仲直り 前編






薄暗い寝室内にイルカの荒い呼吸音が響き渡る。
悦楽を貪欲に欲する内部。それを、目いっぱいに満たしてくれていた熱がずるりと引き抜かれ、切なさに襲われるイルカはいやいやと首を振った。
「・・・すごいね」
途端、イルカの耳に聞こえて来た溜息交じりの艶めいた声。カカシの声は普段から色気を纏っているが、情事の際の比ではない。
少し掠れ、カカシが快楽を得ていると雄弁に伝えてくれるその声は、イルカの快楽をも煽り立てた。
イルカがカカシの声に煽られている事に気付いたのだろう。激しい突き上げに身悶えるイルカを眺めていたカカシがゆっくりと身体を倒し、イルカの赤く染まる耳元で低く囁く。
「まだイっちゃダメだよ、イルカ先生」
「ん・・・ッ」
今夜は久しぶりの情交だ。
時間を掛けて、じっくりイルカを味わおうという魂胆なのだろうか。あと少しの刺激で弾けそうだった先端をきつく握られたイルカは、涙が滲む漆黒の瞳をカカシへと向けた。
抗議するようにきつく睨むも、あまり効果は無かったらしい。嬉しそうな笑みを浮かべるカカシから、ちゅっと軽い口付けが落とされる。
次の瞬間―――。
「・・・っ、アアア・・・ッ!」
先端の括れぎりぎりまで引き抜かれていた熱欲が最奥を抉るように突き上げ、絶頂の予感に襲われたイルカは高い嬌声を上げた。
だが、訪れるはずだった遂情はカカシの手によって阻まれてしまった。
「・・・手・・・っ、離・・・ッ」
「だぁめ。もうちょっと・・・っ」
達せ無かった苦しみに苛まれながら、秘孔を穿たれ続けるイルカが手を離せと訴えるも、形良い顎から汗を滴らせるカカシはそれを聞き届けてくれない。
戒められたままのイルカの愚息は痛みを感じている程だ。じわりと浮かんだ涙を目尻に溜めながらカカシの名を何度も呼び、イルカはもう許して欲しいと懇願する。
永遠に続くかと思われた甘い責め苦の末。
「・・・イって、イイよ・・・っ」
眉根をきつく引き絞るカカシからようやく許された遂情は、我慢に我慢を重ねていたからだろう。イルカの意識を失わせるのに充分だった。




堕ちるように意識を失ったイルカが次に目覚めた時。
カーテン越しに差し込む冬の日差しは高く、もう昼が近い事をイルカに教えてくれた。
今日が休みで本当に良かった。
ベッドから起き上がる事が出来ず、柔らかな枕に片頬を埋めて寝転がるイルカは盛大に溜息を吐く。
「・・・大丈夫?イルカ先生」
その傍ら。任務に就く準備を進めていたカカシから、恐る恐るといった様相でそう声を掛けられたイルカは、いつに無く冷ややかな眼差しをカカシへと向けた。
そんなイルカの視線に晒されたカカシの眉尻が下がり、ごめんなさいと言わんばかりに垂れた犬耳がカカシの銀髪の合間から覗く。
イルカにしか見えていないらしい可愛らしい姿だが、それを見てもイルカは許さなかった。
「・・・反省するだけなら誰にでも出来るんですよ?カカシさん」
調子に乗ったカカシから足腰が立たなくなるまで責め立てられたのは、何も今回が初めてではない。
毎回ごめんなさいと反省して見せるカカシだが、イルカの匂いに煽られるのだろう。反省が生かされた試しは、これまで一度としてないのだ。
「調子に乗るなってあれほど言ったじゃないですか」
声を荒げるよりもずっと恐ろしいのか、イルカから冷ややかな声でそう告げられたカカシの肩が僅かに震える。
だが―――。
「・・・イルカ先生だって悦んでたくせに・・・」
僅かに俯くカカシが小さくぼそぼそと零した言葉を、イルカは聞き逃さなかった。
ただでさえ低空飛行していたイルカの機嫌が急降下し、そのこめかみに青筋が立つ。
「一ヶ月間出入り禁止」
そうして、受付所で鍛えた笑みを顔に貼り付けるイルカが告げたその言葉は、カカシにとって死活問題だったらしい。途端、バッと顔を上げたカカシから縋るような眼差しを向けられた。
イルカの匂いが大好きなカカシにとって、一ヶ月ものお預けは苦行に等しい。
「せめて一週」
「はい?」
せめて一週間にして欲しいというカカシの願いを、だが、イルカは遮った。
一度口にした事は決して曲げないイルカの事を、カカシは良く知っている。
拗ねてしまったのだろう。それを聞いてむぅと唇を尖らせたカカシが、「行って来ます」と小さく返してイルカに背を向ける。
「・・・ご武運を」
しばらくの間は子供たちとの低ランク任務ばかりのはずだが、カカシはいつ何時、上忍としての任務が入るか分からない身だ。今回の事で注意散漫になっては困る。
ベッドの上、怪我だけはしないようにと祈るイルカがそう告げるも、拗ねるカカシが振り返る事は無かった。