恋情に舞う夜 7






イルカの身体から徐々に力が抜けていき、震える手がカカシのベストを掴む。
「・・・イルカ先生、凄く楽しみにしてたし、食事が終わるまでは待とうと思ってたんだけど・・・」
イルカの身体から完全に力が抜ける。すると、ゆっくりと口付けを解いたカカシが、そう言いながら、涙が滲むイルカの瞳を覗き込んで来た。
「食事は後でもいい・・・?」
「・・・っ」
濡れた唇をカカシの指で拭われながらそう訊ねられたイルカは、熱い眼差しで見つめてくるカカシから僅かに視線を逸らした。
(狡い・・・)
イルカが食事どころじゃなくなっているのは分かっているだろうに、こうやってイルカの意思を訊ねてくるカカシは、少し意地悪だとイルカは思う。
けれど、イルカを伺うカカシの表情からは、からかう雰囲気は全く感じられず、意地悪で訊ねているのではないと分かってしまう。
むしろ、眉間に僅かに皺を寄せるカカシは今、その身の内に湧き起こる情欲を懸命に抑えてくれているのだろう。
性急に事を進めてイルカを怖がらせたりしないよう、イルカに心の準備をする時間を与えてくれている。
数はまだ少ないが、二人が身体を重ねるのは今回が初めてという訳ではないのに、未だにこういう時間が存在するのが堪らなく恥ずかしく、そして、少しだけもどかしい。
続きを了承するのは、痛い程に高鳴っている心臓が止まってしまうのではと思うくらい恥ずかしいが、イルカが了承しなければ、カカシは決して先へは進まない。
女性との浮名をいくつも流し、こういう事には慣れているだろうカカシをそうさせたのはイルカだ。
(俺の馬鹿・・・)
こんなにも心優しいカカシを、一度でも拒絶した過去の自分を心の中で詰る。
そうしてイルカは、羞恥に顔を染めながらも小さく頷いた。ホッとしたような溜息を吐いたカカシに、きつく抱き締められる。
「・・・掴まってて」
耳元で短くそう告げられたイルカは、素直にカカシの背に手を回した。イルカの身体を子供のように抱え上げたカカシが、背後にある隣の部屋へと続く襖を開ける。
中へと入ったカカシが襖を閉め、再び暗くなった室内に二組並んで敷かれた布団の一つ。
「・・・っ」
柔らかいその上にそっと下ろされたイルカの顔が、今更ながらにかぁと羞恥に染まった。見下ろすカカシから僅かに顔を逸らす。
一度イルカから了承を得たカカシは、もう止まる事を知らない。
汚いから駄目だとイルカが言っても聞いてくれず、身体中のあらゆる場所に口付け、里一番の技師と云われる器用な手でイルカの快楽を最大限に引き出そうとする。
前に一度だけ、恥ずかしいから止めてくれと頼んでみた事がある。すると。
―――イルカ先生の好きなトコを覚えてるんです。だからダメ。
イルカの恥ずかしい場所から顔を上げ、その瞳を愛おしそうに細めたカカシにそんな事を言われたイルカは、襲い来る羞恥で死ぬんじゃないかと本気でそう思った。
「イルカ先生」
優しい声で名前を呼ばれ、イルカの上に伸し掛かるカカシを見上げる。すると、ちゅっと軽い口付けが降って来た。
カカシはイルカが本気で嫌がる事や、怖がる事、痛い事は決してしない。それを知っているイルカは、そっと瞳を閉じ、緊張で強張っていた身体からゆっくりと力を抜いた。
「ん・・・っ」
迎えるように唇を開くと、すぐさまカカシの舌が忍び込んでくる。口付けされている間にベストを脱がされ、カカシの手がアンダーに掛かった所で、今度は羞恥心で身体が強張った。
「舌、隠さないで。出して?」
途端、口付けを僅かに解いたカカシの低い声が聞こえてくる。
