繋いだこの手を離さない 12






出来るだけ優しくするというカカシの言葉は本当だった。
イルカが吐き出した精と軟膏の滑りを利用し、イルカの中にゆっくりと埋め込まれたカカシの節ばった指は、イルカに痛みは与えず、多少の異物感と大きな悦楽のみを与えた。
内部に快楽点が在る事は知識として知っていたが、身をもって知る事になろうとは思ってもいなかった。雄を弄られるよりも強い刺激は、慣れていないイルカの意識を混濁させる。
「痛くない?」
耳元から聞こえて来たその問い掛けに、瞳をぎゅっと閉じるイルカは小さく首を振る。
痛みは全く無い。
何本の指が埋め込まれているのかは分からないが、カカシの指を複数本咥え込んでいるイルカの秘孔は、とろとろに柔らかく解れ、カカシが指を動かすたびにイルカの身体に痺れるような快楽を与えてくる。
気持ち良過ぎてどうにかなりそうだ。
そんな事を思い、快楽に染まる漆黒の瞳を薄っすらと開けたイルカは、その上に伸し掛かるカカシの顔に心配そうな表情が浮かんでいる事に気付き、喘ぎ乾くその唇をゆっくりと動かした。
「・・・もち、い・・・んぁッ」
気持ちいいとイルカが伝えた途端、見下ろすカカシの眉間に深い皺が刻み込まれ、イルカの秘孔に咥え込まされていたカカシの指が全て、ずるりと一気に引き抜かれる。
痛みどころか、むず痒ささえ感じていた秘孔を不意に強く擦られ、吐精感に襲われたイルカは漆黒の瞳を大きく見開き、その身体をビクンと大きく震わせた。
ぶるぶると小さく震えながら、吐き出したいという刹那的な欲求に耐えるイルカ手から、それまで決して離れなかったカカシの手が離れ、イルカの両足を腕に抱えたカカシが、イルカの身体をより引き寄せる。
忍服を殆ど剥ぎ取られたイルカの汗ばむ肌にカカシの肌が直接触れ、吐精を堪え荒い息を吐いていたイルカはハッとした。
ゆっくりと見上げたイルカの視線の先。
いつの間にアンダーを脱ぎ去ったのだろうか。そこには、窓から差し込む月明かりに綺麗に鍛えられた上半身を晒し、深蒼の瞳を切なく眇めながらイルカを見下ろしてくるカカシの姿があった。
「イルカ先生」
ゆっくりと身体を倒すカカシから再び手を繋がれ、そっと名を呼ばれたイルカの胸がトクントクンと高鳴っていく。そうして。
(あ・・・)
カカシの指を失い、物欲しそうに息づくイルカの秘所に押し当てられたのはカカシの熱。
「・・・力抜いてて」
「んぅ・・・っ」
イルカを傷付けないようにだろう。一言そう言い置いて始められた挿入は、殊更ゆっくりだった。
だが、カカシの雄は指とは比べ物にならない程に大きく、きつく眉根を寄せるイルカはその奥歯を噛み締める。
痛くて苦しい。
先ほどまでの悦楽はどこかへ消え、身を引き裂かれるような痛みと、内臓を押し上げられるような苦しさがイルカを襲う。
「イルカ、先生・・・っ、息吐いて・・・っ」
受け入れるイルカも辛いが、挿れる側であるカカシも辛いのだろう。繋いだ手に力を込めるカカシから苦しそうな声でそう言われ、その目尻から涙を零すイルカは、詰めていた息を短く懸命に吐き出していく。
(あ・・・つ・・・っ)
ズズと徐々に押し込められていくカカシの雄が熱い。
最も太い部分を通り抜けた後、指で慣らされていた部分までは躊躇い無く進んで来たカカシの雄が、未知の感覚に怯えるイルカの身体がビクンと大きく震えてしまったからだろう。その先へと進もうとして不意に止まる。
奥へ進むか進まないか。
カカシが躊躇っているのが分かり、イルカは涙が滲む瞳をゆっくりと開けた。涙の向こうで息を乱しながらきつく眉根を寄せているカカシへと、イルカは小さく笑みを浮かべてみせる。
「だい、じょうぶです・・・から」
「でも・・・」
