初めは一本でも異物感が酷かったらしく嫌がっていたイルカも、内部の快楽点をカカシの指が見つけると、精を迸らせながら「もっと」と強請ってきた。
あれほど慎ましく閉じていたイルカの蕾は今、可憐に華開き、カカシの節ばった指を三本咥え込んでいる。
「アア・・・ッ!いい・・・っ、そこっ、いい・・・っ」
剥き出しになった尻だけを高く上げ、後ろ手に縛られたままのイルカが、秘孔を指で突かれながら掠れ始めた淫らな声で喘ぐ。
服の上からでも分かる程に勃ち上がった胸の突起を弄りながら、淫らに乱れるイルカの首筋を舐めるカカシの瞳には、劣情の炎がはっきりと浮かんでいる。身の内に沸き起こる情欲を、カカシはもう隠し切れなくなっていた。
イルカの痴態と、イルカの体液から僅かに摂取している媚薬。それらが、カカシの理性を徐々に奪っていた。
「んぁ・・・っ、カカ、シさ・・・もっと・・・っ。もっと奥・・・っ、擦って・・・っ」
イルカのその声に眉根をきつく引き絞る。
指は付け根まで挿れており、これ以上は無理だ。イルカが望む奥へは届かない。
「ここでイけるでしょ・・・?」
イルカの快楽点を刺激する。だが、イルカはくしゃりと顔を歪め、いやいやと首を振った。
「やだ・・・っ、奥がいい・・・っ」
カカシを見上げてくるイルカが切なく瞳を眇める。
「おねが・・・っ、もっとっ、お、く・・・っ。ちょうだい・・・っ」
イルカのその言葉は、抱いてと言っているようにカカシには聞こえた。激しく劣情を刺激される。
だが、カカシはぐっと奥歯を噛み締めそれに耐えた。
今のイルカは薬に侵され正気を失っている。その身体を蝕む疼き。それを沈めてくれるモノを望んでいるだけなのだ。
その望みを叶えてくれるものなら、カカシでなくてもきっといい。
今ここで、イルカに強請られるがまま抱いては駄目だ。必ず後悔する。
そう思うのに。
「カカ・・・さ・・・っ、すき・・・っ。・・・だから・・・っ、おねが・・・っ」
「・・・っ」
強請るイルカの言葉に、カカシは堪らず指を引き抜いていた。
理性は大きくやめろと叫んでいるのに、身体を起こしたカカシのその手は自らのズボンの前を寛げ始めている。
忍服の中心で痛いほどに猛り育っていた怒張。それを中から引き摺り出し、イルカの腰を掴み締め、柔らかく緩んだ秘孔へと押し当てる。
「・・・き・・・っ。カカ・・・シ、さ・・・っ、好き・・・っ」
掠れた声で好きだと繰り返すイルカが切ない。
今ここにイルカの合意なんて存在しない。イルカが望むのは刺激であってカカシではない。
それなのに。
我慢が出来ない。この身体を手に入れたい。
イルカを、抱きたい。
(オレを許して・・・)
心の中でイルカに謝罪しながら、張り詰めた先端をグッと押し込む。
「アアア・・・ッ!」
高い嬌声を上げるイルカが身を捩る。拘束されたままの手首から新たな血が滲み出す。
それを視界の端に捉えていながら、カカシはズンッと一気にその最奥を穿っていた。




張っていた結界を解く。
外では静かな雨がまだ降り続いていたが、辺りはもう明るくなり始めていた。
シーツに包まり、疲れた表情で眠るイルカの側。立てた片膝を抱えて蹲り、そんなイルカの寝顔を瞳を眇めて見つめるカカシへとパックンが近寄る。
「・・・あの男は土の国へ丁重に送り返しておいたぞ」
カカシが要請した援護部隊と医療班は既に到着し、事情を知る忍犬たちと共に抜け忍たちの後始末をしてくれていたのだろう。
囁くようにそう報告してくれたパックンの小さな頭を、カカシはそっと撫でた。
「ありがと・・・」
口布の下、小さな笑みを浮かべ疲れた声で礼を言うカカシをパックンが痛々しそうに見上げてくるが、カカシはイルカから視線を逸らせなかった。
「・・・大丈夫ですか?」
躊躇いがちに掛けられたその声に、カカシはゆっくりと視線を上げた。横たわるイルカの向こう側で、医療忍の男が一人、気遣わしそうな表情でカカシを伺っていた。
「・・・イルカ先生をお願いできる・・・?手首の傷が酷いから・・・」
カカシのその言葉に一つ頷いた彼が、イルカの側に急いで膝を付く。
治療を開始する彼の手元。イルカの手首は赤黒くなる程に擦り切れていた。
そこまで酷くさせたのはカカシだ。
あれから、獣のようにイルカの身体を貪った。もっとと強請るイルカに、カカシは何度精を注ぎ込んだか知れない。
もう何度目になるか分からない放出の後、イルカは気を失った。
そこにきて、カカシはようやく気付いたのだ。イルカの手首から血が滴っている事に。
布団に顔を押し付けるようにして、うつ伏せにされたイルカの身体。その背には後ろ手に縛られたままの手首。そして、下肢だけ剥ぎ取られた忍服。
慌てて楔を引き抜けば、赤く腫れ上がった秘孔からはカカシが注ぎ込んだ精が溢れ出した。
目の前に広がるその光景にカカシは愕然とした。
まるで強姦だと思った。
イルカを抱けば後悔するというカカシの予想は、やはり違える事は無かったのだ。
眠るイルカを見つめる瞳を切なく眇め、拳を痛いほどに握り締める。
(オレは・・・)
到底許されないだろう事をイルカにしてしまった。心から慈しみ愛しているイルカを。傷付けたくないと心からそう思っているイルカを、カカシは自らの手で傷付けたのだ。
どう謝罪すれば許して貰えるだろう。
いくら考えても、その答えは見つかりそうに無かった。
乱れたイルカの前髪をそっと伸ばした手で整える。そのままその手を涙の跡が残る頬に滑らせ、そこを撫でる。
(ゴメンね・・・。あなたを傷付けたオレを許して・・・)
イルカの寝顔に心の中でそう謝罪する。すると、見つめるカカシの視界でイルカの漆黒の睫が揺れた。
僅かに開いたイルカの瞳が何かを探す素振りを見せ、側に座るカカシを捉える。
その瞬間。
カカシはその瞳を見開いていた。
イルカがカカシの姿を捉えた途端、僅かに笑みを浮かべたのだ。子供が親を見つけたような、安堵の微笑みを。
それを見たカカシは堪らず、瞳をきつく閉じていた。浮かびそうになった涙を懸命に堪える。
(あなたは・・・っ)
ゆっくりと目を開けると、イルカの瞳はもう閉じられていた。
許して貰えるのかもしれない。
あんな事をしたカカシを、イルカは許してくれるのかもしれない。
立てていた膝を下ろし、イルカの傍らに付く。身体をゆっくりと倒し、イルカの額へと口布越しに口付ける。
「愛してる・・・」
イルカの額で呟かれた小さな小さなその声は、カカシの口布の中で消え、誰にも届く事は無かった。