トリック・オア・トリート 中編 「とりっく・おあ・とりーと」 食後の寛ぎお茶タイム。 まったりとした雰囲気漂うその時間に、イルカにそう言ってみたカカシは、辺りを氷点下に放り込むような冷たい視線を向けられてしまった。 「俺にそれを言いますか。というか、それ、意味分かって言ってます?ついでに言えば、発音間違ってますよ」 正確には、Trick or treat.です。 イルカに綺麗な発音で、しかも丁寧に訂正されてしまったカカシはへらりと笑みを浮かべると、手に持っていた湯飲みを卓袱台に置いた。 「図書館であなたに関する事を調べてたら出てきて、でも、意味がよく分からなかったんで、知ってるかなと思って」 「知ってるも何も・・・」 呆れたような口調で、こちらも持っていた湯飲みを卓袱台に置きながらそう言っていたイルカが、途中で言葉を止めたと思ったらニヤと笑みを浮かべた。 人の悪そうな笑み。いや、人ではないらしいから魔性の笑みと言われるものなのだろう。 「・・・意味、知りたいですか?」 こんな顔をした時のイルカはとても妖艶で積極的になるから、カカシはちょっとどきどきしながら頷いた。 「お菓子をくれなきゃイタズラするぞっていう意味なんです。で、残念ながら俺は今、お菓子を持っていません」 「うわ、すっごい残念。お菓子、食べたかったんだけどなー」 二人とも残念だとは思ってもいないくせに笑みを浮かべながらそう言うと、どちらからともなく顔を寄せた。 「ん・・・」 くちゅりと音をさせて舌を絡め合う。 いつだってイルカはカカシを受け入れてくれる。今も、しっかりとカカシの舌に絡ませて、それどころか、カカシを煽るようにその舌を蠢かせる。 何度も角度を変え、互いの唾液を交換し、唇から零れた唾液のぴちゃという音が響き渡り始めた頃。 「ここで?」 キスの合間にイルカがそう聞いてきた。 居間の明かりが煌々とついたところでしても嫌がることはないイルカだが、今日はベッドできちんと愛されたいらしい。 「ベッドに行く?」 絡めていた舌を解いて、それでも唇は軽く合わせたままそう聞いたカカシに、イルカは少しだけ顎を引いて顔を離すと、ふわりと笑みを浮かべて見せた。 淫猥な雰囲気漂う今のこの状況に相応しくない、愛らしい微笑み。 カカシが一発で落ちたその笑みを持つイルカは、可愛らしさの裏にそれとは全く違う顔を隠し持っている。 (笑顔は天使みたいなのにねぇ) 内心でそう苦笑すると、カカシはイルカの手を取り立ち上がった。 向かう先は寝室。 カカシがベッドに座ると、イルカにトンと肩を押された。押されるがまま転がってみると、腰の上にイルカがよいしょとばかりに乗ってくる。 「そこで見てて下さいね」 そう言ったイルカが、着ていたアンダーをあっさりと脱ぎ捨ててしまう。 脱がせたかったのに、という視線をカカシが向けていると、イルカがふっと笑った。 「ハロウィンの日は身体が高ぶって攻撃的になるんですよ。だから、大人しく見てて下さい」 あなたのここも、疼くでしょう? イルカに手を取られ、そこに口付けられて、あぁそうかとカカシは気が付いた。 「ハロウィンだからか・・・」 今日、イルカに関する事を調べていたのも、この手が何となく疼いて仕方がなかったからだ。 イルカと契約した証が存在する、普段は手甲で隠されているこの手が。 もちろん、イルカにも契約した証は存在する。 普段は隠されているその証は、服を脱いでカカシのその手に直に触れられると具現化する。 疼いている手をイルカの胸にそっと置くと、その掌の下からカカシの手にある証と同じ証が浮かび上がった。 綺麗なその紋章は、イルカの名前と同じ意味を持つのだという。 「綺麗だねぇ・・・」 その紋章を見つめてほぅと溜息を吐きながらそう言ったカカシに、少し俯いてカカシのその様子を見ていたイルカが笑みを浮かべた。 名前を褒められたのと同じだから嬉しいのだろう。 笑みを浮かべたイルカが、乗っているカカシの腰から少しだけ体を下げて、カカシのズボンを寛げ始める。 「・・・舐めてくれるの?」 そう訊ねてみると、ちらと視線を上げたイルカに淫猥な笑みを返されてしまい、カカシの胸が高鳴り始める。 ペロと自分の唇を舐めて潤したイルカが、まだ緩くしか勃ち上がっていないカカシのモノをぱくりと咥えた。 「・・・っ」 その巧みな動きに、息が詰まる。 これまで、それを女にされた事は何度もあるけれど、イルカほどの技巧を持つ女はいなかった。 「・・・いつ、そんな事覚えたの・・・?」 初心そうに見えるイルカが、どうしてそんな技を持っているのかが気になって聞いてみると。 「あなたとは生きてる時間が違うんですよ。永い時を生きていれば、そちらの楽しみ方も自然と覚えます」 経験の差、というやつですね。 口を離したイルカにさらりと嫉妬に狂ってしまいそうな事を言われて、カカシはイルカの髪紐を解くとその黒い髪をぐっと強く掴みしめた。 「続けて」 そのままぐいと高ぶってきたモノに押し付けた、乱暴なカカシの手を振りほどく事もせず、イルカが従順に口を開いて再び奉仕を始める。 どんな事をされてもイルカが嫌がらないのは、契約で結ばれた関係だからだろうか。 カカシの言うことにイルカが従うのは、契約に縛られているからなのだろうか。 「・・・っ、もういいよ・・・」 このまま続けられるとイってしまいそうだったカカシは、イルカの真っ赤な唇から、ずるりと大きく育った一物を抜き去った。 「・・・飲みたかったのに」 濡れた唇を親指で拭ったイルカが、そんな言葉を綴る。 「上じゃなくて、下のお口にいっぱい飲ませてあげるから」 そう言って互いの衣服を脱ぎ去ると、カカシはベッド脇に置いてあった軟膏をたっぷりと指に掬い取り、イルカの慎ましやかに閉じている蕾を解し始めた。 カカシの上に膝立ちになっているイルカが、身体を時折震わせながら汗を滲ませ俯いて、その黒髪をさらりと落とし、愉悦に歪んだその顔を隠す。 イルカと契約したことを後悔はしていない。 カカシが死んだ時、この魂はイルカのものとなり、そして喰われるのだ。 本望だと思う。 愛しているイルカの一部になれるのは本望だけれど。 (ホントに愛してくれてるのかな・・・) 契約で愛して欲しいと言ったカカシだから、不安なのだ。 本当にイルカが愛してくれているのかどうか。 「も・・・っ、いい、ですから・・・」 緩んできても、いつまでもそこばかりを弄り続けるカカシの指をずるりと抜き去ったイルカが、カカシの怒張を手に取り自らの身体を串刺しにする為、ゆっくりと腰を落としていく。 「ああ・・・っ」 「・・・っ」 イルカの蠢く内部に取り込まれていくに従って、イルカの背が綺麗に仰け反り、髪がその肩を滑り落ちる。 その様を、少しだけ上体を起こして奥歯を噛み締めじっと見ているカカシの背筋に、びりびりと痺れが襲う。おそらく、イルカにも同じ痺れが襲っているのだろう。 窓の外から差し込む月明かりが、イルカの裸体を照らし、その妖艶さに拍車をかけていた。 |
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