静かな雨 4 七匹の忍犬たちがグルルと呻る。 辺りを漂うカカシの殺気と、今にも飛び掛って来そうな忍犬たちに取り囲まれ、男は自分の発言が命の危機を招いたとようやく気付いたようだった。 「ま、待て・・・っ。私は土の国の大名だぞ・・・っ。私に何かあれば、火の国との外交問題に・・・っ」 男のその言葉にカカシは内心舌打ちした。 よくよく見れば、この男。土の国でも好色家で知られる悪評高い大名だ。 届け先の人物に会った事があるとイルカは言っていた。依頼主にイルカを指名させ、土の国へと呼び寄せたのはこの大名なのだろう。 外遊で会った際にイルカを見初めでもしたのか、任務を無事に終わらせたと見せ掛け、火の国に入ったイルカを抜け忍を使って攫った上、媚薬を盛りその身体を手に入れようとしたこの男。 イルカをこよなく愛するカカシが、そんな男を許せるはずがない。 だが、ここでカカシが感情のままこの大名を屠れば、男の言う通り、両国の外交問題に発展する。 イルカは縛られ媚薬を盛られてはいるが、衣服に乱れは無く幸い無事だ。 「・・・確かにそうだな」 カカシのその言葉を聞いた男が安堵の笑みを浮かべる。 しかし。 「・・・だが、ここは野犬が多い」 カカシのその言葉に呼応するように、忍犬たちの呻り声が増す。 「火の国にお忍びでやって来ていた大名が、隠れ家で野犬に襲われた。・・・それなら外交問題には発展しない」 「な・・・っ」 それを聞いた男が顔色を無くす。 それに冷酷な笑みを浮かべて見せ、カカシは静かな声で忍犬たちへと指示を出した。 「しばらく遊んで貰うといい。但し。・・・殺すなよ」 「ひ・・・っ」 その言葉と同時に忍犬たちが慄く男に一斉に飛び掛る。 男への制裁を忍犬たちに任せ、耳障りな男の悲鳴を余所にカカシはイルカへと視線を戻した。 「・・・イルカ先生、オレが分かる?」 そう声を掛けながらイルカの頬を軽く叩く。その頬が随分と熱く感じるのは、盛られた薬のせいだろうか。 イルカのぼんやりとした瞳がカカシを捉え、虚ろだったその瞳に僅かに光が戻る。 「・・・カカ・・・さ・・・?」 「・・・ん。もう大丈夫ですよ。・・・よく頑張った」 カカシはそう言って小さく笑みを浮かべ、イルカを見つめるその瞳を愛しさから切なく眇めた。 イルカが無事で本当に良かった。 今もその身体を蝕んでいるだろう薬。それに耐えたイルカを褒め、少し乱れた前髪をそっと撫でると、イルカはくしゃりと顔を歪め、その瞳から涙を大量に溢れさせ始めた。僅かに戻っていた光がフッと消える。 「あ、つい・・・、も・・・、イきた・・・っ」 イルカのその言葉に、カカシは目を見張った。 「さわって・・・っ!ここっ、さ・・・ッ!」 身を捩り、カカシへと子供のように強請る言葉を綴っていたイルカが、その途中でハッとした様に言葉を止める。 「イルカ先生・・・?」 瞳を覗き込むカカシを、イルカが見上げてくる。信じられないという表情を浮かべたイルカのその瞳には、再び光が戻っていた。 「・・・ちが・・・っ。違う・・・ッ!」 イルカが激しく首を振る。正気を失った自分が思わず零した言葉が、イルカには信じられないようだった。 カカシの目から隠すかのように小さく丸めたその身体。それがブルブルと震え始め、イルカの瞳が再び虚ろになるのを見て、カカシは不味いなと内心舌打ちした。 薬が強制的にもたらす情欲とそれを否定する理性の間で苦しめられ、イルカの精神が侵され始めているのだろう。 早急に薬を抜かなければ、イルカの精神が持たない。 そう判断したカカシは急いで身体を起こすと、素早く印を組んだ。煙を上げて現れたのは赤い小鳥。 「上忍はたけカカシ、中忍うみのイルカを発見。場所は土の国国境付近の・・・」 頭上を飛ぶ小鳥を見ることはせず、里への現状報告を続けるカカシの視界に映るのは、媚薬に苦しめられている愛しい恋人だけだ。 媚薬の類を抜くには、毒に侵された体液を体外排出するしか方法がない。 だが、イルカのこの状態では自分で体外排出するのは難しいだろう。 