正しい犬のしつけ方 17 「なんで・・・」 カカシにイルカの家を教えた覚えは無い。 どうしてイルカの家を知っているのか視線で訊ねるイルカに、カカシが苦笑を向けてくる。 「前に偶然知ったの。匂いでここがイルカ先生のおうちなんだってすぐに分かりました」 そう言ったカカシに「鍵は?」と問われ、イルカはズボンのポケットから慌てて鍵を取り出した。 鍵を開けて中に入り、「どうぞ」とカカシを中へと促す。 サンダルを脱いでいると、中に一歩足を踏み入れたカカシが、玄関先で額当てを取り去りながら大きく息を吸った。 「はー、すっごいいい匂いがいっぱいだ・・・」 そう言いながらうっとりと目を閉じるカカシに、イルカは苦笑した。 「・・・前から思ってたんですけど、どんな匂いがするんですか?」 サンダルを脱いだカカシを居間へと案内しながらそう訊ねてみると。 「ん?あぁ・・・、甘い、蜂蜜みたいな匂いです。オレ、甘いものは匂いも苦手なんですけど・・・」 そう言いながら居間へ共に入ったカカシにそっと抱き込まれた。 「・・・イルカ先生みたいな甘い匂いなら、いくらでも嗅いでいたい」 囁くようにそう言ったカカシに匂いを嗅がれ、イルカの体温がかぁと上がった。 「ねぇ。・・・さっきは場所が場所だったから聞けなかったけど・・・。イルカ先生、オレの事好き、なんだよね・・・?」 「・・・っ」 改めてそう訊ねられて、イルカは羞恥に顔を赤らめた。 何て意地が悪いと思った。 同僚に触られて匂いを嗅がれても感じなかったイルカの身体が、カカシにはこんなにも素直に反応を返している時点で、イルカの気持ちは分かっているだろうに。 「オレに触られて感じるんでしょ?こうやってオレに匂い嗅がれただけでも感じるくらい、オレの事好きなんだよね・・・?」 「そ・・・ッ!」 再度そう訊ねられて、少しカカシから身体を離したイルカは「そんな事聞くな!」と怒鳴りつけようとした。 が、出来なかった。 (あ・・・) カカシが、不安そうに瞳を揺らしてイルカを見つめていた。 「違うの・・・?」 泣きそうな表情でそう訊ねてくるカカシが可愛らしいと思うと同時に、申し訳ないとも思った。 信じられなくて当たり前だ。 これまでのイルカは、身体は素直に反応しておきながら、カカシを拒絶する言葉を散々口にしていたのだ。 急いでブンブンと首を振ったが、それだけでは駄目だ。 はっきりと言葉にしてやらなくては。 「・・・好きですよ。カカシ先生の事が好き、です」 とてつもなく恥ずかしかったが、カカシの瞳をしっかりと見つめ、イルカはそう告げた。 途端に嬉しそうに顔を綻ばせたカカシが、イルカの身体にガバリと抱きついてくる。 「オレもっ、オレも好き・・・っ。イルカ先生が大好き・・・っ」 スリスリと頬を寄せてくるカカシの銀髪をヨシヨシと撫でてあげながら、イルカは苦笑した。 カカシは、言葉にこそしなかったが、随分と前からこうやってイルカに好意を示していた。 いい匂いがするイルカの身体だけが好きなのだと思い込んでいたが、そうではなかったのかもしれない。 「いつから俺の事好きだったんですか・・・?」 そう訊ねてみると、そっと身体を離したカカシが、 「最初からだよ」 そう言って、イルカを愛おしそうに見つめてきた。 「初めてイルカ先生に会った時からずっと好きだった」 そんな事を言われて、イルカの胸が高鳴った。 (そんなに前から・・・) ずっとイルカの事を好いていてくれたのだと思ったら、嬉しかった。 嬉しくて、うっとりとカカシを見つめていたというのに。 「一目惚れ?・・・じゃないな、一嗅ぎ惚れ?もうオレ、イルカ先生以外じゃ勃たないんです」 「は・・・っ?」 そんな事を言ったカカシが、イルカの身体を抱き込んだ。 「さっきも、誰かからイルカ先生のシャンプーと同じ匂いがしたから嗅いでたんだけど、微妙に違ってて・・・」 やっぱり、イルカ先生じゃないと勃たない。 と、イルカの首筋をすんすんと嗅ぎながら、カカシが腰を押し付けてきた。 「ちょ・・・ッ!好きって、匂いだけですか・・・ッ!」 高ぶったソレを押し付けられて沸き起こった怒りに、カカシの腕の中から抜け出そうとしたイルカだったが、ガッチリと囚われていて離れられない。 身体だけなんて嫌だ。 それじゃ、今までと変わらない。 続いて沸き起こってきた悲しみに、涙がじわりと浮かびそうになった時。 「えー?違いますよ。イルカ先生、可愛いもん。すっごい意地っ張りだけど、可愛くて優しい所が大好き」 ニコニコと笑みを浮かべたカカシがそう言って、イルカの身体をきつく抱き込んで来た。 わふわふと飼い主にじゃれ付く犬のようなカカシのその仕草に、可愛いのはそっちだろうと苦笑していたイルカは、カカシの背にそっと手を回した。 嬉しかった。 カカシが好きなのは、身体だけじゃないと言ってくれて嬉しかった。 (そうか・・・) イルカへとカカシが無理矢理触れてきたあの時。 身体はカカシへと好意を向けていたのに、それを否定するイルカにカカシは憤ったのだろう。 『身体はこんなに正直なのに、どうして・・・っ』 あの時のカカシのつらそうなあの言葉。 カカシは、うっすらと気づいていたのだ。イルカの本当の気持ちに。 それをイルカに認めて貰いたくて、強引に触れれば意地っ張りなイルカも認めるかもしれないと思っての事だったのだろう。 それなのに、身体は悦んでおきながら、イルカは最後までカカシを拒絶した。 イルカに好意を持っていたカカシに、好きでもない人とする事じゃないと、同じ気持ちを持っていながら酷い言葉を投げつけた。 あの時、カカシが最後に発した痛々しい声を思い出すと、今でも胸が痛む。 (ごめんなさい・・・) イルカはカカシの心を何度も傷つけたのに、それでもこうやって、イルカの事が好きだと言ってくれるカカシが愛おしい。 ぎゅっと抱きついていると、抱き締め返してくれていたカカシが「あの・・・」と声を掛けてきた。 「・・・なんですか?」 イルカもスリスリと銀髪に頬を摺り寄せながらそう答えを返す。その声にも、カカシへの愛情が滲み出ているような気がしていると。 「もう我慢しなくてもいい?すっごくつらい・・・」 と、微妙に前屈みになったカカシがそう告げてきた。 発情する匂いが充満するイルカの家にやってきて、すぐにでも手を出したかっただろうに、カカシはどうやら自主的にお預けを敢行していたらしい。 イルカにしか勃たなくなったらしいカカシがずっとお預けされていた事を考えると、餓えているだろうカカシに抱かれる事に少し恐怖心はあったが。 それでも。 「・・・我慢しなくてよし」 イルカは笑みすら浮かべてそう言って、カカシへと自ら口付けた。 「ゴメン・・・っ、ベッドどこ・・・っ」 お預けを解除されたカカシが、随分とつらそうな表情でそう言って、イルカの腰を抱え上げる。 余裕のなさそうなカカシが嬉しくて、ハハッと笑い声を上げたイルカは、緊張からか少し震える指先で寝室を指差した。 |
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