心からの祝福を 番外編 前編
心からの祝福を 5の朝チュン前の空白部分ですv





薄いカーテン越しに零れる月明かりが、カカシの銀髪を淡く光らせている。
それと。
(綺麗・・・)
ほぅと小さく感嘆の溜息を吐きながら、イルカはカカシの胸元にそっと手を伸ばした。先ほどイルカが付けたばかりのドッグタグを、その指先でゆっくりと撫でる。
銀白の混じった小さな黒耀石も、月明かりに淡く照らされ輝いていた。
カカシがイルカへの愛を誓い、イルカに愛されていたいという願いを込めた黒耀石だ。愛しさが募り、それを瞳を眇めて見つめるイルカの胸に暖かな幸せが満ちていく。
「・・・オレも幸せですよ」
黒耀石を撫でていたイルカの手を、カカシの手が掴む。ゆっくりと引き寄せられる。
「オレを貰ってくれてありがと・・・」
頬に少し冷たい手が添えられ、至近距離でそう囁いたカカシにそっと啄ばむように口付けられたイルカは、その頬をほんのりと染めた。嬉しさから口元が緩む。
お礼を言うのはイルカの方だ。
カカシを愛す事が出来、カカシに愛されているこの幸せがずっと続けばいい。
眠るカカシに口付けながらそう望んだイルカの気持ちを、聞こえていなかったはずなのにカカシは汲み取ってくれた。続けると約束してくれた。
心の中で感謝の気持ちを伝える。そうして、カカシからの優しい口付けを再度、胸を高鳴らせながら受けようと瞳を閉じて待っていたイルカだったのだが、いつまでもやって来ない口付けを不思議に思いそっと瞳を開けて見ると、すぐ近くにあったカカシの深い蒼の瞳が僅かに見開かれていた。
それを見たイルカの首が小さく傾ぐ。
「・・・眠ってたオレにキスしてくれてたの?」
「・・・っ」
イルカから少し顔を離したカカシが嬉しそうにそう問い掛けてくる。途端、イルカはその顔をボンッと一気に染め上げていた。
(うわ・・・っ、俺・・・っ)
眠っていたカカシに口付けていたなんていう恥ずかしい事実を、こうして改めて指摘されるともの凄く恥ずかしい。
出来れば誤魔化したいところだったけれど、それは無駄だと分かっている。見上げてくるカカシから視線を僅かに逸らしたイルカは小さく頷いた。
「はい・・・」
湯気が出そうな程に顔を真っ赤にさせてそのまま俯いたイルカを、笑みを浮かべたカカシが覗き込んでくる。
「凄く嬉しいですよ。イルカ先生からは滅多にキスしてくれないから、眠っていたのが凄く勿体無いけど・・・」
「それは・・・っ」
本当に、もの凄く残念そうにそう言われ、イルカはちょっと慌てた。
確かに、イルカからは滅多にキスをしない。けれど、それにはちゃんと理由がある。
カカシの事が大好きなイルカは、カカシからの口付けをこうして受けるだけでも胸が凄くどきどきして大変なのだ。それなのに自分からキスするなんて。考えただけで心臓が破裂しそうになってしまう。
あの時は、カカシが眠っていて無防備だったから出来たのだ。
ふと苦笑したカカシがイルカの赤くなった頬を撫でてくる。その少し淋しそうなカカシの表情を見たイルカの胸がきゅんと鳴る。
カカシの肩に手を置くと、イルカは僅かに視線を落としながらゆっくりと顔を寄せた。
「・・・イルカ先生?」
「目・・・」
「え?」
「目を瞑ってて下さい・・・」
見上げてくるカカシに囁くようにそう告げ、恥ずかしいですから、と『声』で伝える。
すると、ふと嬉しそうな笑みを浮かべたカカシが、唯一開いていた右目をそっと閉じてくれた。
イルカの目の前に無防備に晒されたカカシの素顔に、再び感嘆の溜息が小さく零れ落ちてしまう。
肌は白いが、男らしい精悍さのある端正な顔立ちだ。イルカが手に触れている肩だって、適度に筋肉がついていて逞しい。
こんなに格好いいカカシが、自分を愛してくれているのが嬉しい。これからも愛し続けると約束してくれた事が嬉しい。
感謝の気持ちも込めて、その唇を啄ばむようにそっと口付ける。
一度、二度と口付けていると、イルカの首の後ろにカカシの手が回された。そのまま軽く引き寄せられる。
