寄り添う心 5







言われたとおり、カカシの着替えを用意して脱衣所の籠へそっと置くと。
イルカは風呂場で湯を使っているカカシには声を掛けずにそこを出た。
何て声を掛ければいいか分からなかったし、全裸のカカシがそこにいると思うと恥ずかしかったから。
そうして、向かう先は寝室。
どこで待っていればいいか分からなくて、少し迷った後、ベッドで待とうと思った。
そう思った事も、カカシに知られていると思うと少し恥ずかしかったけれど。
でも、カカシはそんなイルカを呆れたりなんてしない。
以前触れられた時と同じ、火傷しそうなほど熱いあの瞳で見つめていたから。
「抱けない」とカカシは言ったから、あの日と同じくイルカにだけ愛撫をくれるのだろう。イルカが自分でするよりももっと気持ちのいいあの愛撫を。
あの手を想像すると、期待からか凄く胸が高鳴ってくるけれど。
でも、イルカはそれは嫌だった。
イルカだけなんて嫌だ。
カカシも一緒にがいい。
せっかく一緒にいるのに、一人だけなんて嫌だ。
寝室に入って、電気も点けずにベッドへぽすんと座ると、イルカはそのままころんと身体を横たえた。
結わえていない髪がまだ濡れていて、乾かさないと、とは思うがその前にカカシにお願いをしなければ。
(それは駄目、ですか・・・?)
ここにはいない人に、心の中でそう問いかける。
(俺だけなんて嫌です。俺もカカシ先生に触れたい)
あの時、イルカはカカシの手に翻弄されて、ただ受け入れることしか出来なかった。
カカシの触れる所全てが性感帯になったかのように気持ちよくて。
愛して貰って凄く嬉しかった。
経験の少ないイルカに触れられても、気持ちよくなんてないかもしれないけれど、それでもイルカはカカシに触れたい。愛させて欲しい。
一緒に気持ちよくなりたい。
(触れさせて下さい)
目を閉じて、そうお願いした時だった。
「触ってくれるの・・・?」
囁くような低い声と同時に、イルカの顔のすぐそばに手が置かれた気がした。続いて、イルカの腹のすぐ横の辺りにカカシが座ったのだろう。ベッドがぎしと鳴る。
目が開けられない。どきどきしていて。
気配なんて全く感じなかったし、襖が開く音もしなかったから、急に声を掛けられて驚いたのもあるけれど。
カカシの身体が、多分、目を開けばすぐ近くにあるだろうから凄く緊張していて。
「・・・髪の毛、ちゃんと乾かしてって言ったでしょ?」
風邪ひいちゃいますよ。
そう言ったカカシが、イルカの下敷きになっていたタオルをするりと抜き、濡れた髪を挟み込んで優しく揉み解すように乾かしてくれる。一房づつ。
その心地よい手の感触に、緊張していた体から徐々に力が抜けていく。
身体にまだ残っていた火照りが、その優しい手に触れられてふわふわとした暖かさをイルカにもたらす。
とっても暖かくて心地よくて。
眠ってしまいそうだと思っていたら。
「寝ちゃダメですよ?」
その声とふふと微かに笑う気配に、イルカは慌てて目を開けた。
「一緒に気持ちイイ事するんでしょ?」
少しだけ色を含んだ声と一緒に、イルカが用意した浴衣を着たカカシが、あの熱い眼差しで上から顔を覗き込んでいて。
イルカは、ふわふわと暖かかった身体が一気に熱くなって、かぁと顔を赤らめた。
「・・・はい」
恥ずかしかったけれど、でも、嬉しくもあったから。素直にこくんと頷いた。
そんなイルカの身体をそっと仰向けにさせながら、ゆっくりカカシが近づいてくる。
始まりのキスは、蕩けてしまいそうなほど甘いものだった。
「ん・・・」
キスはあの日から会うたびにしていたけれど、これほど甘いキスは初めてだった。
イルカが欲情しているからだろうか。
下唇を優しく食まれるだけでも、身体に痺れるような快感が走る。甘ったるい声が口付けの合間に唇から漏れる。
(恥ずかしい・・・)
キスだけで、こんなに身体が反応してしまうのが恥ずかしくて、眉根を寄せて快感に耐えていると。
「恥ずかしがらないで」
口付けの合間にカカシがそう囁いた。
「我慢も、したらダメだよ」
オレに我慢しないでって言ったのはイルカ先生でしょ?
ちゅっと軽いキスをして少しだけ離れたカカシに、目を覗き込まれながらそう言われてしまうと反論できなくて。
泣きそうになりながら、目だけで了承の合図を送った。
「ん。いい子だ・・・」
そう言ったカカシが、再びキスを落としてくる。
今度は少し激しい濃厚なキス。
唇の隙間から忍び込んできた舌が、器用にイルカの舌を絡め取って吸い上げる。
「んんっ」
イルカからそんな甘い声を引き出して満足したのか、絡めていた舌を解放した後は咥内を無尽に動き回り、イルカを翻弄した。
身体が熱い。
さっきまでとは比べ物にならないほど。
どんどん熱が溜まっていって、一点に集中し始める。
ゆるりとそこが勃ち始めたのをイルカが感じた途端に、カカシの手が浴衣の上からそこにそっと触れた。
「んあ・・・っ」
いきなり恥ずかしい場所を触られて驚いたイルカが、思わず口付けを解いてしまったが、カカシの唇が追いかけてきて再び口付けられる。
「んん・・・っ、んっ、・・・っ」
咥内を犯されながら、イルカの意識はそこではなく、そこよりもずっと下の方へと行ってしまっている。
すっぽりと手で包まれて、ゆるゆると揉むように刺激されて。たったそれだけで、イルカのオスは硬くなり始める。浴衣を押し上げる。
気持ちよくて、息が上がる。唇を塞がれているから酸素が足りなくて苦しい。
くちゅりと音をさせてキスを解いたカカシが、少しだけ息を乱して見下ろしてくる。手は動かしたまま。
「そんなに気持ちいい・・・?」
訊ねられて、こくこくと素直に頷いた。
だって、カカシにはイルカの考えていることが全て分かってしまうから。隠しても無駄だから。
そんなイルカに、カカシが微かに笑みを浮かべて髪をそっと撫でる。
「・・・ホント、イルカ先生は素直でかわいいね」
そんなあなたが好きですよ。
カカシに好きと言われたのが嬉しくて、イルカもたくさん好きと告げた。
心の中でも、そして声でも。
「俺も・・・好き、です・・・」
荒い息を吐き、恥ずかしがりながらもそう告げたイルカに、カカシは嬉しそうな笑みを浮かべてくれた。
「ん。オレは幸せだね。二種類の声でイルカ先生にいっぱい好きって言ってもらえて」
凄く嬉しいよ。
カカシが頬に手を添えてちゅっと軽いキスを落とす。
「お返しに、イルカ先生にはいっぱい気持ち良くなって貰わなきゃ」
熱い眼差しを向けて、ことさら低い声でそう言ったカカシが、ゆっくりと首筋へと近づいてくる。
頬に添えられていた手が髪をかき上げ、耳を露にすると。
ふぅっと息を吹きかけられて、イルカはびくんと身体を震わせた。
「ココ、好きでしょ?」
ココでいっぱい気持ち良くしてあげる。
イルカもつい最近、カカシによって知らされたとっても弱い耳元でそう囁かれて。
首を竦めたイルカは、涙で潤んだその瞳をぎゅっと閉じた。