忍犬は好きですか? 4






カカシと一緒に行った定食屋の帰り。
イルカはほろ酔い気分で家路についていた。
頭上にある月を眺めながら、その月と同じ色の髪を持つカカシの事を考え、ほぅと溜息を吐く。
定食屋に個室があって本当に良かった。おかげで、カカシの素顔を独り占め出来た。
個室に入って二人揃って秋刀魚定食を頼み、それが届いた所でカカシは躊躇いすら見せる事無く、イルカにあっさりと素顔を見せてくれた。
(格好良かったなぁ・・・)
あんなに格好良い人を、イルカはカカシ以外に知らない。
初めて見るカカシの素顔は想像以上に綺麗で、イルカは食事中も何度見惚れていたか分からないくらいだ。
不躾に見つめていたイルカに気を悪くすることも無く、カカシはその蒼い瞳を細めて笑みを浮かべてくれていた。
(嬉しい・・・)
また一つ、カカシの事を知る事が出来て嬉しかった。
食事の後、酒を酌み交わしながら他愛ない話をした事も、イルカには凄く嬉しかった。
カカシの口から語られる内容は、既にイルカが知っている事も多かったけれど、パックンたち忍犬から聞くよりも輝いているように思えて。
カカシの話を聞く間、イルカはずっと嬉しさからニコニコと笑み浮かべていた。
「嬉しい・・・」
見上げた月に向かって小さく声に出してみる。ふふと笑みも浮かべて。
カカシにまた一歩近づけたようで凄く嬉しかった。


それから数日後。
いつものように通勤していたイルカの元に、いつも以上に難しい顔をしたパックンがやってきた。
「今度の休みは空けておけよ、イルカ」
「・・・は?」
やってきた早々、くっきりと眉間に皺を寄せたパックンにそう言われたイルカは、パックンを見下ろしたまま首を思いっきり傾げてしまった。
「焦れったくてかなわん。今度の休み、ちょうど拙者らも休みじゃから、弁当作って里の外れにある川原に来い」
「来いって・・・何するんだ?」
焦れったいって何がだろうと思いながらそう訊ねたイルカを、パックンがじっと見上げてくる。
その何か企んでいそうなつぶらな瞳は、随分と楽しそうだ。
「ま、デートじゃな」
そう言ったパックンが、その皺くちゃな顔にニヤリと笑みを浮かべた気がした。


そうして休みの日。
川原を見下ろせる高台の上に立ったイルカは、目に飛び込んできたその光景に瞳を少し見開いていた。
(カカシ先生・・・っ?)
パックンに指定された川原へと大量の弁当持参で向かったイルカを迎えてくれたのは、忍犬たちだけではなかった。
「そぉら!取って来いッ!」
カカシが楽しそうな笑みを浮かべて、手に持っていた木の枝を勢いよく放り投げている。
それを追う忍犬たちも、普段と違い、随分と楽しそうだ。
呼んでくれた忍犬たちだけでなくカカシまで居ることに少し戸惑っていたイルカだったが、カカシともしかしたら一緒に過ごせるのかもしれないと、一つ深呼吸をして勇気を出すと、楽しそうに遊ぶ彼らに近付いていった。
「・・・イルカ先生?」
忍犬たちと戯れていたカカシが、近付くイルカにすぐに気付き、驚いた表情を向けてくる。
「えっと、こんにちはっ」
弁当が入った風呂敷包みを抱えてぴょこんと頭を下げてみせたイルカに、カカシも「こんにちは」と呆然としたまま答えてくれる。
「え・・・っと、どうしてここにイルカ先生が?」
「拙者が呼んだんじゃ、カカシ」
説明しようとしたイルカに代わり、二人に近付いて来ていたパックンが答えてくれる。
「拙者らとイルカは仲良しでな。おまえの事でいろいろと相談させて貰っておる」
「えっ?ちょ・・・っ、オレの事で相談って・・・っ。パックンッ」
パックンのその言葉に焦った表情を浮かべたカカシが、パックンをガバッと拾い上げてイルカから少し離れる。
そのままコソコソと何か話し始めた一人と一匹を、イルカに色々と話していた事でパックンが叱られたりしないかと、ハラハラしながら見ていたイルカだったのだが。
(あれ・・・?)
パックンに何かを言われたカカシが、口元を片手で押さえて固まった。
そのままイルカに視線を向けてくるその目元がほんのりと赤い気がして、イルカは小首を傾げた。
固まっているカカシを余所に、カカシの腕から抜け出したパックンが、イルカに近付いてくる。
「ま、これからはカカシとおまえさんの二人きりのデートじゃ。・・・拙者らはあっちで遊んでおるからの」
二人きりのデートというその言葉に、かぁと赤くなってしまったイルカを見上げ、やれやれと首を振っていたパックンが、その小さな片足を上げて「じゃあな」と言い、忍犬たちの方へと走り去る。
その後姿を呆然と見送っていたイルカだったのだが、それまで固まっていたカカシが近付いてくるのに気付き、頬を染めたままカカシへと向き直った。
「・・・あの、お弁当食べませんか?俺、パックンに頼まれていっぱい作ってきたんです」
二人きりの状況が恥ずかしいと思うと同時に、嬉しさから笑みを浮かべてそう言ったイルカの提案に、カカシは、
「いいですね」
ふわりと柔らかな笑みを返して、そう同意してくれた。