正しい犬のしつけ方 9 居酒屋の個室で二人きり。 そんな状況になれば、カカシはすぐにでも手を出してくるかもしれないと、イルカは警戒していたのだが。 「ま、どうぞ」 端正な素顔を晒したカカシが、ニコと笑みを浮かべて酒を勧めてくる。 「・・・ありがとうございます」 それを、杯を差し出してありがたく受けながら、イルカはカカシを疑った事をちょっと反省していた。 カカシがイルカに「もうしません」と誓ってから、触れるようなキスを一度だけされたが、それからはイルカにベッタリと懐く以外は何もしていないのに。 「個室で二人きりになれるところ」なんて、カカシが思わせぶりに言ったりするから、思いっきり警戒してしまっていたが、個室を選んだのも、二人きりなら素顔を晒して楽に食事が出来るからだったのかもしれない。 (警戒しすぎだな・・・) ちょっと苦笑した口元を杯で隠して、酒を呷る。 口当たりの良い酒に、話上手なカカシとの会話。それに、会話にも態度にも色を全く滲ませないカカシに。 イルカはすっかり油断して、飲みすぎた。 「・・・っは、・・・っ」 耳元で誰かが息を詰める音が聞こえる。 それに、くちゅくちゅという水音も。 (・・・ん・・・?) 眠りから浮上したばかりのぼんやりとした意識の中で、それを聞いていたイルカだったのだが。 すん、という鼻を鳴らす音が首筋の辺りから聞こえて、さらに、はぁと温かい息がそこに掛かり、そのあまりの近さに驚いたイルカは、閉じていた目をパチッと開けた。 「な・・・ッ」 目の前にカカシがいる。その端正な顔に色をたっぷり滲ませたカカシが。 柱に凭れるように座って無防備にも寝てしまっていたイルカの上に覆い被さるようにして、カカシがイルカの肩の辺りに頬を当て、イルカの首筋の匂いを嗅ぎながら、一心に自身を弄っている。 「何して・・・っ」 慌ててカカシから離れようとするイルカを、カカシが片腕で抱きこんで拘束する。 「っ、ごめ・・・っ。触らないっ。イルカ先生には触らないから・・・っ、もうちょっとだけ・・・」 荒い息を吐きながらイルカを見つめてくる、その切なそうな表情に。 縋るようなその声に。 沸き起こった怒りが、一気にどこかへ吹き飛んでしまう。 カカシの言葉通り、イルカの忍服に乱れは少しもない。 「もうしない」と誓った言葉を守っているのか、カカシだけがズボンを寛げ、イルカの匂いを嗅ぎながら切なそうな表情を浮かべて、ただ自身を慰めているのだ。 その姿に、イルカの胸がきゅと締め付けられる。 抗う力が小さくなる。 (なんで・・・) イルカが寝ている隙に、こんな事をしているカカシを叱らなければならないのに。 切ない表情を見せるカカシに、詰る言葉が出てこない。 「・・・っ」 快感を感じたのか、息を詰めたカカシの、イルカを抱きこむ腕がきつさを増す。 自慰をしているカカシに、ぎゅっときつく抱きしめられて、それに煽られたイルカの身体がだんだんと熱くなりはじめる。 今、濡れて音が出るほど一心に自らの怒張を弄っているカカシの手に、過去、イルカのモノを同じ動きで弄られた事を思い出す。 開きっぱなしの唇が乾くのか、ペロと舐めて潤すその舌でたくさん身体を舐められた事を。 はぁっ、と熱い息を吐き出す唇で、身体中に口付けられた事。 そして。 その唇で、そっと触れるようなキスをされた事を。 (・・・っ) かぁと真っ赤になって身体を縮こませたイルカから、カカシを発情させる匂いがたくさん出始めたようで、カカシがしきりにイルカの首筋を嗅いでくる。 「・・・っ」 匂いを嗅がれたイルカの身体が、ぴくんぴくんと反応を返す。 そんなイルカに気づいたのか、カカシにチラと熱い視線を向けられて、さらにイルカの身体が熱くなる。 ますます身体を縮ませて、煽られて勃ち始めたモノをカカシから隠すように膝を引き寄せると、イルカはそこに顔を埋めた。 「・・・っ、ゴメンね・・・」 その耳元でカカシが謝ってくる。すまなそうな声で。 (・・・謝らなくていい) ふる、と小さく首を振った。 イルカは何もされていない。 ただ、匂いを嗅がれているだけ。 イルカの匂いに発情するカカシに、オカズにされているだけ。 それに、今回はイルカが悪い。 イルカの匂いに発情するカカシと一緒にいるのに、無防備に眠ってしまったイルカが。 だから、謝らなくてもいい。 だけど。 (胸が痛い・・・っ) こんなに匂いを嗅いでいるのに手を出さないカカシに、どうしてと思っている自分がいる。 イルカの身体が熱くなっているのは匂いで気づいているはずなのに、匂いは嗅いでも肌に触れないカカシに、早く触れて欲しいと思っている自分がいる。 あれほど、もうするなと言ったくせに。 胸が痛い。 身体に触れてくれないカカシが、息を詰めるたび。 イルカの身体からは聞こえてこない水音が聞こえてくるたび。 カカシが熱い吐息を零すたび。それがイルカの首筋に掛かるたび。 イルカの胸が、痛いほどにきつく締め付けられる。 (なんで・・・っ) 胸元で両手をきつく握り締め、胸を襲う痛みに耐えながら。 カカシが呻き声をあげてイくまで、イルカは理由の分からない涙が零れそうになるのを、懸命に堪えた。 |
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