正しい犬のしつけ方 4






それから数時間後。
(あ・・・っの、クソ上忍・・・ッ)
日が傾き始めた教室で教卓に凭れ、足を投げ出しているイルカの現状は散々なものだ。
ズボンは下着ごと剥ぎ取られ素肌を晒しているし、アンダーも胸まで捲り上げられていて、その身体には胸から腹を中心にたくさんの赤いキスマークが散っている。
それが隠れるほどの、これまた大量の精があちこちにこびりついていて、乾いた部分が動くたびにピリピリとイルカの肌を刺激してくる。
それほど大量の精を吐き出したのは、カカシ一人でも、イルカ一人でもない。二人でだ。
イルカも散々イかされた。そして、カカシも。
(一回だけって言ったのに・・・っ)
イルカは一回だけと言ったはずなのだが。
カカシは何度も「もう一回」を繰り返し、さらにはイルカの性器だけでなく身体をも弄り始め、最後には慣れない快楽に耐えられず気を失ったイルカを置いたまま、子供たちの所へと向かったらしい。
イルカが気が付いた時には、もういなかったから。
強姦されたような格好ではあるが、あらぬ所に痛みはないから、カカシは最後まではしなかったようだ。
ただ、散々イかされて身体がだるいし、こんな格好では外に出られない。
(どうする・・・)
教卓の陰からちょっと顔を出して、日の傾き具合から時刻を判断すると、イルカははぁと溜息を吐いた。
今日は子供たちの引渡しだけで、後は授業が無かったから良かったものの、だからと言っていつまでもこんな所にいるわけにもいかない。
持っているハンカチで拭えるだけ拭って、残った部分は仕方が無いからそのまま服を着て、帰ってからシャワーで洗い流すしかないだろう。
そう思ったイルカは、溜息を吐きながら側に落ちていた自分のズボンのポケットからハンカチを取り出すと、身体に付いた精を拭い始めた。
(くそ・・・っ、大量に出しやがって・・・)
そうは思っても、半分以上はイルカの出したものなのだろう。
カカシよりも、快楽に弱かったイルカの方が、何度も吐き出してしまっていたから。
ある程度拭い去ると、イルカは動くたびに肌を刺激する乾いた精を忌々しく思いながら忍服を着込み、だるい身体を叱咤してその場を綺麗に掃除してから家に帰った。




それから何日か経った後。
受付所に座るイルカの前に、第七班の報告書を片手に持ったカカシが現れた。
アカデミーに嬉しそうな顔でやってきて、下忍選抜試験に合格したと報告しに来たナルトと会った時にカカシの事をちらとは聞いたが、あの日以来カカシ本人には会っていなかった。
会ったら、あんな事をしたカカシに絶対に文句を言おうと思っていた。
カカシが受付所に入ってきたのを認識してからずっと、ギッと睨みつけているイルカの前に、カカシが恐々と立つ。
「お願いします・・・」
そろそろと差し出されたそれを、奪い取る勢いで受け取ると、イルカは取り合えず受理が先だと、チェックを始めた。
そわそわと落ち着かない様子のカカシに、
「これが終わったらお話がありますので」
と、殊更低い声で、暗に逃げるなよと釘を刺して。
急いで受理を済ませると、「ちょっと休憩」と隣に座る同僚に告げ立ち上がり、ピシと固まっているカカシの首根っこを引っつかんで、イルカの行動に驚いた顔をしている周囲を気にせず受付所を出た。
そして、受付所の隣にある受付所勤務者用の狭い仮眠室にカカシを押し込めて、イルカ自身も入ると。
「・・・座れ」
イルカに引っ張られるがまま大人しく着いてきたカカシに、顎をしゃくって床を示し、ドスを効かせた低い声でそう告げた。
上忍であるカカシに対する態度や言葉遣いでは到底ないが。
(それぐらい怒ってんだッ)
イルカの怒りは深かった。
