正しい犬のしつけ方 11 早く「大丈夫」と言わなければ。 こんな声を出してしまう程、昨夜の事を後悔しているカカシに、大丈夫だから、気にしていないからと言わなければと思うのに、声が出てこない。 カカシへと視線を向ける事が出来ない。 後ろめた過ぎて。 自分のあまりの矮小さに情けなくなってきたイルカは、逸らした視線をカカシへと戻せないまま俯いてしまった。 「・・・怒ってる・・・よね・・・」 そんなイルカに、カカシが再び小さく声を掛けてくる。 それには、俯いたまま慌てて首を振った。 (怒ってなんかない・・・っ) カカシは怒られるような事なんてしていない。 言いつけを守ってイルカには手を出していないし、それに、昨夜「ゴメンなさい」と何度も謝ってくれたのだ。 「でも・・・っ」 イルカの耳に、少し強い口調になったカカシの声が聞こえてくる。 「昼休み、中庭でずっと待ってたけど、イルカ先生来なかった・・・っ」 つらそうなその声を聞いた途端、イルカはその唇を再度、今度は血が滲むかと思うほどきつく噛み締めた。 (やっぱり・・・っ) いつだってイルカの仕事が終わるのを、任務が入らない限りいつまでも、忠犬宜しく待つカカシなのだ。 きっと今日だって、中庭でイルカの事をいつものように待っていたはずだ。 昼休みになっても来ないイルカを、まだ仕事中なのかもしれないと思いながら、ずっと。 イルカに謝るために。 そんな事、すぐに分かりそうなものなのに。 いや。 それを分かっていて、イルカは行かなかった。 カカシが中庭でずっと待っているだろう事は分かっていたくせに、昼休みに食堂に行った後も中庭には行かなかった。 中庭を避けた。 カカシに会う事で、イルカが今感じているような後ろめたさを感じたくなかったが為に。 自分の為だけに、カカシに待ちぼうけをさせたのだ。 声だけでも分かるくらい、こんなにもつらい思いをしているカカシを。 (俺は・・・っ) 自分の事しか考えていなかった。 カカシがこんなにも昨夜の事を後悔しているなんて、思ってもいなかった。カカシの気持ちを軽んじていた。 いや、恐らく。 イルカが今日中庭に行かなかった事で、その心をさらに傷つけた。 申し訳ない思いでいっぱいなのに、カカシに掛ける言葉が見つからない。 どんな言葉も、嘘に聞こえてしまいそうで。 「・・・オレがあんな事したから・・・?」 黙り込んだままのイルカに、カカシが小さい声でそう問いかけてくる。 それを聞いたイルカは、咄嗟に顔を上げていた。 「違・・・ッ!」 だが。 泣きそうな程に顔を歪ませているカカシを見た途端、くっと眉根を寄せて再び視線を逸らしてしまった。 「じゃあ、何でッ!」 そんなイルカに、カカシが声を荒げる。 聞いた事もないカカシのその声に驚いたイルカは、ビクリとその身体を震わせた。 「・・・っ。・・・じゃあ、どうして視線を合わせようとしないの・・・?どうして、オレを避けるの・・・」 イルカが驚いたからだろう。 息を呑んだカカシのその声が、途端に小さくなっていく。 返す言葉が見つからない。 居た堪れなくなったイルカが、黙り込んだまま、きつく目を閉じた時だった。 「・・・お願い。オレを嫌いにならないで・・・」 「・・・っ」 イルカは、閉じていた目を見開いた。 カカシの、聞いているこちらがつらくなってしまいそうな程掠れた声が聞こえたと思ったら。 次の瞬間、イルカはカカシの力強い腕に抱き締められていた。 痛いくらいに抱き締められて、イルカの口から切ないほどに震えた吐息が漏れる。 何故か泣きそうになってしまい、きつく眉根を寄せて耐えているイルカの身体を、カカシが何度も何度も抱き締め直してくる。縋るように。 そんなカカシの背に、宥めるようにゆっくりと手を回しかけたが。 「・・・ッ!」 カカシがイルカの首筋に顔を埋めた途端、嗅がれてもいないのに自分の身体に熱が沸き起こるのを感じたイルカは、咄嗟にカカシの身体を突き放そうとした。 腕を突っ張り、カカシの腕の中から逃げようとするイルカの身体を、カカシが、逃がさないとでも言うようにさらにきつく抱き締めてくる。 「離し・・・ッ!」 すん、という音が耳元で聞こえた途端、イルカの身体にジンと痺れが走り、突き放そうとしていた腕から一気に力が抜けた。 たったそれだけで、イルカの身体が完全に火照った事は、既にカカシに知られてしまっただろう。 その証拠に、かぁと真っ赤に染まったイルカの首筋を、何度もカカシが嗅いでいる。 「・・・欲情、してるの?」 しばらくして聞こえてきたカカシのその言葉に、イルカは目の前が暗くなるのを感じた。 「ッ違います!」 慌てて否定したが、イルカのその言葉はきっと何の意味も持たない。 「違わないでしょ?こんなにいい匂いがいっぱいしてる・・・」 身体は正直だ。 イルカの身体は、自らの意思を裏切り、カカシの手を求めて欲情していた。 「・・・昨夜もいっぱいいい匂いがしてた。イルカ先生、ホントはオレに触って欲しかったの?」 少し嬉しそうなカカシの声が図星を言い当て、さらにイルカの身体の熱が上がる。 「違う・・・っ。違うッ!」 懸命に首を振ってみても、快楽に正直なイルカの身体が、その快楽を与えてくれるカカシに媚びるような匂いを放ち始めたのだろう。 「何でそんなに否定するの?こんなにいい匂いがしてるのに・・・っ」 そう言いながら、カカシがしきりに首筋の匂いを嗅ぎ始める。 (嫌だ・・・っ) 嗅がないで欲しかった。 こんなにも浅ましい身体を持つ自分を、カカシに知られたくなかった。 カカシの身体を手で突っ張り、「違う!」と逃げようとするイルカの腕を、眉根を寄せたカカシがきつく握り込んでくる。 「・・・っ、どうしてそんなに拒否するの!違わないでしょ!?」 「違う・・・ッ!」 カカシのその言葉を再度否定し、「離して下さい!」と、カカシから逃げようとするイルカの腕をしっかり掴んだまま、カカシが近くにあった空き教室へと足を向ける。 「・・・そんなに違うって言うなら、確かめてあげる」 「・・・ッ!」 低い声でそう言いながら、その教室にカカシが入ろうとしているのに気づいたイルカは、息を呑み懸命に暴れた。 暴れるイルカをものともせず、扉を開けたカカシが教室へと押し込もうとする。 「い・・・っ、んぅッ!」 嫌だと叫ぼうとしたイルカの唇を、くっと眉間に皺を寄せたカカシが素早く口布を下げ、乱暴なまでの激しさで塞いでくる。 「んぅ・・・ッ!ぁふ・・・っ」 舌を強く吸われて、途端に力が抜けたイルカの身体をカカシが抱える。 イルカの身体を抱きかかえたまま、誰もいない教室の中に入ったカカシは、激しい口付けでイルカの身体から抵抗を奪いながら、ゆっくりとその扉を閉めた。 |
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