「・・・援護及び医療班を要請する。以上」 その言葉と同時に小鳥が屋敷の外へと飛んで行く。それを視界の端に捉えたカカシは、再び印を組んだ。今度はゆっくりと。 キンと僅かな音を立て、辺りに強固な結界が張られる。それまで聞こえてきていた静かな雨音、忍犬たちの吼える声、男の悲鳴が全て途切れ、静寂が訪れる。 結界の中聞こえるのは、イルカの荒い息遣いと部屋の隅に置かれた蝋燭が燃える音だけ。 それを聞きながら、カカシは額当てを取り去り口布を下ろした。雨に濡れるベストすらも脱ぎながら、イルカへと再び身体を倒す。 「・・・イルカ先生」 イルカへとそう声を掛けながら、ホルスターからクナイを取り出したカカシは、イルカの両脚を拘束していた縄だけ解いた。 正気に戻った時、これからカカシが行う行為をイルカは嫌がり暴れるだろう。 だが、今は一刻の猶予もない。解毒に時間は掛けられない。手首に残る赤い擦り傷が痛々しくはあったが、後ろ手に縛られた両手はそのままにした。 カカシの声が届いたのか、イルカがそろそろと視線を向けてくる。 その視界に映るよう身体をさらに倒すと、カカシは手に嵌めていた手甲を咥え取り、その手をそっと伸ばした。イルカの頬を撫でる。 雨に濡れて冷えたカカシの手が心地良いのだろう。イルカが陶然とした表情でその手に擦り寄る。 それを瞳を眇めて見つめるカカシの眉根は、これ以上ない程にきつく絞られていた。 これから、イルカの身体を蝕む毒を排出する。 治療と呼ぶ事も出来るこれからの行為。イルカにその行為を行うのが、他の誰かではなく自分で良かったと心からそう思う。 だが、その反面。 イルカの身体に初めて触れるカカシにとっては、こんな形で触れなければならないこの状況がとてつもなく辛いとも思えた。 「・・・これから解毒します。完全に抜けるまで辛いだろうけど頑張って」 搾り出すようにそう告げ、イルカの頬から手を離す。もうカカシの声も届かなくなっているのか、イルカはカカシのその言葉には反応を返さず、その手を惜しむような仕草だけを見せた。 それに瞳を切なく眇めながら、カカシは僅かに震えるその手をイルカの下肢へと伸ばした。 片手でイルカのズボンの前を寛げていくカカシの瞳には、イルカだけが映し出されている。愛しい愛しいイルカだけが。 その頬に恭しく口付けを落としながら、熱の篭る下着の中へスッと手を差し入れる。 「んぁ・・・っ」 蜜に濡れる欲を握り込んだ途端、イルカの口から上がる悦楽に染まった甘い声。 嫌がらないイルカにホッとすると同時に、カカシに触られていると分からない程になっているらしいイルカに焦りも生まれる。 「んッ、ん、あッ、あぁッ!」 扱き始めると、カカシの手の動きに合わせてイルカが艶やかな声を思うまま上げ始める。 体温がさらに上がったのか、イルカからふわりと立ち昇る体臭が、その上に伸し掛かるカカシを包み込む。 きゅっと引き絞られたイルカの眉。嬌声の合間にくちくちと鳴る音。 嗅覚と視覚、それに聴覚に訴えてくるそれらに下肢を激しく刺激される。沸き起こりそうになる劣情を理性で押さえ込み、カカシは奥歯を噛み締めた。 (何を考えてる・・・っ) 眉根をきつく寄せ、これは治療だと自分に言い聞かせる。 「んぁッ!あッ、アアアッ!」 我慢し続けていたからだろう。イルカは数度扱いただけでカカシの掌にあっさりと遂情した。暖かい精がカカシの手を濡らす。 「ん・・・っ、あっ、んぁ・・・」 扱く手を緩め、ゆっくりと最後まで吐き出させる。 吐き出し切ったのか、大きな溜息と共にくたりと力をなくすイルカの身体。 掌の中のイルカの熱はまだ力を無くしていないが、一度吐き出して少しは落ち着いたのか、イルカの顔に浮かんでいた苦悶の表情が和らぐ。 それを見て、カカシは小さい溜息を零しながら、今まで良く頑張ったと褒めるようにその頬に口付けを落とした。 |
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