泣きじゃくるあなたを、カカシが優しく慰めます
3.嬉しくて






「イルカ先生・・・」
イルカの濡れた頬をそっと拭う。
でも、次から次へと溢れてくる涙を手だけでは拭い取れなくて。
申し訳なさと愛しさから、カカシは再びイルカをきつく抱き込んだ。
「ゴメンね?あなたの気持ちには気づいていたのに・・・」
カカシのその言葉を聞いたイルカがひゅっと息を呑んだ。そして。
「離して・・・っ」
腕を突っ張り、抱き込むカカシから離れた。
立ち上がり、数歩下がってカカシを睨んでくる。信じられないという表情で。
涙を流しながら、つらそうに拳で胸を押さえて。
「からかっていたんですか・・・!」
イルカのその姿とその言葉に、カカシは目を見張った。
(そんな事・・・っ)
そんな事あるわけがない。
カカシはこんなにもイルカの事が好きなのに。
「違います!」
慌ててカカシも立ち上がると、カカシから急いで離れようとするイルカの腕を取り、抱き留めた。
「離して、下さいっ!離して・・・っ」
腕を突っ張り、カカシから離れようとするイルカを許さず、きつく抱き締める。
「聞いて!」
「・・・っ」
カカシの強いその声に、腕の中のイルカがビクリと震え、抗いを止めた。
でも、まだその体は強張ったまま。
「・・・からかってなんかいません。オレは、あなたに何度も声を掛けました。たくさん話をしましたよね?あなたに会いたくて、アカデミーに行ったことも、あなたの帰りを待ち伏せした事だってある。そして、何度も飲みに誘った。卑怯にも、偶然を装ってあなたに何度も触れた」
腕の中のイルカの身体から、徐々に力が抜けていく。
「そうやってあなたに近づいたのは、からかう為なんかじゃない。オレの気持ちに気づいて欲しかったから。オレを好きになって欲しかったから。そして・・・」
言いながら、完全に身体から力を抜いたイルカを、少し震えだしたイルカを、そっと覗き込む。
「・・・あなたはオレを、こんなに苦しんでしまうほど、こんなに泣いてしまうほど好きになってくれた」
ぼろぼろと涙を零しながら震えているイルカに胸が痛み、目を眇めると、「泣かないで」とそっと伸ばした手でその涙を拭った。
「カカシ、先生・・・っ」
イルカが一つ瞬きをしてその瞳に溜まった涙を新たに零し、カカシの名を呼んでくる。
「ん。・・・ゴメンね?こんなに泣かせて・・・」
ふるふるとイルカが首を振る。
首を振ったことで、キラキラと月の光に照らされながら零れ落ちるイルカの涙が、とても綺麗だと思った。
「・・・イルカ先生が好きなんです」
ずっと言いたかった。
あの日から、ずっと言いたかった言葉をやっと告げる。
カカシの告白を聞いたイルカが、さらに涙を零す。
「カカシ・・・先生ぇ・・・っ」
「お願いだから泣かないで・・・」
カカシの行動が、イルカをこんなにも苦しめていたのがつらい。
こんなにたくさん泣かせてしまっているのがつらい。
カカシは、きつく締め付けてくる胸の痛みに眉根を寄せながら、何度も何度もイルカの涙を拭った。
でも。
「ごめんなさい・・・っ。でもっ、嬉しくて・・・」
そう言って泣きながら、でも、ふわと本当に嬉しそうな笑みを浮かべたイルカに。
(あぁ、そうか・・・)
もうイルカの苦しみはないのだと。
この涙は嬉しくて泣いている涙なのだと理解したら。
カカシの、イルカの涙を拭う手が止まった。
代わりに、そっと優しくイルカを抱き寄せる。
今だけは泣いてもいい。
この腕の中でなら泣いていい。
だけど。
「後で笑顔をたくさん見せて下さいね・・・?」
しゃくりあげるイルカの背を優しく撫でながら、カカシはイルカの耳元でそう囁いた。





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