繋いだこの手を離さない 11






カカシが普段寝ているのだろうベッドに押し倒され、カカシのものだろう匂いに包まれる。
木の葉の忍という証であるイルカの額当ては、カカシの手によって早々に剥ぎ取られ、黒髪を高く結っていた髪紐も共に解かれた。
ひんやりと冷たかったはずのカカシの手が熱い。
荒々しい口付けの合間にベストを脱がされ、アンダーの裾から忍び込んで来た熱を帯びるカカシの手が、イルカの身体に忙しなく這わされていく。
女性のように柔らかくもない身体だというのに、余裕の無いその様子がカカシの想いの深さを表しているかのようで嬉しい。そして、カカシに触れて貰えるのは、これが最初で最後だと思うと堪らなく切なかった。
「・・・ゴメンね、あまり余裕ない・・・っ」
経験が少なく、カカシに付いて行けていないイルカの事を気遣ってくれているのだろう。口付けの合間に告げられる謝罪の言葉が嬉しい。荒い息の下、涙が滲む漆黒の瞳を切なく眇めるイルカは大丈夫だと首を振ってみせる。
「もっ・・・と・・・っ」
カカシに付いて行けない自分ももどかしいが、それよりも、ほんの少し離れてしまったカカシとの距離が淋しくて嫌だ。掴んだままだったカカシのアンダーを引き寄せ、イルカはもっとと強請る。
「イルカ先生・・・っ」
眉間に浮かぶ皺を深めるカカシが、唸るようにイルカの名を呼びながら、イルカの首筋へと顔を埋める。
「んぁ・・・っ、あ・・・っ」
敏感な首筋にカカシの唇が這わされ、擽ったさを感じると同時に、イルカの背筋をぞくぞくと這い上がって行ったのは、イルカが感じた事が無い程の悦楽だった。
カカシに触れられるたび、しきりに上がる自分のものではないような声が恥ずかしい。掴んでいたカカシのアンダーから手を離したイルカは、ぎゅっと握るその手の甲を、高い嬌声が零れる自らの口元に押し当てる。だが。
「声、我慢しないで。聞かせて」
声を殺すための手は、伸びて来たカカシの手によって退けられてしまった。きつく握り締めていたイルカの拳を押し開くようにカカシの指先が絡み、そのままシーツへと縫い止められる。
「・・・あなたの全てが知りたいんです」
「・・・っ」
その言葉には、声だけでなく、イルカの身体も含まれているのだろう。イルカの首筋から顔を上げるカカシから、怖い程に真剣な眼差しと共にそう告げられ、イルカは小さく息を呑む。
男にしか見えないだろう自分の身体を全て曝け出すのは少し怖い。
そして、これからカカシを受け入れるのだろう自分がどうなってしまうのか分からなくて怖い。
だが、シーツに縫い止められたイルカの手が、カカシの手から逃れる事は無かった。真っ赤に染まる顔を僅かに逸らすイルカの、カカシの節ばった指先に絡め取られている手にゆっくりと力が込められていく。
震えてしまってはいたが、離れたりしないようしっかりと繋いだその手でイルカの意思を汲んでくれたのだろう。
「・・・出来るだけ優しくします」
しばらくして聞こえて来たカカシの静かな、けれど、余裕は欠片も感じられないその声に、これから襲われるだろう嵐を予感したイルカはその漆黒の瞳をぎゅっと閉じた。




イルカの経験は少ない。
誰かと肌を合わせるのは初めてというわけではないが、同性の手に身体を触られるのは初めてだ。未知の感覚に戸惑うイルカの身体をカカシの手が性急に暴いていく。
同じ性を持つからだろうか。カカシによって引き出される快楽は強く、色事にあまり慣れていないイルカには恐怖すら感じさせた。
漆黒の瞳を切なく眇めるイルカの息が荒い。立てた両膝が、その間に忍び込むカカシの手の動きに合わせて小刻みに震える。
「ゃ・・・っ、だ、め・・・っ」
イルカが零した淫らな汁でぬるぬると滑るカカシの手。節ばったその手に感じやすい先端を強く弄られ、イルカは眉根をきつく引き絞る。
