泣きじゃくるあなたを、カカシが優しく慰めます
5.空が






蒸し暑い中、七班の任務を早々に終えたカカシは、イルカを迎えにアカデミーへと向かっていた。
今日は受付業務もないし、早く帰れると言っていたから、またイルカの家へお邪魔して、イルカの手料理をご馳走してもらおうなんて思いながら。
(美味しいんだよねぇ・・・)
イルカの手料理を食べてから、二人で外に飲みに行く回数が減った。
その代わりに、イルカの家にカカシが転がり込む回数が増えた。
イルカの家は居心地がいい。
家主であるイルカ同様、いつも暖かい雰囲気に包まれているその家は、カカシの大好きな場所になっていた。
でも。
まだカカシは、イルカの家に泊まった事はなくて。
居心地の良過ぎるイルカの家に、つい長居しすぎて遅くなってしまい、泊まって下さいとイルカから言われた事はある。
だが、カカシは少しだけ困った笑みを浮かべて、その誘いをやんわりと断ってきた。
泊まったりしたら、イルカにキス以上の事をしてしまいそうだったから。
初めてイルカの家に呼ばれた時にキスをしてから、キスはするようになったけれど、まだ二人の間にそれ以上の事はなかった。
二人の関係を、カカシはゆっくりと時間を掛けて進めたいと思っていたから。
イルカとは、これから長い時間を共に過ごしたい。
出来れば、一生。
それくらい、カカシはイルカを愛している。
いつの間にかこんなにもイルカを溺愛している自分に、ふと笑みを浮かべて空を見上げれば、その空には残暑の厳しい今の季節独特の、どんよりとした曇があって。
(夕立がきそうだな・・・)
カカシの鼻にも、湿気をたっぷりと纏った空気と一緒に雨の匂いが届き始めている。
早く迎えに行って、早く帰らないと雨に降られてしまう。
そう思ったカカシは、アカデミーへと向ける足を速めた。

アカデミーの正門前。
門に寄りかかり、今にも降り出しそうなほど暗い空を見上げながらイルカを待っていると。
「すみませんっ。お待たせしましたっ」
校舎の方からイルカが走ってやってきた。
カカシへと嬉しそうな笑みを浮かべて見せるイルカに、カカシも笑みを返す。
「走らなくても良かったのに」
「でも、雨が降りそうだったから・・・」
そう言ったイルカが空を見上げると、その頬にぽつと小さい雫が落ちてきた。
「うわ、降ってきたっ。傘持って来てないのに・・・」
イルカが頬の雨粒を手の甲で拭いながらそう言うのを聞いて、カカシは「急いで帰ろ?」とイルカを促した。
「オレも傘持ってないんですよ。早く帰らないと濡れちゃう」
歩き始めたカカシの後を、イルカが急ぎ足でついてくる。
「あ、そうだ。今日もイルカ先生のおうちでご飯食べてもいい?」
足早に歩きながら隣を歩くイルカにそう訊ねると、イルカが「もちろん」と笑みを浮かべてくれた。
今日は何を食べようか相談しながら家路を急ぐ二人を、激しくなり始めた雨が襲う。
(これはちょっと雨宿りした方がいいな・・・)
夕立だろうから、すぐに止むだろう。
そう思ったカカシは、イルカの手を取ると、「こっち」と二人揃って近くにあった家屋の軒下に急いで避難した。
「しばらくここで雨宿りしよ?」
「はい。・・・濡れてしまいましたね」
カカシへと笑みを浮かべて返事をしたイルカが、ハンカチを取り出して、カカシの雨に濡れた肩を拭ってくれる。
「オレはいいよ。イルカ先生の方こそ拭かないと濡れてる・・・」
イルカの手からハンカチをスルリと抜き取ると、少し濡れた黒髪をそっと拭った。
恥ずかしいのか、イルカが少し顔を赤くして俯いて、それでも小さく嬉しそうな笑みを浮かべる。
(雨で隠れてるし、いいかな・・・)
可愛らしい表情を見せるイルカに、ついキスしたくなって。
激しくなった雨が二人を周りから隠してくれているのをいい事に、カカシは自らの口布に指を掛け引き下げると、俯くイルカを下から掬うようにして、しっとりと雨に湿った唇にキスをした。
「・・・っ」
微かに目を開けて、イルカの様子を伺ったままキスをするカカシの視界に、目を見開いたイルカが映る。
驚いたのだろう、少しだけ開いていたイルカの唇の隙間から、するりと舌を滑り込ませる。
「ん・・・っ」
イルカが甘い吐息を零して、ぎゅっと目を瞑る。
それを確認してからカカシも目を閉じると、イルカの咥内を味わい始めた。
互いの舌を擦り合わせ、舌先で上顎を擽ると、ぴくんと微かに震えたイルカが、きゅっとカカシのベストを掴んでくる。
(かわいい・・・)
激しくはしない。
まだ深いキスに慣れていないイルカに合わせて、ゆっくりと優しく。羽根のような柔らかさで咥内を愛撫する。
イルカの、驚いて強張っていた身体が、すっかり緩んだ頃を見計らって、ゆっくりと口付けを解く。
真っ赤になって少し息をあげ、目を閉じたまま俯いているイルカを、大丈夫かなと見つめていると。
ゆっくりと目を開けたイルカが、少し涙が滲む潤んだ瞳で見つめてきた。
「イルカ先生・・・」
その瞳を見つめ返しながら、頬に手を添え、そっと撫でる。
カカシのその手に、目を細めて猫のように擦り寄り、甘える仕草を見せるイルカに。
(この人をオレのものにしてしまいたい・・・)
カカシの中の情欲が、一気に湧き上がる。
少しだけ。
今までイルカに見せた事のない、カカシの中の卑しい感情を、少しだけ表に出して見つめてみると。
それに気づいたらしいイルカが、かぁと赤くなった。
イルカが少しでも嫌そうな素振りや、困った表情を見せたらすぐにも消そうと思っていたのに。
(・・・っ)
ぶわとイルカから芳しい香りが立ち上る。
それは、カカシを甘く誘う香り。
イルカはきっと、嫌がるどころか、期待している。
待っている。
じっと見つめてくるイルカの瞳に、カカシの中に渦巻いているものと同じ色を見つけたカカシは、少しだけ苦笑した。
「・・・早く帰りたい?」
小さくそう聞いたカカシに、さらに真っ赤になったイルカが俯いて、でも、小さくこくんと頷く。
(もう少し待とうと思ってたけどね・・・)
どうやら待たなくてもいいらしい。
そっとイルカを抱き寄せると、カカシはイルカと共にその場から消えた。
そんな二人を、空から激しく降り注ぐ、大粒の雨だけが見送っていた。





たまには泣かないイルカ先生を。そして、リクが多かったので次回エロw