そんなイルカの怒りに満ちた目を見たカカシが、泣きそうな目をしながらイルカの足元に膝を付き、ちょこんと正座する。
そうして一言。
「ごめんなさい・・・っ」
と、背中を小さく丸めて謝ってきた。
素直に土下座までして謝られて、イルカの怒りが少しだけ引く。
だが。
「・・・謝って済む問題じゃないでしょう?あなた、俺に何をしたのか分かってるんですか?」
とりあえず、敬語だけは戻ってきたが、あんな事をされたイルカの怒りがそれで収まるはずもなく。
カカシに訊ねておきながら、イルカ自ら、された事をぶちまけ始める。
「子供たちが学ぶアカデミーの教室で、子供たちに教鞭する立場のこの俺を、同じく子供たちを指導する立場にある上忍師であるあなたがッ」
言っているうちに、イルカの怒りがふつふつと再燃する。
「殆ど強姦したようなものなんですよッ!?」
はぁはぁと息を荒げて、それでも外に聞こえないよう出来るだけ声を抑えて一気にそう言い切ったイルカに、カカシがさらに背を丸めて、再び「ごめんなさいっ」と謝る。
その姿は、上忍の威厳などどこにもないが。
「素顔くらい見せたらどうですかッ!」
素直に謝っていても、相変わらず顔を隠しているカカシに、怒りが募る。
「本当に反省しているのなら、素顔を晒して、しっかり相手の目を見て謝るのが基本でしょう!?」
アカデミーの子供でも知ってる事ですよッ!
そう続けたイルカに素直に応じたカカシが、慌てて「すみません」と額当てと口布を取り去り、素顔を晒した。
そうしてじっと見上げてくる。
「・・・っ」
それを見たイルカは、ぐっと息を呑んだ。
カカシのその姿が、どうしてかイルカには、これでいい?と主人の様子を伺っている犬のようにしか見えなくて。
(またこれかよ・・・っ)
端正な顔立ちなのに、素顔のカカシを見ると何故か犬が思い浮かんでしまう。
カカシの銀髪の間からフサフサの犬耳が見える気がして、その表情が可愛いなんて思ってしまう。
イルカはとてつもなく怒っているというのに、つい顔が緩んでしまいそうになる。
どうしても可愛らしく見えてしまうカカシのその表情を見ないように、ふいと顔を逸らすと、イルカは再びカカシへの文句を言い始めた。
「・・・だいたい、あの状態の俺を放って帰りますか?子供たちの所へ行くのは仕方ないとしても、あんな格好で気を失った俺を放って帰るなんて・・・っ」
「それは・・・っ、その、子供たちとの顔合わせの後に急に任務が入って・・・。戻りたくても戻れなかったんです・・・」
その言葉に、イルカの怒りがちょっと静まる。
(任務だったのか・・・)
イルカをあの状態で放ったまま帰ってしまうような酷い男なのだと思っていたから、戻りたかったというカカシの言葉に、イルカの眉間にくっきりと寄っていた皺が少しだけ緩む。
任務だったのなら仕方がないだろう。
カカシは、イルカにあんな事をした男ではあるが、忍としてはとても優秀なのだと三代目から聞かされたから。
イルカにした事は到底褒められたものじゃないが、忍としては尊敬に値する男だ。
それに、カカシは上忍なのに、階級が下の中忍であるイルカにこうやって、土下座までして謝ってくれている。
ちらと、泣きそうな顔で縋るようにイルカを見上げてくるカカシを見て、可哀想になってきてしまい、徐々に怒りが収まり始めていたイルカだったのだが。
「あの、あんまり怒らないで?その・・・、イルカ先生が怒るたびにいい匂いがしてて・・・」
勃っちゃいそうなんです。
と、恥ずかしそうに続けたカカシのその言葉に、かぁとイルカの顔が真っ赤に染まった。
羞恥と、怒りから。
(この野郎っ、ぜんっぜん反省してねえッ!)
怒りの再燃したイルカが、カカシをギッと睨みつけ、口を開こうとした時だった。
パシッと手を取られたと思ったら、ぐるんとイルカの視界が回った。