(も、もう・・・っ)
そんな声でそんな事を言わないで欲しい。カカシの甘い声で囁かれると、堪らなく恥ずかしいのに、言われた通りにしてしまう。
おずおずと差し出したイルカの舌を、カカシの舌が絡め取る。強く吸われ、背筋を駆け上がっていく痺れに、ぎゅっと瞳を閉じるイルカの身体がぴくんぴくんと反応する。
「んん・・・っ、ふ・・・ぁッ」
目尻に涙を滲ませ、カカシの口付けを受けるイルカの身体が、不意にびくんと大きく反応した。
アンダーの裾から滑り込んできていたカカシの少し冷たい手が、イルカの脇腹を撫でている。その昔、敵のクナイで負った小さな傷跡が少し残っている場所だ。
こんな小さな傷跡ですら撫でられると感じる事を、イルカはつい最近、カカシから教えられた。
その傷跡をなぞる様に指の腹で撫でていたカカシの手が、ゆっくりと上へと這い上がっていく。それに合わせてアンダーが捲り上がり、イルカの火照り始めた肌が露出する。
(ぅわわ・・・っ、そっちは駄目・・・っ)
カカシの手がどこに向かおうとしているのか分かってしまったイルカは、咄嗟にその手を阻んでいた。ちゅっと水音をさせて口付けを解いたカカシが、カカシの手を阻むイルカに苦笑してみせる。
「手」
柔らかな銀髪を揺らし小さく首を傾げたカカシの短いその言葉に、イルカは懸命に首を振った。
イルカは女じゃない。そこを触られるのは堪らなく恥ずかしい。それに、そこを触られても何も感じない。擽ったいだけなのだ。
けれど、カカシは許してくれなかった。
「手、退かして?イルカ先生の好きなトコだから、可愛がってあげたいんです」
そんな事を言われ、イルカの顔がかぁと羞恥に染まる。
「そ・・・っ、違・・・っ!」
「違いませんよ」
違うと否定するイルカに対し、苦笑を浮かべ、はっきりとそう断言したカカシが、イルカの抵抗をものともせず、その手をイルカの胸元へと伸ばす。そうして僅かな突起を探り当てたカカシの指先が、イルカの小さな乳首をきゅっと軽く摘んだ。
「ァん・・・ッ!」
イルカの身体がビクンッと大きく跳ねる。それと同時に変な声が出てしまい、イルカはその口元を慌てて片手で押さえていた。イルカの瞳が驚きに大きく見開かれる。
(う、そ・・・っ)
数日前まで、そこを触られても擽ったいとしか思わなかったのに。
瞳を大きく見開いたままカカシを見上げるイルカに、カカシがふと笑みを浮かべてみせる。
「イルカ先生、擽ったそうだったけど、擽ったく感じる場所は感じ易い場所でもあるんですよ。こうされると・・・」
「あ・・・ッ!んぁ・・・っ」
カカシの指先がくにくにと卑猥な動きを見せ、イルカの小さな突起がその存在を主張し始める。弄られるたび、身体中が快感という名の痺れに襲われたイルカは、甘い声を上げながらその身を捩った。
「・・・ホラ。気持ちイイでしょ?」
カカシの嬉しそうなその声に反論することが出来ない。身体が反応するのを抑えられない。
息が荒くなり、男なのに乳首で感じているというあまりの恥ずかしさに、イルカの瞳にじわりと涙が浮かんでしまう。
「や、だ・・・っ。恥ずかし・・・です・・・っ」
小さく首を振り、恥ずかしいから止めて欲しいと涙目でそう願うイルカに、カカシがふと苦笑してみせる。その深蒼の瞳が愛おしそうに細められる。
「・・・ゴメンね?イルカ先生が凄く可愛いから、止めてあげられそうにない」
イルカの目尻に口付け、浮かぶ涙を吸い取るカカシからそんな事を言われてしまったイルカは、今日こそは羞恥で死んでしまうかもしれないと本気でそう思った。