愛しき猫 7 12月に入りどんどん寒さが増して、里にクリスマスのイルミネーションが輝き始める頃には、イルカのカカシに会いたいと思う気持ちはますます膨らんでいた。 それに、手紙の人がカカシなのではないかとの思いも。 今年中にはもう会えないのではないか、もしかして嫌われて避けられているのではないか、もう半年近く顔を見ていなくて、体調を崩していないかとても心配だし会いたい。 そんな、恋しい人に会えない泣き言のような事を書いたイルカの手紙に、 『年末にはきっと会えますよ』 『あなたを嫌う人なんていません』 『絶対に大丈夫だから、もう少しだけ待ってみて』 手紙の人から届く返事が、イルカを優しく慰める手紙ばかりで。 それを読んでいると、どうしてもカカシに慰められているような気がして仕方がないのだ。 手紙の人がカカシなのかどうか確かめたいけれど、確かめようにもカカシに会えないのでは訊ねることも出来ないし、会いに行こうにもイルカはカカシの家を知らない。 だけど。 手紙の人の家なら。 いつも手紙を届けてくれる猫が知っている。 (確かめたい・・・) こんなにも優しい手紙の人は、やはりカカシなのではないか。 イルカはそれを自分の目で確かめたかった。 イルカの胸はもう、カカシへの想いで張り裂けんばかりになっていて、苦しくて苦しくて堪らなくて。 ある決意を胸に秘めたイルカは、手紙を携えた猫がやってくるのを今か今かと待った。 『もうすぐクリスマスですね。素敵なクリスマスをお過ごし下さい。あなたに、サンタクロースから素晴らしいプレゼントが届く事を祈っています』 クリスマスまであと数日となったその日、そんな手紙を受け取ったイルカは読んでいた手紙を置くと、膝の上にいる猫をそっと抱き上げた。 そうして、しっかりとその蒼い瞳と視線を合わせる。 「・・・頼みがある。俺を・・・、手紙の人のところまで連れて行ってくれ」 こんな事を猫に頼むなんて、どうかしてるとイルカも思う。 思うけれど。 「会って確かめたいんだ」 手紙の人が誰なのか確かめたい。 イルカの願望でしかないけれど、手紙の人とカカシとの共通点ならいくつかあるから、もしかしたら、手紙の人は本当にカカシかもしれない。 (手紙の人がカカシ先生なら、こいつに手紙の人の家まで連れて行って貰えば・・・) そんな僅かな希望に縋ってでも、イルカはカカシに会いたかった。 だから。 「頼む・・・!」 猫の瞳を覗き込み必死に頼むイルカを、その蒼い瞳がじっと見つめ返してくる。 カカシと同じ深い深い蒼い瞳が。 その蒼い瞳にもカカシを想い起こしてしまい、見つめるイルカの瞳にじわりと涙が浮かぶ。 そんなイルカをいつまでも見つめていた猫が、ぱたりと尻尾を振ったと思ったら。 なぅんと一つ、まるで了承したかのように鳴いてくれた。 すぅと一つ息を吸う。 「変化!」 イルカの声と同時にぼふんと煙を上げて現れたのは、黒い毛並みに黒い瞳の猫。 クリスマス前日となったその日の夜、夕飯を共に食べた猫が不意に窓枠に乗りイルカを振り返って一つ鳴いた。 『あたしについて来るんでしょ?』 猫のそんな声が聞こえた気がしたイルカは、慌てて猫の側に近寄った。 「手紙の人のところに連れて行ってくれるのか・・・?」 その問いに、なぅんと再び猫が鳴くのを聞いたイルカはすぐさま猫に変化したのだ。 猫について行く為に。 違うかもしれない。 イルカの勘違いなのかもしれない。 猫はイルカの願いなんて分かってないのかもしれない。 でも。 イルカが猫に変化したのを確認した猫が、すっと窓から外へ出る。 続いて外に出て、ベランダの柵の上を歩き始めた猫の後をついて歩くイルカの、猫に変化して小さくなった胸が高鳴りだす。 猫がひょいと柵から隣の家の屋根へと飛び移り、迷う事無く早足で歩いて行く。 そんな猫に続くイルカの胸はもう、もの凄くドキドキし始めていた。 (会える・・・) 手紙の人に会えるかもしれない。 いや、きっと会えるのだ。 もしかしたら、カカシかもしれない手紙の人に。 前を行く猫がふと、後をついてくるイルカを気遣うように振り返ってくれる。 (大丈夫) 絶対についていく。 きっと、猫はイルカの気持ちを分かってくれて、手紙の人の所へと連れて行ってくれようとしている。 だから。 先を急ぐように足早に歩く猫を絶対に見失ったりしないよう、一生懸命ついていく。 寒い夜空に、前を歩く猫と、同じく小さな体になったイルカの白い息が漂う。 (会える・・・っ) 期待に高鳴る胸が、痛いほどになってくる。 今日はクリスマスイブ。 イブの夜に、カカシかもしれない手紙の人に会える。 恋人たちが幸せな夜を過ごすイブに、もしかしたらカカシと一緒に少しだけでも過ごせるのかもしれない。 カカシに恋焦がれ続けていたイルカには、その事がとてつもなく嬉しく思えた。 黒い瞳にじわりと涙が浮かぶ。 小さな足に伝わってくる地面の冷たさも、濡れた鼻先が痺れてくるほどの冷たい空気も。 毛に覆われた耳に聞こえてくる冷たい風を切る音さえも。 前を先導するように早足で歩く猫を必死で追うイルカには、全く気にならなくなっていた。 |
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