正しい犬のしつけ方 6






「ごめんなさいっ」
ベッドの下。
ズボンの前を寛げたちょっと間抜けな格好で、床に頭を擦りつけんばかりに平伏して謝っているのはカカシである。
それをベッドの上にうつ伏せで寝そべって、きつく睨みつけているのは、服を肌蹴られ殆ど裸同然のイルカ。
その瞳には、少しだけ涙が浮かんでいる。
カカシに強姦されたような格好ではあるが、イルカは最後までヤられてはいない。
散々匂いを嗅がれ、弄られ、舐められて。
カカシと共に果てた瞬間。
快楽に弱すぎる自分があまりにも情けなくて、ちょっと泣いてしまったのだ。
泣き出したイルカを見て、慌ててカカシがイルカの上から退いて、さらにはベッドからも降りて今の状況になっているのだが。
「なんでこんな事するんですか・・・」
ただただ謝るカカシに飽きた頃、はぁと溜息を吐いて聞いてみれば。
「だって・・・」
眉尻を下げたカカシがおずおずと見上げてきた。
「イルカ先生の匂いを嗅ぐと、オレ、発情しちゃうんです・・・」
耳を垂れた仔犬のような表情で、『発情する』なんて、本物の犬のような事を言われて。
しばらくの間、呆気に取られていたイルカだったが、はぁと盛大な溜息を再び吐いた。
(犬みたいな人だとは思ってたけど・・・)
本当に犬だったとは思わなかった。
カカシの銀髪の間から見える気がしていた犬耳が、今のイルカには、はっきりくっきり見えている。
その犬耳を垂れ、くぅんと啼き声すら聞こえてきそうな顔で見上げてくるカカシを、ギッと睨んでみる。
すると、びくぅっと震えたカカシが、首を竦めてイルカを伺う。
犬耳をペタリと垂れ、フルフルと震わせて。
(うわー・・・、かわいい・・・)
ちょっと自分の目がおかしい気がしないでもないが、そう見えてしまうのだから仕方がないだろう。
「・・・分かりました。今回だけは許してあげますから」
そうだ、仕方がない。
動物全般が大好きなイルカは、犬だって大好きなのだから。
「ホントに!?許してくれるの!?」
イルカの言葉に、垂れていた犬耳をピンと立て、ブンブンと尻尾を振っているようなカカシのその表情があまりにも可愛くて。
(叱れないよなぁ・・・)
しっかりと叱って、今後はこういう事はしないようにと言い含めなくてはいけないのに、可愛いその姿に怖い顔が保てない。
ぷっと噴き出すと、イルカは苦笑した。
こくんと頷いて、それから、少しだけ怖い顔をして見せる。
「ただし、もうしちゃ駄目ですよ?」
メ!と、人差し指をカカシへと向けて念を押すイルカに、「うん!」と頷いたカカシが立ち上がる。
「ありがと、イルカ先生っ」
そのままガバリと抱きつかれて、すりすりと頬を寄せられて。
露出したイルカの肌にカカシのふわふわした銀髪が当たって擽ったかった。
「擽ったいですって」
本当に大型犬のような人。
上忍であるカカシに失礼かなとも思ったが、ふふと笑みを浮かべてそっと手を伸ばし、その綺麗な髪の毛をよしよしと撫でてみると。
嬉しそうな表情を見せたカカシに、更にギュッときつく抱きしめられた。
が。
イルカの太腿の辺りに硬いものがコツンと当たる。
(っ・・・まさか・・・っ)
ぎょっとしたイルカが、慌ててカカシの身体を引き離そうとしたが、強く抱きしめられていて離れられない。
「ちょっと!何考えてるんですかっ」
さっき許して貰ったばかりのくせに、またそんな状態になっているカカシが信じられない。
睨むイルカに、カカシが犬耳を垂れて言い訳してくる。
「だって・・・っ」
「だって、じゃないっ!」
必死に抵抗したのだが、快楽に弱いイルカがカカシに敵うわけはなく。
イルカは再び、散々に弄り倒されてしまったのだった。




次の日のお昼休み。
だるい身体を叱咤してアカデミーへと出勤し、何とか午前中の授業を終わらせたイルカは、弁当とお茶の入った水筒を小脇に抱えて、よろよろしながら中庭へと向かっていた。
最後までヤっていないとはいえ、散々弄られてイかされた身体がとてつもなくだるい。
でも、腰周りは散々吐き出したからか、スッキリとしていて。
(複雑だ・・・)
今日何度目かの溜息を吐くと、木陰に座り込んで持ってきた弁当を拡げようとした時だった。
イルカの目の前に、ボフンと煙をあげてカカシが現れた。
「こんにちは、イルカ先生」
カカシの突然の登場に呆気に取られているイルカを気にせず、満面の笑顔でそう挨拶すると、カカシが「隣、座ってもいい?」と聞いてくる。
「あ・・・っと、はい」
呆然としたまま頷いてから、しまったと思った。
昨日、散々弄られたばかりだからしばらく来ないだろうと思っていただけに、突然のカカシの登場に気が緩みすぎた。
イルカの匂いで発情するカカシが近くにいて、何もしないわけはないのに。
(また触られる・・・っ)
そう思ったイルカが、隣に座ったカカシから慌てて距離を取ろうとしたら。
「ああっ!」
カカシに、膝の上に置いていた弁当を奪われた。
「何するんですかっ、返して下さいっ」
「イルカ先生にはこっち」
そう言って、カカシがポンとイルカの膝の上に、高そうな風呂敷に包まれた、まだ温かさの残る弁当らしきものを乗せてくる。
「料亭木の葉の仕出し弁当」
美味しいよ?
そう言われて、ゴクリとイルカの喉が鳴った。
『料亭木の葉』
木の葉の里で、その料亭の名を知らない者はいないだろう。
誰もが、一生のうち一度でいいから行ってみたいと思う程、味に定評のある高級料亭だ。
三代目火影も贔屓にしている店で、イルカも時々そこでご相伴に預かったりする事があるから、その弁当がとっても美味しい事は知っている。
だが。
それが、中忍のイルカの給料ではとてもじゃないが買えない値段だとも知っている。
こんな高い弁当を、カカシから貰う理由がない。
イルカにあんな事をするカカシだから、何かとんでもない見返りを求められそうで、迂闊に受け取ったらいけない気がする。
「・・・頂けません」
カカシのそれまでの行動からそう考えたイルカは、もの凄く食べたいのを我慢して、カカシにそう告げた。