愛しき猫 6






その日以来、カカシはイルカに子供たちの様子をよく話してくれるようになった。
受付所で会えばもちろんの事、時々飲みにも誘ってくれる。
七班の子供たちと一緒にいるカカシとばったり会った時なんかは、ナルトにせがまれて皆で一緒に一楽に行ったりもした。
あれほど緊張していたイルカも、カカシが何度も話しかけてくれるうちに、それほど緊張せず打ち解けて話せるようになってきていた。
楽しかった。
少しずつカカシに近づけているような気がして嬉しかった。
でも。
カカシと仲良くなれたのは嬉しかったけれど、カカシが忍犬使いだとカカシから偶然聞いた時はどっぷりと落ち込んだ。
犬の匂いがするだろうカカシに、猫はきっと近づかない。
手紙の人はカカシだと勝手に思い込み始めていたから、忍犬の話を聞いた時はもの凄く落ち込んでしまい、カカシを慌てさせた。
でも。

『きっとあなたが作る煮魚が美味しいんでしょうね。食べてみたいなぁ。こちらでも、私が秋刀魚が好きでよく食べるんですが、この子にしょっちゅう取られてしまいます』

手紙の人からそんな返事が来て、それを読んだイルカは分からなくなってしまった。
(カカシ先生も秋刀魚が好きって言ってた・・・)
手紙の人と同じく優しくて、手紙の人と似た筆跡で、手紙の人と同じく秋刀魚が好きなカカシ。
それだけ考えれば手紙の人はカカシなのに。
カカシが忍犬使いだという事が、手紙の人がカカシなのではというイルカの予想を遠ざける。
手紙の人がカカシならいいのにと、もう何度思ったか知れない事を再び思う。
(カカシ先生じゃないのかな・・・)
手紙を手にうんうん呻るイルカを、膝の上に乗った猫が不思議そうに見上げてくる。
「なぁ、この手紙の人って誰なんだ?お前は知ってるんだろ?」
そう訊ねてみるけれど、猫が答えられるはずがなく。
悶々としたものを抱えながら、それでも、カカシ本人に猫の世話をしているかどうか聞けないでいたら。
中忍試験の事でカカシと言い争いをしてしまった。


言い争いをした日以降、少しは近づいたと思っていたカカシとの距離が一気に遠くなった。
ただでさえ気まずかったのに、中忍試験の際の木の葉崩しで里が大打撃を受けてしまい、カカシどころかイルカでさえも任務に借り出されて忙しくなり、しばらく会うことも出来ず仲直りが出来なかった。
季節が変わり、秋が深まった頃にやっと里も落ち着きを取り戻し始め、イルカは受付業務に戻れたが、カカシはSランク任務を主に請け負っているのか、受付所にはなかなか来なくなっていた。
(淋しい・・・)
カカシと会えない事でこんなにも淋しい思いをしてしまうとは、イルカ自身思いもしなかった。
受付所のカウンターに座っていると、いつも優しい笑みを見せてくれていたカカシの事が思い浮かぶ。
仲直りしたくても、こうも会えないのではそれも出来なくて。

『とても尊敬していた上司と言い争いをして以来落ち込んでしまっています。仲直りしたいのですが、なかなか会えなくてそれも出来ず歯痒い思いをしています。こういう時、どうすればよいのでしょう』

思い悩んだイルカはそんな相談とも愚痴とも取れる手紙を、手紙の人に送ってみた。
すると。

『多分、相手もあなたと同じく仲直りしたいと思っていますよ。会えないのは里の状況が状況だけに忙しいのでしょう。でも、里もだいぶ落ち着いてきたのでもう少ししたらきっと会えます。だから、どうか落ち込まないで』

手紙の人がそう優しく慰めてくれて、それを読んだイルカは涙が溢れそうになってしまった。
カカシとは会えないが、カカシを彷彿とさせる手紙の人とのやり取りは、里が混乱していた間も変わらず続いていた。
その事が、イルカのカカシと会えない淋しさを紛らわせてくれていた。
(早く仲直りしたい・・・)
そうして、以前のように話をしたり飲みに行ったりしたかった。
カカシのあの優しい瞳を、笑顔を見たかった。
会いたかった。
カカシと仲直りをしないまま会えなくなった事で、イルカは自分の気持ちに気づいてしまっていた。
いつの間にか、こんなにもカカシの事を好きになっている自分に。
手紙の人がカカシならどんなにいいか。
ずっと思っていたが、今ほどそう思ったことは無い。
手の中に収まるくらい小さな手紙を読み返す。

『仲直りしたいと思っている』
『もう少ししたらきっと会える』
『だから、どうか落ち込まないで』

カカシに会いたいあまり、イルカの耳に手紙と同じ事を優しく告げるカカシの声が聞こえてくる。
優しく響くカカシの低い声が。
手紙の人からの返事が、まるでカカシからの手紙のように思えて、手紙を読むイルカの瞳にじわりじわりと涙が浮かぶ。
会いたかった。
会って、仲直りしたかった。
「・・・早く会いたい・・・ですっ、カカシ先生・・・っ」
手紙を胸に抱えて、ついにポロポロと涙を零し始めたイルカの頬を、膝の上にいた猫がその身体を伸ばして、イルカを慰めるようにざらりとした舌で舐めてくれる。
そんな猫も一緒に胸に抱くと、イルカはカカシを想いいつまでも泣いた。