この身体にカカシをしっかりと刻み込み覚えておきたいというのに、勝手に怯えるこの身体と、目尻から零れ落ちていく涙が忌々しい。あまり平気ではないくせに、「これぐらい平気です」と強がって見せていたイルカの顔がくしゃりと歪んでいく。
「俺も、はたけ上忍を俺のものにしたいんです・・・っ」
繋いだ手にぎゅっと力を込めてそう告げると、イルカの想いを汲んでくれたのだろう。その口元に切ない笑みを小さく浮かべるカカシは、「分かった」と一つ頷いてみせてくれた。
イルカの目尻から零れ落ちる涙をカカシの指先が優しく拭ってくれる。
「あなたにもちゃんとオレをあげるから。だから、オレの名前を・・・。カカシって、名前を呼んで・・・?」
「あ・・・」
名前を呼んで欲しいとカカシに言われたものの、何と呼べば良いか分からず、イルカは僅かに躊躇う。
年上で、階級だって上であるカカシを呼び捨てにする事なんて出来ない。
「・・・カカシさ・・・ま」
しばらく考えた後にイルカの口から小さく出て来たその呼び名は、カカシの深蒼の瞳を大きく見開かせるものだった。
サクモだとばかり思っていたが、二十年近くもの間、イルカはカカシを神様と呼び慕って来たのだ。それ以外の呼び名は思い付かなかった。
どうしてそう呼ぶのかと訊ねられ、小さく苦笑を浮かべるイルカがそう説明すると、カカシはそれを聞いた途端、端正なその顔を今にも泣き出しそうな程にくしゃりと歪ませた。
それを見たイルカの顔から、浮かんでいた小さな苦笑が消える。
「あなたの神様はオレだったの・・・?」
銀髪を揺らし、小さく首を傾げるカカシから掠れた声でそう訊ねられ、イルカは気付く。
―――・・・あなたにそんなに慕って貰えて、神様が少し羨ましいです。
イルカの都合の良い思い違いなどではなかった。神様に嫉妬するかのようなカカシのあの言葉は、紛れもなくカカシの本心だったのだろう。
カカシの想いはイルカよりもずっと深く、そして、気が遠くなりそうな程に長い。
それを知ったイルカの胸が苦しい程に締め付けられていく。
(・・・どうして・・・、どうして・・・っ)
もう何度、自問したか分からない。
遣り切れない想いに襲われるイルカの切なく眇める漆黒の瞳に、大量の涙が浮かんでは零れ落ちていく。
「・・・カ、カシさま・・・っ、カカシさ・・・んぅっ」
イルカの神様はカカシだ。
小さく何度も頷くイルカの口から、もう呼べなくなるカカシの名が幾度と無く呼ばれ、そんなイルカの唇を、きつく眉根を引き絞るカカシの唇が荒々しく覆っていく。
「ンンン・・・!」
それとほぼ同時にズンッと最奥を穿たれ、イルカの瞳が大きく見開く。
そのまま大きく腰を振り始めたカカシの激しい突き上げで、少し裂けてしまったのだろう。血臭が僅かに漂い、大きく見開いていた漆黒の瞳を切なく眇めるイルカは、だが、その口元に微かに笑みを浮かべていた。
身体の痛みなど、この胸の痛みに比べたら何でもない。
一生消えないよう、この身の奥にカカシをしっかりと刻んで欲しい。
「・・・もっ・・・と・・・っ」
荒々しい口付けの合間、イルカはもっともっととカカシに強請る。
「イルカ、先生・・・っ」
「ひぁ・・・っ」
緩む事を知らないイルカの身体をカカシの雄がぐるりと回し広げ、痛みだけではない感覚を拾い上げたイルカは、その身体をビクンと大きく震わせた。
カカシはそれを見逃さなかった。イルカが反応した部分を逞しい先端で的確に擦り上げ、力を無くしていたイルカの雄を鍛えられた腹筋で擦り育てる。
「誰にも・・・っ」
あなたを誰にも渡さない―――。
荒い息の下、何度も何度も告げられるカカシのその言葉が嬉しくて切ない。激しく揺さぶられるイルカの目尻から、新たな涙が零れ落ちていく。
ギシギシと激しく鳴るベッドの上。
切ない想いを何度もぶつけ合う二人の決して離される事の無い手を、窓から差し込む淡い月明かりが静かに照らしていた。