夏祭り 3 口布を上げて、アンダーの上から浴衣を着込んだカカシは、イルカと共に的屋が出ている辺りを見回っているのだが。 「もったいない」 先ほどから、横を歩くイルカがその言葉を繰り返している。 「しつこいですよ、イルカ先生」 「だって、もったいないじゃないですか。隠してるの」 「いいんです」 「良くないですよ。もったいない」 再び言われて、カカシははぁと溜息をついた。 ちょいちょいとイルカの肩を叩き、人の流れから少し外れた大きい木の側へと連れて行く。 「あのね。隠してる理由はいろいろありますけど。見せびらかす気はさらさらないんですよ?」 「でも」 まだ言うか。 これはちょっと言い聞かせておいたほうがいい。 そう思ったカカシは、イルカの肩を軽く押すと、木にその背を預けさせた。そのまま体を寄せて、その耳元に小さく囁く。 「いい加減にしないと、キスしてその口塞いじゃいますよ?そんなに皆に見せたいの?オレとイルカ先生だけの秘密にしたくない?」 そう言ってみたら、イルカが顔を赤く染めた。 「また、そういう冗談・・・っ」 キスしたいのと、最後の台詞は本気なのだけれど。 信じてもらえないのが悲しくはあったが、脅しが効いたのかその後はもう言わなくなった。 再び人の流れに乗ってイルカと的屋を眺めながら回っていたら、小さい子供達に取り囲まれた。 「イルカ先生ー!」 「おーお前ら、楽しんでるかー?」 アカデミーの子供たちなのだろう。 わらわらと近寄ってくる子供達の頭を、満面の笑みを浮かべたイルカが一人一人わしわしと撫でる。 それぞれが戦利品を見せる中、一人何も持っていない女の子に気づいたイルカが、その子の前で座り込む。 「どうした?何もやってないのか?」 「あのね、出来なかったの。金魚欲しくて、頑張って掬おうとしたんだけど、何度やっても出来ないの・・・」 そう言って俯いてしまった女の子の頭を、「そうか」とひと撫でしたイルカが立ち上がる。 「カカシ先生、ちょっと遊んで来てもいいですか?」 「構いませんよ」 イルカの意図を汲んだカカシが笑みを浮かべて頷くと、「ありがとうございます」と笑ったイルカがおもむろに浴衣の片袖を捲くった。 「おーし、先生がすっごい技見せてやるぞー」 女の子の手を引いて、ぐるぐる片腕を回しながら金魚掬いの的屋へと向かうイルカの後を、わいわい言いながら子供達が着いていく。 ポイを的屋のオヤジから受け取ったイルカが、水槽の前にしゃがみこんで金魚を狙う。 「先生、頑張れー!」 子供達がその周りを囲んで声援を送るのを、カカシは少し離れた所にある木に凭れて眺めた。 教職は、イルカの天職だなとカカシは思う。 忍の世界は甘いものではない。 だが、その世界を知る前に。子供達はイルカによって、里での暖かい思い出を作ってもらっているのだ。 その思い出があれば、どんな状況でも生きて帰りたいと思える。 思い出のたくさんある里を守りたいと思える。 今のカカシが、イルカと過ごす時間を大切だと思い、イルカのいるこの里を守りたいと思っているように。 「すげーっ!」 子供達の間から歓声が起こる。その中心にいるイルカは笑みを浮かべていて。周りの子供達も、俯いていた女の子だって笑っていて。 そんな風景を見ているカカシの口元にも、知らず笑みが浮かんでいた。 「凄い技でしたね」 子供達に別れを告げてカカシの所へやってきたイルカに、そう告げると、 「茶化さないで下さいよ。恥ずかしいなぁ」 と照れた笑いを向けられた。 イルカに金魚を取ってもらった女の子は嬉しそうな顔をしていたから、きっと今夜の事は金魚と共にいい思い出になるに違いない。 再び境内を見回りながら、夕飯代わりにとたこ焼きだのイカ焼きだのをイルカと一緒に食べて笑いあって。 カカシにとっても、今夜イルカと過ごした時間はいい思い出になりそうだった。 |
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