寄り添う心 8







優しいカカシの事だから、イルカに気を使ってそんな事を言ったのかとも思ったけれど。
「あのね・・・」
はぁと溜息を吐いたカカシが、側に置いてあったタオルを手に取り二人の濡れた手や身体、イルカの身体に飛び散った二人の残滓を拭いだす。
「イルカ先生のかわいい喘ぎ声と、心の声を同時に聞いているオレの身にもなって?」
オレの心臓、持たないかもってホントに心配でした。
そう言ったカカシの、本当に参ったという表情を見たイルカは、最短記録を更新したというその言葉は本当なのだろうと思った。
(嬉しい・・・)
ついつい緩みそうになる頬を、懸命に抑えていたら。
カカシによって身体を綺麗に拭われた後、ずっと抱え上げられていた足をそっと下ろされたイルカは、下着を穿かされて乱れた浴衣も調えられて。
自らの浴衣も整えてイルカのすぐ隣に横たわったカカシに、ぎゅっと抱きしめられた。
何から何までカカシにさせてしまったのが恥ずかしくて。
顔を合わせないよう、もぞもぞとその暖かい胸に顔を埋めていると、カカシがそっと頭を撫でてくれた。
「・・・すごく嬉しかった。イルカ先生が一緒にって思ってくれて、オレの事をいっぱい想ってくれて」
オレの心臓、鳴りっぱなしでしたよ?
その言葉と、ちゅっと頭に口付けられたのを感じたイルカは、そろそろと顔を上げた。
そんなイルカに、カカシはふわりと笑みを浮かべて、熱くなっているイルカの頬にもちゅっとキスをしてくれる。
「あなたにすごく愛されてるって、死にそうになるくらい実感しました」
そう言ったカカシにぎゅっと抱き寄せられて、少し苦しかったけれどとても幸せで。
イルカはその気持ちをいっぱいに込めた笑みを浮かべた。
「俺も・・・、その、カカシ先生にすごく愛されてるって、今日いっぱい思いました」
今日一日一緒に過ごして、イルカを大事に大事にしてくれるカカシや、イルカの世話を焼きたがるカカシ、それに、イルカの身体を愛おしそうに撫でてくれるカカシを見て。
最後には、あんなに色事に慣れているカカシが最短だったというくらい、イルカと一緒に気持ちよくなってくれて。
すごく愛されているのだと、実感できた。
嫉妬するような事も知ったけれど、それ以上に、イルカを愛してくれているカカシの気持ちを知ったから。
「凄く嬉しい・・・」
こうして一緒にいられて、いろんな事を知れて嬉しい。
カカシの身体に腕を回し、イルカもぎゅっと抱きついた。
身体の疲れと、その暖かい腕の中。
そうしているとだんだんと眠たくなってきて、イルカの身体がぽかぽかと暖かくなっていく。
「・・・もう眠い?」
小さく囁くようにそう言われて、イルカはこくんと小さく頷いた。
眠たい。凄く幸せで、暖かくて。
カカシの胸元にもぞもぞと顔を埋めるイルカに、カカシがふふと笑った気がした。
「寝ていいよ。朝までこうしてるから」
(本当に・・・?)
「ホントに」
もう声を出すのも億劫になってきていたイルカの心の中での問いかけに、カカシがそう答えてくれて。
カカシが手を伸ばしてベッドの端に追いやられていた布団を引き寄せ、二人の上に被せるのを感じながら。
「おやすみ。イルカ先生」
(おやすみなさい)
そう心の中でカカシに告げて、イルカはふわふわした暖かさの中、意識を手放した。



ちゅんちゅんと鳥の鳴く声が微かに聞こえてくる。
あまり遮光効果のないカーテンから、朝日が昇ってくるのが目蓋を閉じていても分かって、イルカの意識は浮上し始めた。
(もう朝・・・?)
さっき心地よい眠りに落ちたような気がしたのだが、もう朝が来たのだろうか。
布団を手繰り寄せ、眩しい朝日から逃れるように顔を隠す。
もっと遮光効果のあるカーテンを買ったほうがいいかもしれない。
毎朝毎朝こう眩しくては、ゆっくり朝寝したい時でも出来やしない。
(でもなー・・・、今月ピンチだしなぁ・・・)
ぼんやりとした頭で、そんな事を考えていたら、
「オレが買ってあげようか?」
なんて、イルカの大好きなカカシの声が、くすくすと含み笑う声と共に聞こえてきて。
一気に目が覚めたイルカは、がばりと布団から跳ね起きた。
「おはよ、イルカ先生」
その声と同時に、起こした身体を引き寄せられて再びベッドに沈められる。
暖かいその腕の中に捉われて、耳元に息が掛かったと思ったら。
「まだ早いから、もうちょっとだけこうしてて?イルカ先生と一緒に朝を迎えられたのがすごく嬉しいから」
ね?
そんな甘い囁きを聞かされて、さらにこめかみにちゅっとキスされたイルカは、かぁと赤くなった。
「・・・おはよう、ございます・・・」
とりあえず朝の挨拶をして、イルカは赤くなった顔を隠すように、もぞもぞとその胸元に顔を擦り寄せる事で了承の意を伝えた。
(幸せ・・・)
ほっこりと身体も心も暖かくて、目の前にあるカカシの胸元にぎゅっと抱きつく。
イルカもカカシ同様、すごく幸せで嬉しかった。
カカシとこうやって朝まで過ごせて。一緒にいられて。
しばらくカカシに抱きついたまま、うとうととまどろんでいたら。
「・・・イルカ先生、朝ご飯作りに行ってもいい?」
と、カカシの声が聞こえてきて、イルカは自分もそろそろ準備をしなければと開きたがらない目を抉じ開けた。
「まだ眠っててもいいよ?」
眠そうに目を擦っているイルカに、身体を起こしたカカシがそう言ってくれたけれど、絡んでいるだろう髪の毛を梳かさなければならないイルカは時間がかかるから。
それに、カカシのアンダーはともかく、ズボンは昨日ぐっしょりと濡れてしまっていたから、イルカの予備を箪笥から出さなければ。
「いえ、もう起きます・・・」
そう言って身体を起こそうとしたら、カカシに止められた。
「あぁ、髪の毛ならオレが梳かしておいたから。ほら、こんなにさらさらだよ?」
イルカ先生の髪、凄く綺麗だよね。
そんな事を言いながら、カカシがイルカの髪に手を差し入れて梳く。
いつもなら、絶対に絡んで引っかかる髪が全然引っかからない事に驚いていると。
「イルカ先生が寝てる間、ずっとこうやってたからね」
なんて、カカシが言うからもっと驚いた。
「もしかして、寝てない・・・んですか?」
「うん。イタズラしちゃってた」
あっさりと頷かれて、そんな事を楽しそうに言われて。
とっても恥ずかしいアレを、寝ている間にされたのかと思ったイルカが羞恥に泣きそうになりながら睨み上げると、カカシがぷっと吹き出した。
「してませんよ。理性が持たないって言ったでしょ?髪の毛梳かしてただけ」
眠るのがもったいなくて。
その言葉にホッとしたけれど、眠っていないというカカシが心配になってくる。
「大丈夫。前にも言ったけど、少しくらい眠らなくても平気だから」
そんなに心配しないで。ね?
心配そうな顔をしているイルカへと、嬉しそうな顔をしながらちゅっとキスを落としたカカシは、ベッドを降りると。
「ご飯作ってくるから、もう起きるなら準備しておいで」
と、起き上がったイルカに言い置いて寝室を出て行った。