夏祭り 2 豊穣祭りは納涼祭りの時と同様、木の葉の里の中で一番大きい神社で行われる。 主な会場となるのはその境内で、広々としているから子供が親とはぐれて迷子になりやすかったり、子供達だけで遊びまわったりする。 上忍師とアカデミー教師の監督任務は、そんな子供達を不審者等から守る事も含まれていたりするのだが。 集合場所である鳥居の前にずらりと並んで、打ち合わせをしている監督者達に混ざるカカシを、祭りに来た人たちがちらちらと伺っているのが分かる。 (オレの方が不審だよねぇ) 監督者の中には、浴衣や甚平を着ている者もいるというのに、カカシはいつもの忍服で来ていた。おまけに覆面をしているから、目立つ事目立つ事。 「なーんで、あんたたちはそんな格好なのよ」 隣に立つアスマと紅はそろって浴衣、ガイは甚平を着て来ていた。 じっとりと恨めしげな目を向ければ、お前こそなんでそんな格好なんだという顔をされた。 「あ?おれたちゃ毎年この格好だぜ?」 「そうよー。せっかくのお祭りなんだから楽しまなきゃ」 「カカシィ!こんな時までしっかり忍服で装備してるなんて、やはりお前は根っからの忍だな!」 今日は”任務”ではなかったのだろうか。 確かにイルカに楽しんでくださいねとは言われたが、この三人は楽しみすぎだろう。 「あーはいはい。あんたたちはしっかり楽しんで。オレは任務を頑張りますよ」 始まる前からぐったりと疲れてしまい項垂れていると、「すみませんッ、遅れました!」とイルカの声が聞こえてきた。 急いで顔を上げて、愛しいイルカの姿をその目でしっかりと捉えたカカシだったが、それをじっくり愛でる前に再びがくりと項垂れた。 藍色を基調とし、薄い色合いの縦縞がところどころに入った浴衣を着て、『豊穣祭り実行委員会』という文字の入った黄色い半纏を羽織ったイルカは、どこからどう見ても夏祭りに相応しい格好だった。 (あなたもですか、イルカ先生・・・) しっかり楽しむ気まんまんのイルカの格好に、やはり場違いな気がしてきたカカシはこっそり帰るかと本気で思ってしまった。 「あれ?カカシ先生、浴衣は?」 「・・・イルカ先生、そんな事一言も言わなかったじゃないですか・・・」 近づいてきたイルカが半纏を脱ぎながら、不思議そうに言うからさらにへこむ。 「あ!そうだった。すみません、言い忘れてましたね。どうしよ・・・」 「ま、いいですよ。どちらにしろオレは顔見せられませんから着られませんし」 俯いて考え込み始めたイルカに、苦笑したカカシがそう言うと、 「そうなんですか?カカシ先生の浴衣姿が見れると思って、俺凄く楽しみにしてたのに・・・」 ともの凄く残念そうな顔をされた。 (え・・・?) それは、どういう意味なのだろうかとちょっとドキドキしていたというのに。 「おめえが見たいのはカカシの顔だろうが」 なんて、アスマが横槍を入れてきて。 (そっちか・・・っ!) へへと笑うイルカを見て、やはり意識なんてされていないのだなと思うとへこんだ。 「あ、でも。浴衣なら実行委員会のがありますよ?せっかくですから着替えましょうよ。アンダーはそのままでもおかしくはないでしょうから。俺、本当にカカシ先生の浴衣姿見てみたいですし」 ね?とイルカに言われて、イルカと一緒に浴衣で祭りっていいなぁと思ったら、つい頷いてしまっていた。 「どれにしましょうか」 イルカに連れられて、実行委員会の事務所が構えてある社務所内の一室へと入ると、すぐにイルカが奥から浴衣を何着か持ち出してきた。 「あぁ、どれでもいいですよ。お任せします」 どれがいいかなんて分からないから、イルカに任せた。 「じゃあ・・・、これなんてどうですか?」 差し出されたそれは、黒地に藍の縦縞が入ったもので。 イルカの着ている浴衣と似たようなデザインだった。 「ん、いいよ。ありがと」 イルカとお揃いみたいなのが嬉しくて、笑みを浮かべて受け取った。そんなカカシを、イルカがじっと見ていて。 「なに?着替えるとこ見たいの?」 と言ってみたら、顔を染めてむぅと口を尖らせたイルカが、 「見たくはありませんけど!・・・着付け、大丈夫かなと思って」 と心配してくれた。 「大丈夫ですよ。一人で着れます」 そうにっこりと返してみたら、イルカがどこか落ち込んだような声で「そうですか・・・」と言うから、どうしてだろうと考えて、思い出した。 カカシの顔が見たいと言っていたのを。 もしかしたら着替えるときに見れるんじゃないかと期待していたのに違いない。 「・・・もしかして、オレの顔が見たい、とか?」 「別に見たくありません」 興味なさそうな事を言ってはいるが、ちらちらとカカシを伺うその目はキラキラと期待に満ちている。 可愛らしいその表情に、イルカならまぁいいかとカカシは額当てを取ると、口布に指をかけた。 「仕方ないですねぇ。イルカ先生だから見せてあげるけど、内緒ですよ?」 「見せてくれるんですか!?うわ、やった!大丈夫!絶対言いふらしたりしませんって」 もの凄く嬉しそうな顔でそう言うイルカに、苦笑が浮かぶ。 (あーなんか恥ずかしくなってきた) 凄く期待されてる目で見つめられているから、見せた後の反応が少し怖い。 「そんなに期待しないで下さいよ?普通の顔なんですから」 そう牽制しておいてすっと口布を下ろすと、目の前のイルカがボンッと一気に真っ赤になった。 (あれ?) 「イルカ先生?」 俯いてしまったイルカの顔を覗き込もうとすると、すっと視線を逸らされた。 「ちょっと」 さらに視線を追うと、後ろを向かれた。 「何ですかその反応は」 ぐいと肩を掴んで引き寄せれば、振り向いたイルカが、真っ赤な顔で睨んできた。 「すみませんねっ。免疫無いんですよ。直視できないんです!」 なんでそんな綺麗な顔してるんですかっ。 再び視線を逸らしたイルカに、小さい声で悔しそうにそう言われて、顔が気に入ってもらえたと分かったカカシは笑みを浮かべた。 |
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