自身を慰めた事なら幾度となくあるが、こんな快楽は知らない。
過ぎる快楽が怖くて嫌だ。黒髪を乱しながら首を振るイルカの手が、繋いだままのカカシの手を縋るように握り締める。
「大丈夫だから怖がらないで。いっぱい感じて?イルカ先生」
涙が溜まる目尻に優しく口付けられ、イルカは上に伸し掛かるカカシを恐る恐る見上げた。
(あ・・・)
愛おしそうに眇められている深蒼の瞳を見止めたイルカの身体から、少しだけ強張りが解ける。
怖がる必要がどこにある。この身に触れているのは他の誰でもない。カカシだ。
それを改めて思い知り、カカシを見上げる漆黒の瞳を切なく眇めるイルカは、その身体からゆっくりと力を抜いていく。
「・・・イイ子」
その口元にふと小さく笑みを浮かべるカカシが、カカシの手に身を委ねたイルカを褒めるようにちゅっと口付けてくれる。
「んっ、あ・・・ッ」
ぐちゅと鳴る卑猥な水音。それと同時にイルカの背が反る。
イルカの雄を握り込むカカシの手に力が込められ、今にも弾けてしまいそうな程に張り詰めた熱欲をきつく扱かれたイルカは、その唇から熱い吐息を零した。
カカシの手によって与えられる快楽を素直に受け止めるのはまだ怖い。だが、僅かに躊躇うイルカの手を繋ぐカカシの手に力が込められ、イルカは切なく眇めるその瞳をカカシへと向けた。
徐々に昇り詰めて行くこの先。
イルカを恐怖させるこの先に何があったとしても、カカシと一緒ならきっと大丈夫だ。
繋いだこの手を、カカシはきっと離さないでいてくれる。
快楽に滲む涙の向こう。熱い眼差しで見下ろしてくる深蒼の瞳を見つめながら自分にそう言い聞かせ、イルカは悦楽に染まる声を素直に上げる。
「・・・ぃく・・・っ、・・・っちゃう・・・っ」
嬌声の合間に告げたイルカの小さなその訴えに、愛しいと言わんばかりに細められるカカシの深蒼の瞳。
「・・・ん、いいよ。イって」
その言葉と同時に最も感じる先端を軽く爪で掻かれ、イルカはその瞳をぎゅっと閉じる。
目蓋の裏で光が散る。あまりの悦楽に恐怖に襲われたが、そんなイルカの手をカカシの手はしっかりと繋ぎ離さないでいてくれた。
「・・・ッ、んぅ・・・ッ」
カカシの下でびくびくと、まるで痙攣でもするかのように震えるイルカの身体。
与えられる快楽を素直に受け止めず、我慢していたからだろう。いっぱいに開いた小さな口から勢い良く吐き出される精は大量で、吐精の瞬間、イルカの意識が僅かに遠のく。
「・・・イルカ先生」
全てを吐き出させられた後。カカシから名を呼ばれ、荒い息を吐くイルカは閉じていた瞳を薄っすらと開ける。
いつの間に拾い上げたのだろうか。
イルカの視界の隅。ベッド下へ落とされていたはずのイルカのポーチが映り、そこから軟膏を取り出したカカシが、その蓋を片手で開けながら涙で覆われるイルカの瞳を真っ直ぐに見下ろして来ていた。
「・・・あなたをオレのものにします」
「・・・っ」
イルカの精で濡れる手を軟膏で更に濡らすカカシからはっきりとそう告げられ、イルカは小さく息を呑む。
ゆっくりと伸し掛かって来たカカシが、濡れたその手をイルカの下肢へ伸ばし、そうして触れられたのは、イルカの奥に隠されていた秘所。
(あ・・・)
硬く閉ざすその蕾をカカシの濡れた指先で撫でられ、イルカはその瞳を切なく眇める。
不思議と恐怖は感じなかった。
ただ、嬉しいと思った。
蓮の国行きが決定しているイルカがカカシのものになる事は決して無い。
けれど、今だけでいい。
今だけでいいから、カカシのものになりたい。
そう切に願うイルカの手がゆっくりとカカシへ差し伸ばされ、アンダーを掴むその手でイルカの想いを汲んでくれたのだろう。
その深蒼の瞳を切なく眇めるカカシは、震えるイルカの唇へ優しい口付けを一つ落としてくれた。