「ん・・・っ」
三度目の口付けは、カカシの舌が滑り込み深くなっていた。
舌先を掬われ、絡んできた舌に強く吸われる。そうやってイルカの舌を愛撫しながら、カカシが数度角度を変える。ぴったりと合う位置を探す。そして。
隙間無く唇が合うその位置を見つけ出すと、激しさが一気に増した。
「んん・・・っ」
カカシの口付けは巧みだ。慣れないイルカは付いていくのが大変なのだが、大好きなカカシとのキスは嬉しいから一生懸命付いていく。イルカからも絡ませる。
差し出した舌を強く吸われ、イルカの身体がジンと火照りだしてしまう。
イルカのアンダーの裾からカカシの手がするりと滑り込む。肌が空気に晒され小さく震える。
そのままカカシの手で背中をいやらしく撫でられ、身体の火照りがさらに増す。
カカシに求められているのを感じる。煽られる。
けれど。
(駄目・・・っ。駄目、です・・・っ)
イルカは僅かに息を荒げながらも、懸命にそう訴えた。
少しだが、カカシは怪我をしている。それにここは病院だ。いつ巡回の看護師がやってくるか分からない。
『声』で駄目だと制止するイルカに、口付けを解いたカカシが「ムリだよ」と囁いてくる。
「ゴメンね、止まりそうにない・・・」
イルカの首筋に舌先を伸ばしてくるカカシにそんな事まで言われてしまい、きゅっと眉根を寄せたイルカは身体をブルと震わせた。
拒絶しないといけないのに、カカシの肩に置いた手に力が入らない。身体だけじゃない。カカシに求められて心も喜んでしまっている。
イルカの襟首が可能な限り下げられ、あらわになった首筋をカカシの舌がねっとりと這う。
「んっ、んぁ・・・っ、あ・・・ッ!」
突如襲われた快楽の波に大きな声が出そうになったイルカは、慌ててカカシの肩から手を離し、その手で口元を押さえていた。
背中から前に回ってきていたカカシの手が、胸の突起を探し当て、指先で擦り合わせるようにきゅっきゅっと摘み上げている。身体中に痺れが走り、上がりそうになる嬌声を懸命に片手で押さえているイルカの瞳に、快楽による涙がじわりと浮かぶ。
男でもここが感じる事をイルカに教え込んだのはカカシだ。
「気持ちイイ・・・?」
「ん・・・っ、んっ」
イルカが快楽に堕ち始めているのは分かっているくせに、そんな事を訊ねてくるカカシが恨めしい。口元を押さえたまま、駄目だと再度首を振る。
(誰か来るかもしれないのに・・・っ)
イルカのアンダーに手を潜り込ませ、尖り切った乳首を痛いほどに弄りながら、熱を孕んだ瞳で見上げてくるカカシをきゅっと睨む。
「大丈夫ですよ。まだ巡回まで時間があるから。・・・心配なら結界を張ろうか?」
「駄目・・・っ」
カカシの片手が上げられる。印を組もうとしているのに気付いたイルカは、慌ててその手を掴んでいた。
カカシは、チャクラ切れ寸前になるまで急激にチャクラを使用し倒れた身だ。丸二日も眠っていた。
少し回復して動けるようにはなっているけれど、まだ完全に回復していないのに。こんな事でチャクラを使用したら回復がさらに遅くなってしまう。
「結界を張るくらいなら平気ですよ。それに・・・、オレもだけどイルカ先生ももう止まらないでしょ・・・?」
嬉しそうに告げられたカカシのその言葉に、イルカはかぁと全身を染めていた。
確かにその通りだ。カカシに煽られた身体はすっかり熱を持っていて、このままでは収まりそうにもない。けれど。
(カカシさんのせいなのに・・・っ)
こんな状態になるまでイルカを煽ったのはカカシのくせに、そんな事を言うカカシが信じられない。
「うん。だから、責任取るから。・・・ね?」
「ん・・・っ」
心の中でカカシを責めるイルカの首筋にカカシが顔を埋め、そこにちゅっちゅっと口付けてくる。
カカシの強請るようなその仕草が嬉しいと思ってしまったイルカの手から、カカシの手がするりと抜けていく。そうして。
「あ・・・っ」
イルカの目に止まらない速さで印が組まれ、簡易結界が張られてしまった。